第4話 旅人
「すみません。驚かせるつもりはありませんでした。」
闇の中から、一人の老人がゆっくりと姿を現した。
その目は白い布で固く覆われている。
どうやら盲目らしい。
見たところ、私よりもずっと年上だった。
「少しだけ、その焚き火に当たらせてもらえませんか。」
私たちは焚き火を囲んで腰を下ろした。
私は突然現れた老人をじっと見つめながら、口を開いた。
「あなたは何者だ。こんな夜中に森で何をしている?」
「今の私は、この世を旅するただの旅人ですよ。」
「一人で歩いていて怖くはないのか?」
「もう九十年も生きました。この世に、私が恐れるものなどありません。」
「鬼はどうだ? 鬼も怖くないのか?」
「鬼ですか。私の老いぼれた肉など、きっと好みではないでしょう。」
老人は穏やかな笑みを浮かべ、まるで世間話でもしているかのようだった。
だが私は警戒を解かなかった。
しばらく沈黙が続いた後、老人は静かに口を開いた。
「……そうか。こんな姿になっていたのか。最後の侍、倉沢源蔵。」
私は息をのんだ。
ハルにさえ自分の名を明かしていない。
思わず刀の柄を強く握り締める。
「なぜ私の名を知っている!? お前は何者だ!」
「最初は分かりませんでした。しかしあなたに近づいた時、その刀から鬼の血の気配を感じました。それに顔立ちも昔のままでした。ただ年を重ねただけです。」
「それでも、なぜ私を知っているのか分からない。」
老人は少しも動じなかった。
「盲目の旅人になる前、私は長い間、寺で僧をしていました。」
「あなたも知っている寺です。あなたの故郷の村の近くにある寺ですよ。」
私はその老人に会った記憶がなかった。
もしかすると、一度も気に留めたことがなかったのかもしれない。
私が老人の言葉を考えていると、彼は再び語り始めた。
「私はこの目で見たのです。あの寺に、最初の鬼が現れた瞬間を。」
「その鬼は、自らの仲間を鬼へと変えました。そして彼らを率いて村へ向かったのです。」
「仲間を鬼に変えた……? その仲間とは、一体誰だ?」
「……侍です。」
私は耳を疑った。
侍は人々を守ると誓った存在だ。
頭の中は混乱し、とても信じられなかった。
「私は見ました。侍たちが、上位の鬼の出現を心から喜んでいた姿を。」
「鬼となった後、彼らは村へ攻め込みました。自分の家族を、自分のかつての仲間を、そして隣人たちを、容赦なく殺していったのです。私はその場から逃げ出し、ただひたすら走り続けました。」
私は老人の話を聞きながら、足元が崩れていくような感覚に襲われていた。
侍たちが自らその道を選んだなど、信じることができなかった。
その時、老人は眠っているハルの方へ顔を向けた。
「あなたたちは、これからどこへ向かうのです?」
「この子の姉が鬼にさらわれた。私は助けると約束した。だが、鬼たちがどこへ連れて行ったのか分からない。」
老人は静かにうなずいた。
「連れて行かれた先は――すべてが始まった場所です。」
老人は杖を頼りに、ゆっくりと立ち上がった。
「焚き火に当たらせていただき、ありがとうございました。過去を知る人に再び会えて、本当にうれしかった。どうか、お二人ともご無事で。」
地平線から朝日が差し始める。
私はようやく、自分たちが向かうべき場所を知った。
四十五年前、私が逃げ出した場所――
故郷へ。




