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夏休みアタック④

「ここの部屋です」


俺達が案内されたのは生徒会室。


「……演劇部って生徒会も兼任してんのか?」


「いいえ、部長が生徒会長やっているんで今日はここに来いっていわれまして……」


嫌な予感がする。

なぜ今まで生徒会にスポットが当たらなかったのはこの扉の向こうにいる奴が原因だ。

まさか向こうから接触してこようとは。

とっとと“あいつ”の首をとれという神様のお告げなのですね。


「とりあえずどうぞ」


藤原に促されるまま生徒会室に入る。


「連れてきましたよ。……はぁ~」


「何? そのため息は?」


背もたれがやたら高い椅子に座っている女子生徒が藤原に問う。


「何って……また会長席を私用に使ってるなぁと思って」


机の上には少女マンガが山積みにされていた。


「別にいいじゃない? 会長特権よ!」


「職権乱用(ボソ)」


意外だった。さっきまで腰が低かった藤原が生徒会長に対しては毒舌だということに。

人は第一印象とは違うのね?

とりあえず、少女マンガを読んでいるやつを紹介しておこう。

うちの学校の現在の生徒会長にして、演劇部部長の春日恵美(かすが えみ)。

校則を自分の意見で捻じ曲げてしまうほどいろいろと“暗躍”しているふざけたやつ。

というのは少し言い方が適切ではないかもしれない。

……そう、影の支配者! あれ、あんまり変わってない?


「ようこそ、我が演劇部へ。歓迎するわよ、特に清原くんはね」


「てめぇ、今度は何をたくらんでいやがる!」


皆まで言うな。そう、俺はこの人をよく知っている。

目的の為なら、いかなることも可能にしてしまう女狐で腹黒女!

俺はこいつが苦手とも言えるが、とにかくメチャ嫌い。

見た目だけは美人な方ではあるんだけどねぇ……。


「褒められるほどの身分ではないわよ?」


「褒めてねえし! 人の心を勝手に読むな!」


「顔に出てるもの」


「うっ、このアマぁ~~~~~!!!!」


「勝負ならいつでも受けるわよ? そうねぇ……あなたの得意なタイマンでもいいわよ?」


いちいち勘に触ることをいうのは全然変わっていない。


「てめぇ、今日こそは息の根を止めたろかぁ!?」


「ふふふ、やあねぇ冗談よ。私がそんな野蛮なことが出来ると思って? やるならお勉強で勝負願いたいわ」

「うがぁ~~~~~、もう我慢ならねえ! 殺す!殺る!死にさらせぇ~~~~!!!」

俺は猛突進で春日に突っ込む。そこで跳躍して振り上げたグゥを机に叩き込んだ。

爆発したような音は響き渡った。


「はぁはぁ……またか」


「あはは~、狙いが定まっていないようね? まぁあなた程度の攻撃なら避けるまでもないけど」


そう、春日は避けた。しかも机ごと!

少女マンガが山積みのあの机を。

どうやったらあんな華奢な腕で机ごと回避できるのだろうか?

この世の物理法則に逆らっている。


「な、なぁ、竜輔? 少しは落ち着いたら……」


姐さんが話しかけてきたが、俺はその声すら頭の中には入らなかった。


「なんだってこんな……」


俺は再度踏み込もうとした。が、


「はいはい、止めてください! もう、何のために勧誘してきたと思ってるんですか!?」


藤原が真剣そのもので止めに入ってきた。あの物腰低い姿は演技だったのだろうか?

そういえば演劇部だから演技は得意か。

しかし、この程度で引く春日でもあるまい。

真面目一筋、正統派で渡り合えるほど甘ちゃんではない。


「……ま、今日はこの辺にしといてあげるわ」


髪をかき上げながら春日は俺に背を向けた。

あれ? こんな簡単に退く奴だったか?

釈然としないゆえに、未だファイティングポーズで固まっている俺だった。





「さぁ~て、本題に入りましょう。我が部は部長である私、春日恵美と……」


「藤原の2名のみ。廃部の危機です」


「でも、校長先生に頼みに頼んでチャンスを頂いたの。今年の文化祭でちゃんとした活動ができたら廃部案はしばらく保留にしてくれると」


「そんなことしなくても春日さんの力ならこの部は永久に不滅だろうに(ボソ)」


藤原が毒づく。

この2人は噛み合ってんだか、あってないんだか……。

とにかく、俺は藤原の意見に賛成だ。

春日という奴はとにかく道徳的、物理的、果ては宇宙理論まで覆せてしまうような人外鬼畜動物であるからして、こんなちんけな部なんて例え0人でも存続させることなんて呼吸するに等しいはず! だから俺はなぜここにいなければならないのか、未だに理解できないわけだ。


「それ、俺も同感だ」


春日と藤原に聞こえないように聡が小声で言った。


「……俺はあんな奴に騙されたってか?」


姐さんも後悔しているようだ。


「文化祭では演劇部らしく、演劇をしてもらうからね。覚悟しとくように!」


春日は偉そうに椅子に腰掛けた。


「ま、あなた達に演技力を要求しているわけじゃないのよ」


「あぁ!? そりゃどういうことだ?」


「これ、あなた達にやってもらいたいことよ」


と言って、俺達3人にA4のプリントが渡される。


「……これって」


「う……なんだこりゃ!?」


「大道具、並びに“木”の役に任命するぅ~~~!?」


「そう、立派な役割だから最後まで精一杯頑張ってちょうだい!」


俺はこのとき殺意が芽生えた。


「なんだって俺がこんなことを!」


「あいつ、見た目よりかなり腹黒だな?」


「木て何だ?木って!!」


3人(つまり、俺と姐さんと聡)はぼやきながらダンボールを切ったり、マジックで色をつけたりしている。


「お~い、緑のインクが切れたぞ!!」


「す、すいません。入り口近くの戸棚の中にまだ何セットかあるんで、それを使ってください」


奥から藤原の声がしてきた。

それもそのはず。藤原も生徒会に所属していて、色々と大変なんだそうだ。

模擬店の予算とか、人数調整だとか、交通整備、近隣住民の協力を呼びかけるとか本当に俺達の知らないところで重要な仕事をしているらしい。

いや、今はそんなことはどうでもいい。

藤原は俺達に対しては割と友好的で腰が低いが、春日の前になると一気に雰囲気が変わる。

どう変わると言うと、その……まとっているオーラから違ってくるというか、目つきが変わってくるというか、なんていうか……そう、敵に回すと確実に厄介な敵になること間違いないって感じなんだ。

姐さんも不憫だなぁ~。あんな腹黒野郎に騙されるなんてさ。

ん、待てよ?


姐さんを騙しただとぉぉぉぉぉぉぉおおお~~~~~~!!!!!


「う、うお!? どうした、竜輔?」


「こんなことしてる場合じゃない! 姐さんの仇を!!」


「ちょっと待て! 俺はまだ死んでないっつーの!」


今こそ宣戦布告のとき!

いざ、出陣!!!

俺は生徒会室で黙々と仕事をこなしている藤原の側まで行き、胸倉を掴み上げる。


「おい、てめぇよくも俺の姐さんを騙してくれたな!! この恨み、100億光年かけても償いきれんぞ!? とにかく、俺のむしが治まるまで殴り続けてやるから覚悟してけよ、ゴルァ!!!!」


「だから光年は光の速さだっつたろ!」


姐さんの突っ込みが入ったがそんなのお構い無しだ。


「あ……ああ……あのぉ、ななな……なんの……」


「うっせぇ、てめえの罪は死刑以上だ!!」


俺は拳を藤原の顔面に殴……たつもりだった。

しかし、いつの間にか反対側の廊下に吹っ飛ばされていた。

意識を失う前に見た俺を殴り飛ばした犯人、それは……姐さんと春日だった。





最近はやたらついていないような気がする。

ゴミ係には任命させるわ、聡の特訓には付き合わにゃならんわ、演劇部に入ったはいいが、部長が俺の天敵だわで色々参っている。

いつ、どこで、どうしたら姐さんと二人きりでいられるだろうか?


「どした?」


姐さんが俺の顔を覗き込んでくる。

くぅ~、なんかいい! このアングルはグッドよ!!


「姐さん、今日もお美しいことで」


目を閉じて唇を突き出してみた。

さぁ、姐さん。俺の唇を優しく包み込んでくだされぇ~~~。


「むぐっ!」


「……」


唇に柔らかな感触があった。しかし、湿っぽくない。

あれ?と思って閉じてた目を開けると、姐さんが親指と人差し指俺の唇をつまんでいた。

あぁ、そういう包み方もありですね……。


「何か期待したか?」


「めっさ期待したんですけどねぇ。はぁ~……」


「ま、文化祭が終わればな」


え!?


「ね、姐さん、今なんて?」


「さ、とっとと終わらすぞ」


トコトコと駆けていく姐さんの後姿がやけに可愛らしくみえたのは気のせいだろうか?

てか、姐さんはいつもあんな走り方しないのに……なんでぇ?

とにかく、今日も部室である生徒会室に急ぐのであった。





「あら、おはよう。いい天気ね、氷見院さんに清原くん」


「おはよう、生徒会長」


「……けっ」


何かここに来るとやけに不愉快だ。

春日の顔を見ただけで、全身の動脈、静脈、毛細血管にいたるまでからアドレナリンが飛び出してきそうになる。

と言っても、アドレナリンがなんのかは知らない。

生物の授業でジジイの先生がちょっと話していたのを聞いただけだったりする。


「もう少し勉強しとけっつの」


背中を小突かれて振り返ると聡がいた。


「あら、斎藤くんもおはよう」


すかさず春日が聡に挨拶をする。


「おはようございまっす、部長。今日も『木』作りっすか?」


うんざり顔だけが俺との共通点だったりする。


「それはあなた方次第ね。ま、今日中には終わるんじゃない?」


「俺としてもとっとと終わらせてほしいんだど……」


両拳を打ち付け合ってテンションを上げる聡。


「あ……そっか、特訓!!」


「そうだよ、お前絶対忘れてただろ!?」


「うむ、かなり紙一重だったな」


話に途中にくぐもった声が聞こえてくる。


「あ、あのぉ~、そこどいてくれませんか?」


振り向くと大きなダンボールを抱えた藤原が立っていた。かなり重そうなのは明白だった。


「お、悪りぃ」


すぐさまどくと藤原の前に春日が立って、ダンボールを受け取った。というよりも奪い取ったみたいに見えた。


「ご苦労様。少し休憩してもいいわよ?」


「はい、そうさせてもらいます」


藤原は手前の机に座ってウチワを仰ぎ始めた。


「……何か違和感がある、この2人。(ゴニョゴニョ)」


「あぁ、俺も何となく気になってた。(ゴニョゴニョ)」


「やっぱり……これか?(ゴニョゴニョ)」


姐さんは2人に見えないように小指を立てて見せた。


「ね、姐さん、ストレート過ぎっす……」


「ま、それが妥当だな……」


「何が妥当なのかしら?」


「へ!?」


いつの間にか春日まで話の輪に入ってきてた。


「あ、いや……これはだな……」


「用事があるならさっさと終わらせたほうがいいんじゃない?」


やれやれお言った感じでこの場から去る春日。

今の話、絶対聞こえてた。

とにかく奴は油断ができない。ちょっとでも気をぬくと……考えただけでも恐ろしい。


ようやく登場させたいキャラが全てそろいました。

最終回まであと少しくらい……?

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