文化祭アタック②
文化祭兼夏祭り2日目。
俺達は朝から大変だ。
なぜなら部活の出し物があるからだ。別に俺達に難しい仕事はない。
むしろ単純すぎて厄介なだけだ。
「あぁ、ロミ男! どうしてあなたはロミ男なの?」
「……」
ドレスを着込んだ春日が演ずるお姫様が嘆く。
「アァ、ジュリエ、ドウシテキミハジュリエナンダ~!?」
「……」
貴族な服を着込んだ藤原が棒読みで、嘆いたつもりだろうか?
「それは……あなたが憎いからよぉ~~~~!!!」
舞台上の二人はシェークスピアの有名な作品を繰り広げるかと思いきや、双方ナイフ(実物)を構え、じりじりと近寄っていく。
俺達3人はその背景で木の役をしていた。
思った。この『木』の役は絶対いらないと!!
なぜならこの演劇……『ロミ男VSジュリ江 孤島のデスマッチ』は実戦形式の残虐物だからだ。
春日と藤原は華麗な演舞で観客を魅了している。
そりゃそうだ。うちの学校は血の気が多い奴ばかりだ。
そして、話を戻すと、誰一人として寝ていない。総立ちでこの演舞を見ている。
たまにお互いに腕を切ってど派手に流血するが、それは水で薄めた赤色の絵の具だったりする。
R指定だろ……
それでも血が流れるたびに観客は黄色い歓声をあげる。
「ま、俺らに向かってゲラゲラ笑われるよりマシか……」
「それよか俺ら、そろそろ退散したほうがよくね?」
聡の提案はもっともだ。
「俺もその意見に賛成。でないとそろそろナイフが飛んできそうだ」
姐さんも脂汗を浮かべている。
とその時、
ガキン――――――――――
ナイフが、ナイフがナイフがナイフが~~~~~!!!!!
「お、おぉ~~~」
俺は口をパクパクさせるばかりだ。
ちょうど俺の木の枝のあたりの壁に突き刺さったからだ。
逃げられんぞとばかりに春日がこちらをちらっと見た。
「くっ、俺を殺す気か、あいつ!?」
「まぁまぁ、そろそろお終いだぜ?」
飛んできたナイフは藤原が持っていたものだった。
「デキナイヨ、デキナイヨ。ヤッパリキミヲコロスナンテ、ボクニハデキナイ」
よほど練習時間が足りなかったと見える。藤原は最初の台詞どおり棒読みだった。
泣き崩れるロミ男王子様(藤原)。
「なら、ここで私の為に死になさい」
ジュリ江姫(春日)はナイフを振りかぶる。
てか、別に剣じゃないのにあそこまで振りかぶることないんじゃないか?
「ふぁ~あ……はやく終わんないかなぁ~?」
姐さんはなんか余裕に構えている。あのナイフは姐さんを狙ってくるかも……ってないか。
ジュリ江は振り上げたままの姿勢から完全に沈黙している。
「くっ、あなたが相手だと躊躇してしまうわ」
「コロスノデアレバハヤクヤレバイイヨ。デナイト……」
「う、うるさい!! お父様の仇め! 信じてたのに信じてたのにーーー!!」
「マダワカラナイミタイダネ? キミノチチウエハトウノムカシニシンデイル。アレハバケモノダッタンダヨ!?」
「聞きたくない聞きたくない聞きたくない!! 死ねぇーーーー!!!」
ナイフがロミ男の胸につき刺さった。
またまたど派手に血(絵の具)が流れる。
「ジュ、ジュリ……エ……」
「あ、あなたが悪いのよ! あなたさえいなかったら」
「……ボクハ……イマデ……モキミノコト……」
「うるさい! 死ね死ね死ねぇ~~~!!!」
ここからの描写は限りなく残虐なシーンなのでカットしておく。
とにかくそれで幕が下りた。観客席では盛大な拍手が響き渡った。
「って、なんだよ、あの劇は!? 残虐な暴力で藤原死んじまうし!」
「落ち着け、竜輔。あれがウチ流の演劇だ」
「親父殿はとんでもないところに入学させてくれたよ、ったく」
「お疲れさまぁ~~~」
春日はすごく清々しい顔で寄ってきた。
「……」
隣にはボコボコになった藤原がいる。こうしてみるとまるでゾンビだ。
「おーい、藤原ぁ、大丈夫か!?」
「てか棒読みだったな」
「最期のシーンってどうやってたんだ?」
「……最後は本当に殴られてましたよ」
よく見ると顔にアザが無数にできていた。
って、おい!!
「春日ぁ、これはやり過ぎだろ!?」
「あらぁ? 音響さんが風邪でお休みになったから本人が本当に殴ってくれていいって言ったからしたんだけど?」
「って、こら藤原! てめぇはMか!?」
そんなつもりはないと弁解する藤原を白い目で見ておく俺。
まぁいいさ。これであとは最後の後片付けまで自由行動だからな。
「あ、そうそう。キャンプファイアが始まる前にグラウンドに来てくれるかしら?」
「あ? 何でだよ?」
「来たくないならそれでもいいわよ? 来ないと絶対後悔するから」
春日はクールに意味深な言葉を残して控え室を出て行った。
「何なんだ、あれ?」
「はぁ~……鈍感な人ほどあとで苦労しますよ?」
「なんだよ、藤原? 俺は割と人の心が分かるほうだぞ?」
「分かってないですよ」
「てかさ、ぶっちゃけお前、春日のこと好きだろ?」
意表を突いてみた。このネタに藤原が弱いことはすでに調査済み。
思ったとおり、さっきとまるで同じ反応をしめした。
「なな、何を根拠に!?」
「ふふふ……やはりそうか……ムフフ」
「~~~~~~っ、あれ? 氷見院さんがいませんね?」
「あぁ~~~~~!!! 姐さん、俺を置いてかないでぇ~~~~!!!」
くそ、このネタに弱いことは調査済みというわけか……この勝負預けておくぞ、藤原ぁ!!
やっとこさ姐さんと合流。
「遅かったな。藤原とヨロシクやってたのか?」
「な!? 俺にそんな趣味はありませんよぉ」
「あはは、冗談だ。で、これからどうする?」
時計を見る。時刻は12時15分。そろそろ昼飯の時間ってやつである。
そういや、聡と菫ちゃんはどうしたんだろ?
あぁ、デートか……うん、そうだよな。
俺だって姐さんと二人きり~~! ムフフ……
「飯行きます?」
「おう。……あれにするかな?」
姐さんが指差す方向には……
「そば飯……ですか」
「まだ食ったことないんだよなぁ~。行くぞ!」
「はい、お供させていただきます!!」
俺の知識が間違っていなければ、そば飯というのは焼きそばみたいな麺がご飯の上にのっている丼モノのことだ。
食ったことはない。
いやいや、何を迷っているんだ、俺!?
姐さんの決定事項には例えそれが修羅の道だろうと共に歩む所存だ!
モロヘイヤ100%ジュースだって樽一杯飲み干してやるぜ!!
「すいませーん、そば飯2つください」
「はいよ、700円ね」
一食350円かぁ。
さすが学校が主催する行事だけあって生徒には優しい価格だ。
ドンブリ型の発砲スチロールのトレイを2つ受け取って1つを姐さんに渡した。
「サンキュー。さてさて、どんなものやら……」
「……」
まぁ味は普通のそば飯。どう引っくり返そうがご飯の上にヤキソバが乗ってるだけのもの。
しかし、どうしてだろうか?
姐さんはまるで平民が始めてメロンの味を知ったかのような顔でガツガツ食っていく。
もう、見ているこっちがご馳走様だ。
「あの……よかったらこれもどうぞ」
俺の分を差し出した。
「お、悪いな。」
姐さんはガツガツと平らげていく。
俺はただひたすらその光景にどんなリアクションを返せばいいかわからなかった。
たぶん、姐さんはあまりジャンクフードを食べたことがないのだろう。
それならこの前のハンバーガーショップで満面の笑みを浮かべていたことに納得だ。
そういや、姐さんは世界的大企業(お金持ち)のお嬢様。
前にご馳走になったフルコースもなかなかのものだった。
「何か悩んでいるのか?」
姐さんは俺の分も完食した様子で手持ち無沙汰な感じだ。
文化祭なんて面白いもんじゃない。この学校は相当変わっているが、別にどうってことない。
校舎では映画鑑賞やちょっとしたゲーム大会が開かれている。グラウンドで格闘大会という名のデスマッチをやっていたが、それは昨日だけの話。
今は部活単位の模擬店が並んでいるだけ。
「はぁ~、俺の青春……」
「なんだよ? 詩人のつもりか?」
「そんなに感傷に浸ってるように見えました?」
「いや。それに似合わんしな。」
はっきり言ってくれるぜ、姐さん! だが、そこが素敵だっ!!
「さて、これからどうする?」
時刻はまだ12時半を過ぎたところだ。
「そうですねぇ~、キャンプファイアまでかなり時間もありますし」
「菫たちでも探すか?」
「そうですね、あっちもよろしくやってんじゃないっすか?」
「ぶっ!!」
いつの間に持ってきたのか、姐さんは麦茶を引き出していた。
ギャグ漫画のお約束ですか?
「……」
そして、なにやら姐さんの目が怖いです。
これってあれですか? ピンチですか?
「なぁ、竜輔?」
「は、はい?」
「俺さ……」
「菫ちゃんは聡に任せておけば問題ないっす! 俺らは俺らで楽しみましょうよ」
説得はあまり得意じゃない。俺の場合、それは説得というより懇願だ。
姐さんはため息をついてから、深呼吸をして気持ちを抑えているようだ。
やはりまだ妹離れは不完全のようだ。
微かだが黒いオーラのようなものが吹き出ているような気がする。
とにかく、この話はタブーだ。
それから俺と姐さんは当てもなく校舎を彷徨い続けた。
射的で昔のポストの形をした貯金箱をゲットした。
後でわかったことだが、口座を作ったときにもれなくもらえる景品らしい。
たまたま立ち寄った教室で見たかった映画をやっていたので見ることにした。
ラブシーンとグロシーンは自重してほしかった。
あっという間に時間が過ぎていき、文化祭も残すところあと30分。
暇だったから屋上に上がると備品がたくさん置いてあった。
「これまたたくさん置いてありますねぇ~」
「確かに……片付けすんのがめんどくさいな」
「……」
それきり会話が何故か途絶えた。少し困った。
グラウンドを見下ろすと、すでに完売したのか、続々と片付け始める模擬店が増えてきた。
「文化祭も終わりか……物足りないな」
「そうっすねぇ……聡も菫ちゃんも結局見つからなかったし」
携帯にかけてみたが、電源をきっているらしい。
「……」
「あ、春日に呼ばれてたのすっかり忘れてた……」
とは言っても時間に余裕がある。まだ行かなくて大丈夫なはずだ。
「なぁ、竜輔」
唐突に姐さんに呼ばれる。
「何ですか?」
「……会長との用が終わったら……あそこ見えるか?」
姐さんは指差す方向にはちょっとした丘があった。
グランドの隅の方にあって、なぜかてっぺんには旗が刺さっている場所だ。
「あそこに集合な?」
「? はぁ、わかりました」
「ちょいと大事な話があるんでな、あんまり遅くなるなよ?」
いつもどおりの話方なはずなのに、何処か悲しいような、深刻なような。そんな声音だった。
しかし……大事な話って……え?マジで!?
うって変わって、逆の妄想を膨らませていた俺だった。
「遅かったわね? 氷見院さんとイチャイチャしてたってところ?」
「うっせぇ、ちゃんと言われたとおりに来てやったんだ。感謝されることはあれ、難癖つけられる筋合いはねぇよ!」
「あらあら、相変わらず汚い言葉遣い」
一々ムカつく口調な春日。俺がこいつを嫌う理由の一つだ。
俺は今キャンプファイアの会場にいる。ようはグラウンドの真ん中だ。
「さて、約束は約束だし……ね?」
「な、なんだよ?」
意味深な言葉を投げかける春日にただただ混乱するばかりだ。
「これよ」
ポケットから写真とネガが出し、俺に押し付けてきた。
「これは……」
おそらく俺の誰にも見られたくないスクープ写真百選。
実際は厳選も何も撮ったもの全てだろう。
この前、こいつで脅された恨みを忘れちゃいないぜ、ちくしょう!
「好きにしなさい。これで私が握っているあなたの弱みはないわ」
「……何を企んでやがる?」
「あら、心外ね。私は約束を果たしただけよ? これ、組み立てた報酬とでも言うと語弊になるけど」
そういって、積木を叩いた。
「あぁ、そういやそうだったな。しっかし、まさかお前は約束を守るなんてな」
「それまた聞き捨てならないわ。私は基本的に合理的で優しい性格なのよ?」
「それこそ聞き捨てならねぇ! 合理的はいいが、優しいってなんだよ!?」
「一々無礼な人……生徒会長として生徒の意見を聞き入れ、学校に反映させているのはこ
の私。と言ってもあなたにはどうも見えていなかったらしいわね」
まぁ確かに。俺は姐さんのことで頭が一杯だった。生徒会なんて今まで自分に全く関係ないものと思っていたからだ。
しかし、俺は夏休みに演劇部に入り、生徒会の実情を知った。
この春日も例外ではなく、皆一生懸命に文化祭の準備をしてきた。
ならこいつの言っていることに嘘偽りはない。
「そっか……ご苦労様」
「へ?」
春日にしては素っ頓狂な声を上げた。
それがおかしくて俺は思わず噴き出してしまった。
「ぷっ、あっははは、お前でもそんな声あげんのな?」
「あ、あったり前じゃない! 何、人をロボットみたいに……」
ムキになるところが美佳とよく似ていることに内心びっくりした。
「まぁなんだ、昨日と今日と、いい日だったよ。これも生徒会のお陰だな?」
「……そんなことないわよ」
「少なくとも俺はそう思ってる。春日は偉いよ」
「お、煽てたって何もでないわよ!?」
顔を真っ赤にして大声を上げている。
こいつ、いつもこうなら可愛いんだけどな……
ま、俺には美佳には敵わないけど……ん?“美佳”? 何だって美佳なんだ?
ここは美佳ではなく、姐さんが出てくるはずなのに何だってまた……
「どうしたの?」
春日の声にふと我に返った。
「あ、俺、姐さんに呼ばれてんだった」
「そ。じゃあまた明日ね。片付けは生徒皆でやるんだからね?」
「わかってるっつの! んじゃまた明日」
不思議だった。あんなに嫌いだった春日に向かって『また明日』なんて言葉が自然に出てくるなんて。
さっきから妙だ。何か嫌な胸騒ぎがする。
このまま姐さんと会っていいのか?
いつの間にか力強く握り締めていたネガがグチャグチャになっていた。
「あ、りゅうくんだ! お~い!」
姐さんとの待ち合わせの場所に行く途中、厄介な人物に会ってしまった。
RPGで言うところのボスの前は出来るだけ敵を遭遇したくない的な状況でのエンカウントだ。
見ないなぁと思ったらこんな時に……
「一人でどうしたの? まさか私を探してくれてたとかぁ?」
おとちゃんは目を輝かせて聞いてきた。
「それはない!」
「そ、そんなストレートに言わなくたって……え~ん」
「嘘泣きしてもダメ~。おとちゃんは今日は一人だったの?」
「う~ん、この学校の男ってどれも品がないし、汚い奴ばっかで趣味じゃないのよね~?」
「……」
毒舌。今日はじめて姉はこんなダークなキャラだということを知りました。
「って、あれ? 他の男に興味もったの?」
「これでもりゅうくんに気をつかってるつもり……はやく行ってあげなさい。待たせてるんでしょ?」
「あ、そうだった。じゃあまた後で~」
「……りゅうくん」
呼び止められた。何さ、俺に待ち人がいるって知ってるくせに……
「りゅうくんがどんな道を選ぼうと私はりゅうくんを信じてるから」
「はい?」
「後悔しない道を選びなさいってことよ! じゃ、頑張ってね~」
意味深な言葉を投げかけるおとちゃん。
俺は約束の場所へ歩を進めた。
前回から随分と間が空いてしまいました。
次回でとりあえず一区切りですが、エピローグ的なものを含めて残り2回で完結予定です。




