姐の妹アタック
無駄に登場人物を増やしていきます。
次の日。
「えぇ~今日は時期外れではありますが、転入生を紹介します。さぁ、入ってきて!」
とあるクラスのHRの風景。
先生が廊下に待たせている転入生を呼ぶ。
戸があいて入ってきたのは女の子。
髪は長いが、背が低い為に余計に長く見える。少し釣り目だが、どことなく控えめな印象を与える顔の構造をしている少女だ。
生徒達はざわめき始める。
「はい、静かにしなさい! え~と、自己紹介をしてくだい」
「みなさん初めまして。氷見院菫と申します。仲良くしてくださいね!」
澄んだ美しい声で自己紹介が終わると、クラス中に拍手喝采が起こった。
「へぇ~、姐さんのとこにも妹さんが留学から帰ってきたんっすかぁ」
「まぁな。俺にとっては可愛い妹なんだよなぁ~。しかも、この学校に転入することになちゃって……ってお前のとこにも?」
教室で姐さんと昨日のことについて話していた。
「えぇ、俺は災難でしたよ。姉が帰ってきたんですけどね、今までの印象が一気に崩落したというか、なんと言うか……ううう」
もう思い出したくもない。
姉=おとちゃんは今までずっとフランスの学校で……何してたんだ?
そういやそういうの全然気にしてなかった。
「よくわからんが、災難だったんだな?」
「はひ、もう俺ってば生きてく気力すら沸きませんよぉ~(シクシク)」
マジで泣いた。それはもう涙が止まりませんよ。
かあちゃんが死んだ時に次ぐくらいの衝撃的なことだったんですから。
「おぉ、よしよし。何なら俺の家にでも来るか?」
「え!? マジっすか? ヤタ――――!!」
涙は一気に止んだ。いや、嬉し涙になった。
感激のあまり姐さんに抱きついた……ところまでは良かったが、キスをしようとしたら止められました。はい、当然ですね。
昼休み。
教室は賑わっている。
しかし、例のごとく俺と姐さんはラブラブで屋上にいた。
「今日はだし巻き卵に肉じゃがを作ってきたぞ。さぁ、食ってみ」
「はぁ~い、いっただっきま~す♪」
この前から姐さんは手作りで弁当を作ってきてくれる。
まさに愛妻弁当ってやつですな、ムフフ。
「う~む、さすが姐さん、イイ仕事してますねぇ~」
「……お前は素直に美味いとか不味いとか言えんのか?」
「無論、美味です!」
「そか。素直でよろしい」
姐さんはにっこり笑った。
そういう顔の姐さんは初めてみたような気がする。
こちらも無論、最高なのだが。
その時、屋上の扉がドバンと開いた。
おいおい、またあの不良どもか?
この間は可愛い子分が世話になったなぁ?って感じの場面を思い浮かべたが、入ってきたそれを見て、あまりのギャップに思わず目を擦った。
屋上にやってきたのは、小柄な少女だった。
羽のような長髪をはためかせながらこちらに走ってくる。
「姉さま、こんなところにいらしたんですか?」
鈴を転がしたような声の少女は姐さんに寄って来た。
「あ、菫ぇ~! どうしたんだ?」
姐さんの顔がいつもより緩んでいるのが一目瞭然。
「姉さまとお食事しようと思ってクラスに伺ったのですが、ここにいると聞きまして……」
やけに丁寧な言葉を使う子だなぁと思いつつ、朝、姐さんが話していた妹さんだと俺の頭は認証した。
「……こちらの方は?」
姐さん妹は俺を興味深そうに見てくる。
「あ、あぁ、昨日話しただろ? 一応……」
「お姉さまとお付き合いしている“婚約者”になる予定の清原竜輔っす! 以後お見知りおきを!」
ニコニコと挨拶をする。
いずれ義理妹になる予定の子だ。第一印象が肝心だしな。
「お、おもしろい方ですね。私は氷見院菫と申します。よろしくお願いします」
おっと、妹さんに少々過激な挨拶だったかな?
少しだけひきつって見える。
まだまだ時代が俺に追いついていないようだ。
「す、菫? 一応言っておくけど、こいつとは付き合っているまであっていても婚約者の予定とかてぇのは誤解だ。こいつよく行き過ぎるところがあってさ」
「ふふふ、姉さまも隅に置けませんね?」
「あ~、すみれぇ~~~」
とかなんとか言っちゃって、姐さんってば菫さんに抱きついちゃってますよ?
「菫はずるいよぉ~。なんだってそんなに可愛いの?」
ほろ酔い状態の親父みたいなこと言っている姐さんに背を向けて敢えて耳を塞いで「あ~~~~~」と叫ぶ俺。見てはいけないものを見てしまった気がした。
「姉さまも相変わらずですね」
菫さんもなんか嬉しそう。姉妹愛? 相思相愛? 近親相●? しかも同姓で……○ズ?
寒気が背筋を通過して脳の機能を停止させにかかってきた。
しかし、根性で踏みとどまると、いまだにいちゃついている氷見院姉妹を見ない振りをして重箱のお弁当に手をつけ始めた。
姐さん、美味っす! 最高です。これからもよろしくおねがいしま~す。(シクシク)
ただただ悲しい俺だった。
下校時間。
「で、何だっておとちゃんがここにいるの?」
「んもぉ~、わかってんでしょ? 竜くんを迎えに来たの!」
廊下で姐さんと途中で合流した菫さん、寂しかったから聡も強引に引っ張ってきた。
しかし、玄関を行く際に職員室を通ったのが運のつき。
おとちゃんがいやがった。
なんで? WHY?
おとちゃんは大学生でしょ? しかもこの国にあなたの居場所なんて家しかありませんよ?(かなり酷い事言ってるな。)
「ふふふ、ついでに馴染みの先生に会って来たんだけどさ……お友達?」
3人をみて言うおとちゃん。
「そうだよ。こいつが聡」
「……さ、斎藤聡です。よ、よろしくです」
聡は顔を真っ赤にしている。
そりゃ自慢の姉ですから、美貌にあてられているんだろう。
「この子が菫さん。今日会ったばかりなんだけどね?」
「あ、あれぇ? 菫ちゃん?」
「あ、明音さんじゃないですかぁ! あなたも戻られていたんですね?」
なんと知り合いだったのか!? 世の中広いようで狭いね。
「んで、この方こそは俺の婚約者にして最愛の」
「婚約者は余計だーーーー!!」
グゥで俺の頭を殴る姐さん。
そういやマジで久々だな、こう言う形での愛の鉄槌。ん~、懐かしい……(遠い目)
「あ、そうだった。この人は俺の姉の“おとちゃん”。できれば聡よ、もらってはくれまいか? おとちゃんは美人のくせにカレシがおらんそうだ」
「ぶっ!! マジか、竜輔!? 本当にいいのか?」
やはりホの字だったのか、聡。まぁいい。こいつなら義理兄としても受け入れられる。
「ちょっと、本人抜きで話進めないでくれる? それに私は竜くんのこと諦めてムグっ」
え~い、余計な事を言うでない、おとちゃん!
誤解されてはたまったもんじゃない。しかも姐さんの前でだぞ!
しかし、時すでに遅し。
「「「じぃーーーーーーっ」」」
3人の目が俺に突き刺さる。
「あ、あの~、どうされました、御3方?」
3人は少しはなれて円陣を作った。
「あのぉ~これって近親なんとかっていうやつじゃ……」
「ふふふ、姉さまと私みたいですね」
「菫ぇ~可愛くそんなこと言わないでくれる?」
話が絡み合っていないのを見て少し安堵。
って今菫さんってば問題発言したぁ? 姐さんも否定してない?
「ぷはぁ……いいじゃない、私たちのラブラブ振りを見せ付けてあげればぁ~」
ううう、なぁ~んか昔の俺見てるみたいで気持ち悪いんですけど。
そうですか、姐さんは菫さんにゾッコンなんですね?
負けた、しかも女の子のに……
5人で歩く光景はなんとも奇妙だ。
聡は目をはあとマークにしておとちゃんを見つめている。
おとちゃんは俺の左腕に抱きついてくっ付いてくる。
俺は姐さんの左腕に引っ付く。
姐さんは菫さんとつつきあったり手を握り合ったりしている。
通行人の邪魔だろ!? 横一列に並んで歩いちゃいけないんだぞ!
って、突っ込むところが違っ!
俺が言いたいのは……姐さんが菫さんにベッタリなこと。
「ねえざぁ~~ん、ざっぎ言っだ事っで本当でずよね?」
「すみれぇ~、今日も可愛すぎて姉さんメロメロぉ~。今日も一緒に寝ようねぇ~」
「……」
いっしょにねようね?
「どうしたの、竜くん?」
お、おれのねえさんが……いもうとさんといっしょに……あはは……いっしょにねぇ……
「どうしたの、竜くん!? 顔色悪いわよ? 病院に行く?」
隣でおとちゃんが血相をかえて俺を病院に連れて行こうとする。
姐さんはというと……やっぱり菫さんにべったり。こっちなど見えていないようだ。
「ささ、行こう? 歩ける? 救急車呼んだほうがいい?」
俺がその時聞こえた最後の言葉はそれだった。
目が覚めると病室。最近このパターン多いな。
「あ、気がつきました?」
看護士さんがこちらの様子をうかがってくる。
「あぁはい、多分大丈夫です」
「そうですか? まだ顔色が悪いみたいだけど……」
こちらの顔を覗き込んでくる。
「う、そういえば少しダメかもぉ~あはは」
確かに頭が重かったので布団を頭までかぶる。
「あぁ、点滴してるから腕は動かさないでくださいね」
そう言って、看護士さんは出て行った。
嫌な事を思い出した。
そうだ、あの後、気を失ったんだ。
病室の戸が開いておとちゃんが入ってきた。
「大丈夫?」
「うん、少し調子わるいけどね」
「そう……」
おとちゃんが俺の頭を優しく撫でてくれた。
やっぱおとちゃんはいい姉さんかもしれない。弟のことを自分の息子のように扱ってくれる。そりゃもう、かあちゃ~んって抱きつきたいけど……
「俺、もうダメかもしれない」
「どうして?」
「姐さん、菫さんしかに見えてないみたいなんだ。俺、もう生きてく気力がないよ」
気分はまさにブラックホールのように深く暗い。
どこに行けばいいのか、何をすればいいのか理解できない。
「そんなことないよ、もしそうでも……私が側にいてあげるからさ、ずぅ~とだよ?」
「おとちゃん……」
何と魅力的な言葉だろう。
おとちゃんは幼い頃からの憧れの的。俺にとって、かあちゃんに負けず劣らずの存在だ。
その人がずっと一緒にいてくれるんだ。今となってはそれはそれでいいかもしれない。
「それにさ、私は竜くんが大好きだし。離れられるわけないよ?」
「じゃあさ、なんでフランスなんかに行ったの? 俺言ったよね? 俺はおとちゃんがいないと生けてけないって。どうしてなの?」
「しかたがなかったの。確かに私は竜くんが大好きでずっと一緒にいたかった、でも……夢も叶えたかった」
初耳だ、おとちゃんに夢があったなんて。
おとちゃんは窓を開けて外を眺めながら言った。
「私さ……ううん、なんでもない。とにかくゴメンね。連絡しなかったのは竜くんが愛しくなって途中で夢を諦めてしまうと思ったからなの。戒めってやつかな?」
「そうなんだ」
まぁいいさ。俺だって姐さんのことに夢中でおとちゃんのこと忘れてたんだ。
逆に怒られる立場だ。でも、おとちゃんはこんな俺でも好きでいてくれる。
「俺、今でも気持ち、変わってないから。おとちゃんが好き」
「カノジョさんにふられたと思ったから?」
「……」
そうだよ、姐さんは……菫さんしか見えてなかった。
とどめとばかりに一撃、『今日“も”一緒に寝ようね。』だ。
ふられたも同然。
「あの子、お母さんに似てたね?」
そうだ、姐さんのことが夢中になれた理由の一つはかあちゃんに似ていたことだ。
「うん、親父も言ってた」
「今でもお母さんのこと、恋しい?」
「うん、恋しい。でも、姐さんとかあちゃんとは別なんだ。似ているのは好きになったきっかけの一つでしかないよ!」
おとちゃんは「そう」といった感じで外を眺める。
「なら、彼女のことは1人の女として好きなわけね?」
「うん、いや……どうなんだろ?」
「そんないい加減な気持ちで付き合ってたの?」
「違う、俺は姐さん一筋だ!」
身を乗り出して言った。
「姐さんは優しい。俺が辛い顔してると抱きしめてくれた。それはかあちゃんともおとちゃんとも違う、とにかく今までに味わった事のない優しさだった!」
おとちゃんはヤレヤレといった感じでこちらに歩み寄ってきた。
「竜くん、私は竜くんが好き。でも後悔はして欲しくない。後悔してると人間って何処かで寂しい顔をするの。そんな顔の竜くんを見てるの嫌だから、まず気持ちを伝えてみたらどう?」
気持ちか……なんか今更なんだよなぁ。
でも、もっとアピールするのに越した事はないしなぁ……。
「大丈夫よ! 私と菫ちゃんはどっかに引っ込んでてあげるからさ」
「……おとちゃん、ありがとう。お陰で決心ついたよ」
「そう、それはよかったわ。じゃあ、点滴終わったら気持ちが変わらないうち、ね?」
おとちゃんは俺の手をそっと握った。
ひんやりしたが、どこか暖かかった。
主人公がマザコンやらシスコンやらで、ますますヘタレになっていく……




