第3話 俺の名はハル
私たちは村を後にした。
この村から続く道は一本しかない。
鬼たちがどの方向へ向かったのか、正確には分からなかった。
だが、この道以外に進むべき道はなかった。
しばらく歩いたところで、私は沈黙を破ることにした。
「お前、名前は?」
「ハルです。」
「ハルか。両親はどうした?」
どうやら聞くべきではないことを聞いてしまったようだ。
少年の表情が曇り、静かにうつむいた。
「数年前、僕たちの故郷の村が鬼に襲われました。父さんも母さんも殺されました。その時、姉と二人でこの村まで逃げてきたんです。」
その話は、あまりにも私自身の過去とよく似ていた。
「姉の名前は?」
「サクラです。」
「この村では二人だけで暮らしていたのか?」
「はい。僕たちはお互いに助け合いながら生きてきました。姉以外に、もう家族はいません。」
同じ村で暮らしていたというのに、私はこの子たちのことを何一つ知らなかった。
平穏な暮らしに執着するあまり、他人の人生に目を向けようともしなかったのだ。
「必ず、お前の姉を見つけ出そう。」
ハルは希望に満ちた目で私を見上げ、小さくうなずいた。
私は笑みを返した。
……だが、本当はサクラがまだ生きているのかどうか、自信はなかった。
その時、私たちの会話を大きな音が遮った。
ぐうぅ……。
ハルの腹が盛大に鳴ったのだ。
「どうやら、腹を空かせているようだな。」
ハルは慌てて両手で腹を押さえ、顔を真っ赤にした。
「そういうことなら、ここで少し休もう。」
持ってきた米はあったが、それだけでは足りない。
幸い、道のすぐ近くには小さな川が流れていた。
「また魚でも食べるか?」
私は川へ入った。
水深は浅く、膝ほどまでしかない。
ハルは興味津々といった様子で、私を見つめていた。
魚は素早く泳ぎ回る。
だが、侍として鍛え上げた技は、こんな場面でも鈍ってはいなかった。
反応は今なお鋭い。
素早く正確な刀さばきで、水中の魚を次々と仕留めていく。
魚を捕った後、私たちは火を起こした。
魚が焼き上がるのを待つ間も、ハルは私の腕前に感嘆し続けていた。
「すごかったです! あなたなら鬼なんて誰にも負けません! 僕にも教えてください!」
やがて夜が近づいてきた。
周囲には茂みと背の高い木々が広がっている。
無理に進まず、この場所で夜を明かすことにした。
ハルは思った以上に器用だった。
落ち葉や乾いた藁を集め、あっという間に寝床を作ってしまった。
一方の私は、大きな木に背を預け、刀を手にしたまま座っていた。
深夜――。
私は微かな足音を聞いた。
ゆっくりと目を開き、静かに刀を抜く。
暗い森へ視線を向けると、枝葉の向こうに一つの人影が見えた。
誰かが、じっと私たちを見つめている。
「出てこい……見えているぞ。」




