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文化祭アタック③

「……来たな」


姐さんは待ち合わせの場所にちゃんといた。

顔つきはいつも真面目だが、今はもっと堅苦しい感じだ。


「用ってなんすか?」


「まずは断っておく。これから話すことはすべて真面目なことだ。ギャグ等の現実逃避は一切禁止! いいな?」


「は、はい、気をつけます」


いつもはっちゃけている俺にとってシリアス場面は大の苦手。しかし、今日ばかりは勝手が違う。

姐さんはうつむき加減で何やら落ち着かない様子だが決心したのか、俺の方をまっすぐに見る。


「……竜輔さ、本当に、マジで、命をかけてでも俺……私のことが好きか?」


「……」


ここで即答する場面なのは当然だったはずだ。しかし、俺は何も言えなかった。

何故か、何かまずいことでもあるのか?

そういえば前にも似たようなことがあったような……いや、今は今。前は前だ。

姐さんは別にテンパってるわけではないようだ。

そして俺はそれをちゃかして話を逸らそうとは微塵にも思ってはいない。

ちゃんと真面目に答えたかった。

しかし、ふざけた言葉すら出てこない。


「あ……えっと……」


やっと出てきた言葉がこれ。

間違いなく姐さんの不安をあおるような言葉だ。


「私の何処がよくていつもくっついて来るんだ!? 何に惹かれて私と付き合ってんだ!?」


「……」


「どうして黙ってんだよ!?」


「姐さん、俺……」


「そろそろケジメみたいなもん付けときたいんだよ! 本気なのか、生半可な気持ちなのか、はっきりしてほしいんだよ!」


姐さんが真面目に聞いているのはわかっている。しかし、なんだか素直にその問いに答えられない。

ありえないんだ。今まで側にいるだけで幸せだった姐さんへの思いが、徐々に変わってきれいる。

それは姐さんのことが嫌いになったわけじゃない。

姐さん以外の何者かが俺と姐さんの間に割って入ってきて“その人”しか見えていないような。

俺は怖くてその人を見ることはしていない。

そして、それが誰かはわかっていた。でも、怖くて怖くて仕方なかった。

姐さんが、氷見院柳が見えなくなるのが怖かった。

しかし、その人も気になって気になって……

決心はまだつかない。でも、ここで何かを言っておかないと後でひどく後悔するような気がした。


「俺、確かに姐さんのことが好きです。でも……」


「でも?」


「……すいません。うまく言葉にできなくて」


2、3日前に夢を見た。

それは間違いなく過去にあったことであり、今まで忘れていたことだった。





幼い男の子と女の子が座っていた。

俺とやーちゃんだ。

何か都合があってやーちゃん一家(氷見院家)がこの町から離れるようなことになった。

しかし、離れる期間がはっきりしていなくて、もしかしたら何十年も戻れないとかなんとか。

記憶が曖昧だったが、この時の俺たちには今生の別れのごとく暗いムードだった

かと思う。


『わたし……さびしくなんか……ないよ?』


『うそだよ、かおみればわかるぞ!』


『えぇ? そんなわけ……うっく、ないもん。』


『ほら、ないてるじゃん! なきむしやーちゃん。』


『………ないて……ないもん!』


『ほ~ら、ないてんじゃん? いつまでないてんだよ? またあえるかもしれねえだろ?』


『また……あえるぅ?』


『そうそう、またあえるんだぜ? まぁさびしいってんなら……これやるよ!』


そう言って俺はポケットからネックレスのようなものを取り出す。


『……きれい。』


『だろ? かあちゃんのなんだけどさ、やる! だからもうなくな!』


『……泣いてないもん!』


やーちゃんは「おれ」の手からネックレスを受け取って目をこする。

涙は止まるどころか、余計に流れ落ちていった。


『ばか! おれまで……うっく……なきむしに……なっちまうじゃねえかよ』


しばらく2人は泣いていた。

我ながら臭いやりとりをしていたものだ。


『じゃあね……こんどあったときはりゅうちゃんのおよめさんになってあげる!』


『お、おう。でも、なきむしのおよめさんはいらないからな!』


やーちゃんは満足そうな顔をして小指を差し出してきた。


『ゆびきり~!』


俺も小指を出してやーちゃんの小指を絡める。


『ゆ~びき~りげんまん、う~そついたらは~りせんぼんの~ます! ゆびきった』





ずいぶんと前に“姐さんではなかった頃の彼女”とした約束。

今思うとほんとにガキだったなぁと思う。

ガキ頃の約束なんて律儀に守るほどのものじゃない。

けど、ケジメはつけなければ。


「約束……守れそうもないっす」


「……なんだよ、そんな昔のこと覚えてたのか?」


さすがは姐さん、覚えていたようだ。

なら説明はいらないな。


「思い出したのは、ついこの前っす」


姐さんは、“やーちゃん”は約束を果たしてくれた。

“泣き虫”から脱却すること。

いろんな意味で強くなった。

でも、俺は約束を果たせない。


「……やっぱ、“みっちゃん”には勝てないってことか」


『みっちゃん』

美佳の昔のあだ名だ。

しかし、あいつへの感情はどうだろう?

美佳が絡んでいることは間違いないのだが、っと、こんなことを考えていては優柔不断と言われるかもしれない。

あたりが騒がしくなってきた。

キャンプファイアが始まったようだ。


「行かないのか?」


「どこにですか?」


「みっちゃんのとこだよ」


「……いいんです。姐さんへの気持ちは伝えましたけど、次に繋がる部分ではまだ整理ができていないんで」


「そうかよ。ま、中途半端で良い時もあるからな。」


軽快なリズムに合わせて踊りだす生徒が目立ち始めた。


「前のお前なら、俺を引っ張ってあの輪に入っていたか?」


「キャンプファイアを提案したの俺っすから。」


「そっか」


それから暫く2人でその様を眺めて、次第に火が弱まっていく。

祭りもそろそろお開きだ。


『全校生徒に連絡します。今をもちまして岳倉橋文化祭を終了いたします。明日は朝から後片付けを行いますので遅れずに登校してきてください。尚、外も暗くなってきたので……』


春日による放送がグラウンドに響き渡った。

この高校での2回目の文化祭がここで幕を閉じたのだった。

しかし、俺たちのことはまだ終わっちゃいない。


「明日から“りゅうちゃん”、“やーちゃん”で通すのか?」


「むしろ明日からも変わらず、“竜輔”、“姐さん”ってことで」


「そっか……まぁいいか。振られちゃったし……」


そう、俺は姐さんを勝手に好きになって振ってしまったんだ。

罪悪感MAXだ。


「俺ってば、ほんと馬鹿野郎」


「何を今更」


「す、鋭いツッコミ、ナイスです、姐さん!」


「ははは、ば~か!」


姐さんは俺の罪悪感を吹き飛ばしてくれるかのような笑顔で答えてくれた。

俺はなんだか笑えてきた。2人でボケとツッコミをし合い、笑いあって、丸く収まる。

これが俺と姐さんの関係。

このままがいいんだ。


次回最終回(予定)。

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