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パンゲア王国の異端児譚  作者: 霧ヶ原 悠
第三章  魅せる、其は鮮やかなりし舞台なり
11/21



 床に跪く形で現れたアッシュのアニムスは、黒光りする鎧を身に着けていた。紅茶色の髪と瞳を持ち、立ち上がればその身長はアッシュすら越え、体格は細身のアッシュが二人分いるほど幅があった。

 「おおー。すげえ立派じゃん。なんも恥ずかしがることねえよな」

 「たしかにな。……だが、まあ……これはどうなんだろうな」

 「何が?」

 珍しく歯切れの良くないユーウェン。イルダスには最初その意味が分からなかったが、ユーウェンに促されてクラリネスのアニムスを見たとき、ピシッと思わず固まった。

 クラリネスの前に優雅に立っているアニムスは、どうひいき目に見ても身長が百六十センチない。しかも、線の細い華奢な体つき。

 「……え、マジで?」

 「……いっそ笑いしか起こらんな」

 他のクラスメートたちも、二人のアヴァターラの体格差を見て、ひそひそと言葉を交わした。

 「大丈夫か? あれ」

 「さすがにちょっとねぇ……」

 「やっぱり止めさせとくべきだったんだって!」

 クラリネスのアニムスに同情する声が多かったが、意外にも本人は気にしていないようだった。

 「はじめまして、イフミールと言います。今回は、よろしくお願いします」

 見た目通りの、ハスキーな少年の声だった。

 「ああ、こちらこそよろしく頼む」

 そしてお互い軽く一礼する。

 イフミールはウェーブのかかった金髪を揺らしてクラリネスのほうに向き直ると、手をさし出した。

 「じゃあ、行ってくるよ」

 「気をつけてね、イフミール。怪我だけは……」

 クラリネスがそう言いながらイフミールの手に銀の玉を落とす。

 「大丈夫だって。これ、模擬戦だし」

 両手に一つずつ銀の玉を持ち、先端の尖った細身の剣を生成した。

 「心配しないでよ、可愛いクラリネス。君を悲しませるようなことはしないよ」

 「……ええ、分かったわ。いってらっしゃい、イフミール」

 「うん。いってきます」

 イフミールを全面的に信頼しているのか、最終的にクラリネスは、まるで普通の仕事や学校に行く人のときのように彼を送り出した。そんな温かみのあるやりとりとは対称的に、アッシュたちのほうは淡々としていた。

 「任せる」

 銀の玉を投げ渡し、一言だけ声をかける。

 「承知した」

 カルヴァリーレも、銀の玉を受け取って大剣を生成しながら短く返事をしただけだった。

 「うお、あの剣でけえな。お嬢と同じくらいの長さあるんじゃねえの?」

 イルダスが大剣とクラリネを交互に指差して笑った。

 「クラリネス嬢のほうはレイピアか。二本ともとは珍しい。普通は短剣と一緒に使うものだが」

 「まー、あのサイズ差じゃ短剣でもさばききれねえだろ」

 「それもそうか。……しかし、見れば見るほどミスマッチだな」

 大男と少年。大剣と細身の剣レイピア

 「ありゃあ、だいぶ分が悪そうだなぁ。お嬢のアヴァターラ……」

 イルダスがため息をついた。しかし、

 「よーい……スタート!」

 ジロットのかけ声とほぼ同時に、イフミールは走り出した。

 「! 速ぇ!」

 あっという間にカルヴァリーレに迫り、剥き出しになっている彼の眉間にレイピアを突き刺そうとする。それを見て、クラリネスは焦った声を出した。

 「イフミール!? ダメよ、そんな大けがさせちゃ……」

 キンッ。しかし動じる気配もなく、カルヴァリーレは大剣の腹で切先を受け止めていた。

 「……ご挨拶だな」

 「だって、もったいぶって現れたわりにこんなものも受け止められないようじゃ、拍子抜けして面白くないし」

 「そうだな。こちらとしても、お前を買いかぶりすぎていないようで安心した」

 「そっくりそのままお返しするよ。僕も、なめられていないようで安心したよ」

 イフミールはニコッと笑ったかと思うと、右手で鋭い突きを繰り返した。カルヴァリーレはそれを両手で握った剣を左右に振って防ぐ。それが幾度か続いたところで、イフミールが右に大きく足を踏み出した。カルヴァリーレもそれにあわせて剣を動かす。

 キラッとイフミールの目が光った。

 「やぁ!」

 一瞬で左に重心を移したイフミールは、左手のレイピアでカルヴァリーレの右腕を覆っている装甲のつなぎ目を突いた。

 「!」

 カルヴァリーレだけでなく、アッシュもハッと目を見開いた。

 (先手を打たれたか……!)

 とっさにカルヴァリーレは、剣から右手を離してイフミールのレイピアを避けることなく大人しく受けた。ちくりとした痛みが走る。

 そのまますかさず左手一本で大剣を操り、剣の腹でイフミールの頭を狙った。イフミールには大人しく殴られてやる気はなく、レイピアを素早く引き抜くとバク転で距離をとってそれをかわした。

 「キャー! かっこいいわ、イフミール!」

 クラリネスが手を叩いて黄色い声をあげる。さらにそれに応えようと、イフミールは再びカルヴァリーレに向けて疾走を開始した。今度は待ち構えることなく、カルヴァリーレは頭上まで大剣を持ち上げ、振り下ろした。

 「ふんっ!」

 床に当たる直前で剣を止めたことにより勢いが殺されず、そのまま巻き起こされた風がイフミールの小柄な体を襲った。

 「え? うわっ!」

 ちょうど両足が地面を離れているその一瞬の時に風を受けたイフミールは、バランスを崩して立ち止まってしまった。

 (この人、まさかこのタイミングを狙って……?)

 すくい上げるような軌道を描いて、カルヴァリーレの大剣がイフミールに迫る。

 「くっ……!」

 とっさに後ろに飛びすさったものの、完全に避けきることは出来なかった。剣先がわずかにイフミールの服をかすめ、鳩尾に小さな穴があいた。

 体勢を整える隙は与えぬと、カルヴァリーレはそのまま踏み込み、鋭い斬撃を繰り出した。

 右に左に、上に下に。カルヴァリーレは最小限の動きでイフミールをしとめようとするも、ひらりひらりと軽やかにイフミールはかわす。一方のイフミールも、反撃しあぐねていた。カルヴァリーレが剣を返す動作に無駄はなく、付け入る隙がないのだ。

 このまま膠着状態が続くかと思われたとき、イフミールが動いた。

 「ふっ」

 カルヴァリーレの大剣が横になぎ払われたとき、短い呼気を発してイフミールは這いつくばるように床に伏せた。重い一撃がイフミールの頭上を通過する。

 「む!」

 カルヴァリーレが軽く眉根を寄せた。イフミールは全身のバネを利用して跳び上がると、壁を蹴って移動し、カルヴァリーレの背後へ回った。

 「うおお! すげぇ!」

 「やるなあ」

 生徒たちもその運動能力に賛辞を送った。

 「やぁ!」

 勇ましいかけ声とともにイフミールがカルヴァリーレのうなじを突こうとする。

 「甘い!」

 カルヴァリーレはそう言うと左腕を首の後ろに回し、イフミールの一撃を手の甲で受け止めた。そこを覆っていた鎧に小さなヒビが入る音がした。

 ピシッ!

 (先ほどよりも威力がある……。私が防ぐことを予想し、最初から鎧を砕くつもりだったか)

 イフミールはすかさず足を縮めてカルヴァリーレの腕を蹴ると、宙返りをして距離をとった。

 「さすがですわ、イフミール! がんばってー!」

 両手をあげて、相変わらず声援を送るクラリネス。それを見て、イルダスは苦笑を浮かべた。

 「あれだけ応援してもらえれば、アヴァターラ冥利に尽きるよなー」

 「あの体格差で一撃入れられたしな。クラリネス嬢もさぞかし気分がいいだろう」

 「お嬢のアニムスはまさに、『蝶のように舞い、蜂のように刺す』ってかんじだなー。アッシュのほうは繊細かつ力業?」

 「そうだな。しかし、距離が取れたことでまた話は振り出しに戻った。これからお互いどうでるか……お?」

 カルヴァリーレの手元にあるものを見て、ユーウェンが面白そうに片眉を上げた。

 「え? ちょ、ちょっと待って、それ……」

 イフミールはうわずった声でカルヴァリーレを指差した。そこには、イフミールが予想もしなかったものが握られていた。

 「見ての通り、弓だ」

 冷静にそう返すと、カルヴァリーレは矢を放った。

 「うわっ!」

 慌てて首をかたむける。さっきまでイフミールの眉間があったところに、寸分の狂いもなく矢は刺さった。

 それだけではもちろん終わらない。カルヴァリーレは次々と矢を射かけた。カルヴァリーレの持つ弓は、射程距離を犠牲にし、速射性を重視した小型のものだった。

 「避けて、イフミール!」

 イフミールの武器レイピアは、刺突用の剣だ。矢を切り払うことはできない。たまらずイフミールは華麗なステップでそれらを避け続けた。

 「なんで、君が、そんな、ものを?」

 「私たちの武器生成能力は、自由に好きなものを生成できる。そんなに驚くほどのものじゃないだろ?」

 「……そうじゃなくて!」

 足下を狙われたイフミールは、とっさに足を縮めて跳び上がった。そこはちょうど強化ガラスがはめ込まれているところで、彼はさっき壁を蹴ったときと同じようにガラスを蹴って移動した。

 「おお!」

 生徒たちも、奮闘するヒーローが間近にきたせいか盛り上がり、多くがガラスに顔を寄せた。しかしすぐに、イフミールを追ってカルヴァリーレの矢が勢いよく当たり、ガラスを震わせた。

 「うわぁ!」

 「ひっ!」

 何人かが後ずさったり、尻餅をついたりした。

 「あ、危ねえな!」

 「こわ〜」

 冷や汗を拭う生徒たちを、イルダスとユーウェンはニヤニヤと眺めた。

 「いい気味、いい気味♪」

 「粋な真似をするな」

 無差別に矢が射かけられたように見えたが、実はカルヴァリーレは、きっちりアッシュをバカにした生徒たちだけを狙っていた。アッシュのことをバカにしなかった生徒が覗き込んでいたところには、まったく矢を当てていなかったのだ。

 「クラリネス嬢のほうではないが、こうも上手く気を晴らしてくれれば、主冥利に尽きるだろうな」

 室内に目を戻せば、まだカルヴァリーレが射かけてイフミールがそれを避けるということが続いていた。

 「大剣以外のものも扱うなんて……。そんなことができるのか?」

 「一番得意なのは確かに大剣だが、あらゆる武器を使えるように鍛錬はしている。そうすることで、戦い方の幅は大きく広がるからな」

 イフミールの頬を汗が伝う。

 (そんな奴が、学生の使うアヴァターラにいるなんてね……!)

 「お前のほうから距離をとってくれて助かった。あの状況で、私のほうから距離をとれば怪しまれてしまうからな」

 「っ、あまりなめないでくれるかな!」

 イフミールは足場が不安定な壁から床へ降り立ち、向かってくる三本の矢をたたき落とすと、右手のレイピアを全力でカルヴァリーレに投げつけた。

 (? 武器を手放した?)

 カルヴァリーレの意識がレイピアに移った瞬間、イフミールはあいた右手をカルヴァリーレに向け、

 「ニルヴァーナ!」 

 と叫んだ。

 イフミールの手に光が生まれ、矢とカルヴァリーレの姿をあっという間に飲み込んでいった。

 「ぅ……!」

 そのまぶしさに、アッシュも思わず手を目の前にかざした。

 光が収まったとき、最初何が変わったのか当人たち以外は分からなかった。

 「おい、カルヴァリーレ。どうし……!」

 己のアヴァターラではなく、その先を見て、ようやく何が起こったのかをアッシュは理解した。

 光が飲み込む前に宙へ放たれていた矢の動きが、手で掴むことができるほど遅くなっていた。

 「……こ…………れ……は…………」

 カルヴァリーレの喉から漏れる声も、不自然にととぎれとぎれだった。

 「僕の固有能力、ニルヴァーナさ」

 空中をゆっくり飛んでいる矢を一つずつ払い落としながら、イフミールが答えた。

 「ニルヴァーナの光を浴びたものは、その動きが遅くなる。……こういう場でそんなものを使うのは、少し卑怯かと思っていたからあまり使いたくはなかったんだけど」

 不本意だと首を振る。しかし、すぐにすっと残った左手のレイピアを構えた。

 「でも、これも勝負だ。ルールは違えてないし、できれば負けを認めてほしいんだけど。……?」

 イフミールがしゃべっている間も、カルヴァリーレはなおも動こうとしていたので、イフミールは小首をかしげた。

 (何をしようとしているんだ?)

 カルヴァリーレは弓を手放し、顔をやや上に向け、左腕を首に、右腕を額の前に持っていこうとしていた。

 (固有能力の発動? ……いや、違う! まさか!)

 カルヴァリーレの意図に気がついたイフミールは、ダッと一気に加速して距離を詰め、カルヴァリーレののど元に向かってレイピアを突き出す。

 ビシィ! 

 しかし、カルヴァリーレのほうが早かった。腕甲にひびが入ったが、それだけだった。

 「くっ!」

 弾かれてもすぐに、イフミールはカルヴァリーレの死角へ入ろうとする。カルヴァリーレはゆっくりとしか動かない目でそれを追った。

 レイピアを逆手に握って思いっきり振りかぶると、イフミールはそれをカルヴァリーレの右のこめかみに叩きつけた。

 ガキィンと火花が散る。イフミールの攻撃を、カルヴァリーレは二の腕で受け止めていた。

 (くそっ……! やっぱりか……!)

 床に降り立ったイフミールは、ただ歯ぎしりをしてレイピアを握りしめるだけで、次の攻撃を仕掛けようとはしなかった。

 「ど、どうしたの、イフミール?」 

 そんなイフミールを見て、おずおずとクラリネスが声をかけた。

 「どうして急に攻撃の手をとめてしまったの? あ、やっぱり動けない相手に攻撃をするのは気が引けてしまった?」

 おたおたとしている自分の主に、イフミールは苦虫をかみつぶしたような声で答えた。

 「違う。そうじゃないんだ、クラリネス。この勝負、僕は勝てない。いや、正直に負けたと言ってもいいかもしれない」

 「ええ? どうして? なぜそんなことになるんですの?」

 ますます落ち着きをなくしたクラリネスを、後ろからレナが押さえる。

 (なるほど。そういうことか……)

 状況を理解したアッシュも、イフミールの発言の意味はよく分からなかった。

 「俺も同意見だ。確かにお前は勝てなくなったが、それは俺のアヴァターラも同じこと。この勝負は引き分けだと思うが、なぜ「負けた」ということになるんだ?」

 「ディーストンさんまで……。なぜ『勝てなくなった』と言い切ることができるのですか?」

 アッシュが説明しようと口を開きかけたとき、場が膠着したのを見て、ジロットが不思議そうな顔を覗き込ませた。

 「どうした? まだ五分は経っていないし、勝負がついたようには見えなかったが、何か問題でも発生したか?」

 「いえ、勝負はつきましたよ。引き分けで」

 「違います。僕の負けです」

 アッシュとイフミールが同時にそう答え、お互いを不満そうに見る。何がなんだかよく分かっていないクラリネスとジロットは、首をひねっていた。

 「あー、とりあえず、なんでそんな食い違った結果になっているんだ? アッシュ」

 「……まず、派手な手傷を負わせられないこの模擬戦闘実習において」

 ジロットに指名されたアッシュは、ため息混じりに片手をポケットに突っ込んだまま解説を始めた。

 「相手に勝つためには、急所に武器を押し当てて負けを認めさせるか、気絶させるかの二択だ。アヴァターラの身体的構造は人間と相違ないから、どちらの方法をとるにせよ、狙う場所は自然と決まってくる。……さて、イフミールの発動させたニルヴァーナを受けたカルヴァリーレは動きが遅くなってしまった。つまり、なんらかの攻撃を受けても、回避したり反撃したりすることができなくなってしまったわけだ」

 「素早い動きができませんものね」

 ふんふんとクラリネスが頷く。

 「そうだ。そこでカルヴァリーレが選んだのが、防御だ。カルヴァリーレの全身は堅固な鎧で覆われているから、あと守るべきは首から上の部分のみ」

 カルヴァリーレはさっきから少しも動いていなかった。そのマヌケとも見える妙な体勢の意味を知ったクラリネスは、「ああ、」と手を打った。

 「そうでしたのね。後頭部を下げて首の後ろを狙われにくくし、左腕で喉を、右腕で眉間を守っていたのですね」

 クラリネスの理解の早さを意外に思いつつ、アッシュは首を縦に振った

 「そういうことだ。まあ分かりにくいが、実は右腕は左右のこめかみも守っていたりする。ここに関してはほかと比べて防御が弱いが、カルヴァリーレとイフミールにはでかい体格の差というものがあるせいで、イフミールが威力のある一撃を打ち込もうとすれば、どうしても助走や跳躍といった動作が必要になってくる。それが、攻撃を仕掛けるまでに僅かな時間を生んでしまう。どこを狙うかは、数少ない急所だ、動きを見ていればすぐに分かる。カルヴァリーレはまったく動けなくなったわけじゃないからな。少しでも時間があれば、手や腕、なんなら体でも、少し動かしてイフミールの攻撃を防ぐことができる」

 アッシュは肩をすくめ、親指でカルヴァリーレを示しながらイフミールに問いかけた。

 「こいつはお前に攻撃できず、お前はこいつの防御を崩せない。完全なこう着状態だ。どちらも勝つことができなくなったってことで、引き分けだと思うんだが?」

 「……あなたの言うことにも一理ある。けど」

 イフミールはレイピアを解除し、元の銀の玉に戻した。それを握りしめ、悔しそうな笑顔をにじませた。

 「ニルヴァーナを発動する前、僕は完璧に負けていた。そしてニルヴァーナを使っても僕の「勝ち」はなくなった。だから、総合的に見れば僕の負けかなって思うんだよね」

 「……なるほど、事情は分かった」

 それぞれの主張を聞いたジロットは腕を組んで頷いた。

 「だが、判定するオレから見れば、勝負はついてないってことで引き分けだな。じゃ、二人とも自分のアヴァターラを戻して出てくれ。さすがにウェズリーも復活しただろう」

 「はい、分かりました」

 「分かった」

 そしてクラリネスが労いの言葉をかけてから、イフミールを腕輪に戻したのに対して、一方のアッシュは、カルヴァリーレの肩を軽く叩いただけだった。しかし、そこに無情の冷たさは感じられない。クラリネスはその様子を感じ入ったように見つめた。

 「……なんだ?」

 クラリネスの視線に気がついたのか、アッシュは歩きながら彼女のほうに顔を向けた。

 「いえ、素晴らしいなと思いまして」

 「は?」

 一瞬、アッシュの動きが止まる。クラリネスは少し恥ずかしそうに両手で多少赤らんだ頬を覆った。

 「私にとってイフミールは、最初の大事なお友達なのです。ですから、このような場ではつい、はしたなくも応援に熱が入ってしまうのです」

 (ああ。そういえば、ずっとなんか叫んでたな)

 アッシュは実習中のクラリネスの様子を思い返した。

 「ですが、あなたはそのようなレベルですらなく、言葉で言わずとも分かりあえる深い信頼関係があるように見えました。カルヴァリーレさんがニルヴァーナの光を浴びられたあとも、まるで心が通じ合っているかのように、その場を分析していらしてましたし。それがとても羨ましいというか、憧れるようなといいますか……」

 「……」

 「どうすれば、そのような信頼関係を築くことができるのでしょうか?」

 まっすぐなクラリネスの目から、気恥ずかしくなったアッシュは顔をそらした。

 「そういうものは、無理に作るものじゃないだろ。信頼関係のあり方なんて、人それぞれだしな」

 「そうかもしれませんが……」

 「だいたい、俺だってべつにカルヴァリーレと、言葉にせずとも分かりあえているわけじゃないしな」

 「え?」

 これ以上食い下がられてたまるかと、アッシュは足早に実習室を出て行った。

 イルダスとユーウェンが帰ってきたアッシュを迎える。それを見ながら、ふとクラリネスは首をかしげた。

 (そういえば、カルヴァリーレさんの固有能力って一体なんだったのでしょう?)


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