夏休みアタック⑤
時代錯誤な内容がありましたので、補足しておきました。
「木」の製作が終わったので今日は解散することにした。
しかし、それで本日の予定が終わるはずもなく、聡の特訓に付き合わされているわけだ。
本日のギャラリーは勿論、姐さんと……いつ沸いて出てきたのか、おとちゃんがいる。
なんだってまた……
「隙あり!!」
「ぐふっ……」
聡の手刀が俺の腹に食い込む。
てかさ、手刀の使い方が絶対違うから!
「そうなのか?」
「うむ、それでは……いてて……手首を傷めるぞ……? やるなら拳又は肘!」
「お、おう。わかった!」
そんな子供だましな特訓が1時間くらい続いて今日はおひらきになった。
「しっかし、聡も手加減がないなぁ~。俺ってばこの夏もつのかな?」
「ははは、どうだ思い知ったか!」
すぐ調子に乗るとこ以外はすごく上達したように思える。
「よし、今度俺が付き合ってやる。ふふふ……」
姐さんはなんか燃えている。まるで買ってもらったばかりのゲームに目を輝かせている感じだ。
まぁそういう姐さんも悪くないかな?
「なんで鼻の下伸ばしてるのかなぁ~?」
おとちゃんが少し怒った顔でつっついてきた。
こらこら、そんな顔をしているとシワが、あいてて!
「誰のシワよ!?」
プライドはあるらしい。
そうだよな。
……ん? あれは……
交差点に来て向こう側の歩道で男女が歩いているのが見えた。
普段なら気にも留めない俺だが、今日に限っては路上に500円玉が落ちていたかのように際立って見えた。
「文字通り現金な奴。(ボソ)」
「この際、そんな突っ込みはいらない!」
聡も気づいていたらしく、俺と一緒に駆け出す。
勿論、2人には気づかれないようにだ。
「あ、ちょっと、何処行くのよ!?」
おとちゃんも追いかけてきた。
あまりに大きな声で叫ぶものだから気づかれてしまったかもと冷や汗もかいたが、察してくれたらしく、なんとかなったみたいだ。
「あれって……会長と藤原か?」
「そうみたいだな」
「ふぅ~ん、あの二人ってやっぱそういう関係なんだな?」
姐さんが身を乗り出して2人の様子をうかがっている。
俺達3人は側にあったゴミ捨て場の影に隠れながらだが、姐さんは隠れる気がないらしい。
「ちょ、ちょっと姐さん! 見つかったらどうするんすか?」
「ん? 別に問題ないだろ? むしろそうやっている方が目立つだろ?」
正論だ。さすが姐さん!
それにしてもあれは……逢引きというやつか?
つまり、男女が秘密裏に会い、なんか……その……
「変なこと考えんな、この馬鹿! 顔に出てるぞ!」
聡の突っ込みになんとか現世に意識を戻す俺。
とにかくあの2人の跡をつけねば!
真剣なのは俺と聡とおとちゃんのみ。姐さんはこれといって興味はないようだが一応同行。
ま、そんな姐さんも素敵ってことで!……え?それはこの際どうでもいいって?
そんな突っ込みは一切却下! 俺と姐さんの愛は永遠だぁ~~~~~!!!
「むしろお前の言動の方が目立つわぁ~~~~!!!」
姐さんの手刀は俺のみぞおちに見事食い込んだ。
余談だが、この時、聡少年は手刀でも狙いどころによっては有効であることを学習したそうな。
春日と藤原の2人が歩いている。夕日が綺麗な時間帯だ。
ムードはいいよな?
ただ、妙な点は双方とも目をつけてから一言も話していないということだ。
「手も繋いでないな」
「でもあの微妙な間隔はどういうことかしら? くっついているわけでもなく、離れているわけででもなく……」
「だめだ、俺の周りにああいう輩がいないからさっぱりわからん!」
「別にどうでもいいけど」
相変わらず姐さんは興味なさげ。でもついては来ている。なぜか。
そんなに決まっているじゃないか、俺がここにいるからだ!!
「あーはいはい、わかったから……」
ため息をつかれたが、そんなの屁の河童だぜ。
それに、あの二人についていけば、後に春日の弱みを握れるかも知れん。
くっくっくっ……
「お前、そんな理由で跡つけることにしたのかよ!?」
「他に何があるぅ? 俺は別にあの2人がどうであろうと関係ねえべ! 俺は姐さんにしか興味がぬあい!」
「恥ずかしいことを口外するな!!!」
姐さんは赤くなりながら拳を俺に向かって振りかざす。
本日2回目の愛の鉄槌、『ヴァルコニー・アドヴァンストクラッシャー』が脳天に直撃した。
しかし、俺はまだ意識を失ったわけではない。
「大きなたんこぶができてるけどな」
「ちょっと大丈夫? 血が出てるわよ?」
確かに、視界に赤いものがうつってきた。
「心配には及ばないさ、おとちゃん。これが姐さんと俺の愛のコミュニケーションなのさ!」
「……ならいいんだけど」
「てか、毎日生傷が絶えないな、お前」
「……もういい」
そうこうしているうちに、2人はちょっとした喫茶店に入っていった。
「あら? あのお店……」
「ん? おとちゃん知ってるの?」
おとちゃんがこの辺りの地理に詳しいなんて初耳だ。
「素敵ね♪」
「どかぁ~~~~~~~!!!」
きっと漫画ならキラキラと目が輝いているって雰囲気だ。
「今度のりゅうくんとのデートスポットに決定!」
「せんわ、一生!!」
「え~ん、りゅうくんがいじめるぅ~~~」
その場で泣き出すおとちゃん。絶対うそ泣きだ。
「さて、突入するぞ、聡!! おとちゃんを置いて」
「お、おう、行くぜ!」
おとちゃんはこちらを睨んでいたが、それは無視。
姐さんはうんざりそうについてきた。
まぁそれは愛情の裏返しってことで処分だ!
……顔に出てないよな?
よっし、問題ない! 突撃~~~~!!!!
<<幸介視点>>
「外が騒がしいような気がする……」
「そう? 私には何も聞こえないけど……あなたは何にする?」
「じゃあ、ミルクティーで」
「私もそれにするわ。すみませ~ん」
注文を終えてからため息をつく、僕の前に座る人。
我が岳倉橋高の生徒会長、春日恵美という人物。何かと策士でかつ、学校の真の支配者かもしれない人。
そして、とばっちり受けて僕はこの人の秘書をやらされている。
秘書というと聞こえはいいかもしれない。正確には“雑用”だ。
この人は生徒の見ていないところでは、いつもだらしなくて、僕がいないといっつもわけのわからないことばっかりしてるし、道楽で演劇部の部長にまでなっちゃうし、部員勧誘は僕に押し付けるし……
お陰で新しく入った部員の3人には恨まれてる。
特に春日さんとは犬猿の仲である清原さんには確実に嫌われている。
はぁ~、皆仲良くって難しいですね、ほんと。
あれこれと考えているうちに僕達の席に2人の生徒がやってきた。
「おう、会長に雑用!」
「誰が雑用ですか!? せめて庶務って言ってくださいよ!」
今話しかけてきたのは、生徒会副会長である大塩弘之。
3年生で僕とはひとつ上の学年になる。
もうひとり、ついてきたのは書記の井原有希香さん。この人は1年生である。
「遅れてしまったみたいで……」
「気にしなくていいわよ。さて、中村くんは今日来れないとか言ってたし、これで全員揃ったわね。じゃあ始めましょうか?」
とりあえず、“話し合い”が始まった。
<<竜輔視点>>
「あ、あれは一体なんだ!?」
「……ダブルデート?」
「おいおい、どう見たって生徒会の集まりだろ!」
つまりそういうこと。俺達が入ってからすぐにあの大柄の生徒会副会長と書記の娘が入ってきて、あの2人が密会をしてないことがわかった。
あ~ぁ、とんだくたびれもうけだった。
テーブルにうずくまっていると、
「いらっしゃいませ~♪ ってあれ……?」
注文をとりにきたウエイトレスさんが素っ頓狂な声を上げる。
俺はそれに注目して一時思考が停止した。姐さんも驚いた様子だ。
「……ミカサンデハナイデスカ、ゴキゲンウルワシウ」
「ホ、ホントダ、コンナトコロデアウナンテキグウデスネ?」
2人して棒読みの台詞を吐いた。
そう何故か美佳がここでウェイトレスをしていた。
黒いシャツの上にひらひらしたエプロン(つまり、エプロンドレスとかいうやつ)をつけていて……かわいかったりする。
「な、なんで棒読みなのかはさておいて、皆さんお揃いでどうしたの? ダブルデート?」
確かに男女の比率的には言われても仕方……ないのか?
だって聡の相手がおとちゃんになるわけだし。
「ち、違う! 俺には菫っていう素敵なカノジョが!」
聡はムキになる。
「私はりゅうくん“と”デート中よ、だからとっとと仕事したら、美佳ちゃん?」
毒舌だ。
2言目はさすがにまずくないか、おとちゃん? しかも、俺はデートしてるつもりはナッシングだ。
それは置いといて、まぁなんだ……
「美佳ちゃんかわいブフッ!!!」
本音を口にしかけた(と言っても9割だしてしまったが)のを遮るように姐さんの肘打ちが俺の頬に食い込む。
「本来の目的を忘れてどうするんだ、この馬鹿!」
あれれ? なんで殴られてんだろ?
あ、もしかして姐さんたら妬きもち? ふふふ、姐さんも可愛いなぁ~。
「顔に出てるぞ、馬鹿」
聡のするどい突っ込みは軽く受け流すとして、なんだ、目的を失った俺らがここにいてももう意味はない。
撤退。もしくはここでのんびりと……
「待て待て、あれが終わったらどうなるんだ!?」
「え!?」
姐さんはやれやれとした様子で俺を諭す。
「あの生徒会の集まりが終わったあと、どうなるかはいいのか?」
「いいのか?って聞かれても……え、まさか」
「そう、そのまさかだ! その後はあの二人だけになる可能性だってあるわけだろ!? なら……」
姐さんって頭いい!
確かにあのミーティング(?)が終わればどうなるか分かったもんじゃない。密会、もしくは……あそこか?
「りゅうくん、“そこ”なら私たちで行きましょ♪」
おとちゃんが腕に抱きついてくる。
あれれ? また顔に出てた? 地獄耳?
まぁ冷静に考えれば、それはあの2人の一つの選択肢に過ぎない。でもそうであれば……ムフフ。
「なにニヤついてんだよ? ほら、終わったみたいだぞ」
生徒会のメンバーが解散していくのが見えた。
「おっし、こっちも追跡開始ってな!」
俺達はお金を払って店をあとにする。もちろん、生徒会の面々が見えなくなってからだ。
物陰に隠れながら2人を再び追跡する。そう、まだあの2人は一緒にいるのだ。
仮にだぞ? 万が一、俺らの考えが違ったとしよう。
しかし、仕事が終わったのに2人きりなのは間違いなく普通の関係、つまり生徒会長と雑用(?)の関係だけではないはずだ。
「くそ、カメラを用意しとくんだった」
※時代はまだ高校生のカメラ機能付き携帯電話所持率30%以下の時代。
「はい、インスタントでよければ」
差し出された手にはインスタントカメラが握られていた。なんてグッドタイミングなんだ。
俺は夢中でシャッターをきった。
って、え!?
「う、うわぁ、美佳ぁ~~~~~!!!???」
「な、なによ、人をお化けみたいに」
さっきのエプロンドレスを外した状態で美佳が立っていた。
「おい、ちょっとうるさいぞ。気づかれたらどうすんだよ?」
「てか、何でいるんだよ?」
「バイトの時間が丁度終わったの。面白そうだからついてきちゃった♪」
「何が、ついてきちゃった(音符)だよ? あんまり大勢で追跡するのって効率悪いんだぜ?」
俺と姐さん、聡、おとちゃん、そして美佳。5人だ。こんな計算、小学1年でもできる。
「いいじゃない、静かにしてれば」
いいのかこれで!?
とかなんとか言っているうちに2人を見失ってしまった。
「うお、しまったぁ~~~」
太陽は沈み、辺りはすっかり暗くなっていた。
さて、どうするか。
夏休みなのに、主人公たちは海や山に行かずに何をやっているんだろうか……




