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第2話 目撃者

私は深く息を吸い、気持ちを落ち着かせると、ゆっくりと少年の方へ振り返った。


作り笑いを浮かべながら、後頭部をかく。


「何か勘違いしているんじゃないか? 私のような老人が鬼を倒せるはずがない。暗闇で見間違えたんだろう。」


少年はまっすぐ私を見つめ返した。


「もし助けてくれないなら、村のみんなに話します。あの謎の救世主は、あなたなんだって。」


その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で怒りが燃え上がった。


子どもが、この私を脅すとは――。


もちろん、村人全員が彼の話を信じるとは思わない。


だが、一度噂が広まれば話は別だ。


人々は私に付きまとい、何度も質問を浴びせ、私の一挙手一投足を見張るようになるだろう。


四十五年間守り続けてきた静かな暮らしは終わる。


私は怒りを込めて少年を睨みつけ、追い返そうとした。


だが、その時気づいた。


少年の瞳には悪意も、企みもなかった。


そこにあったのは、ただ深い絶望だけ。


それは四十五年前、私自身が抱いていたものとまったく同じだった。


私は大きくため息をつき、空を見上げる。


しばらく考えた末、ようやく決心した。


「……分かった。お前の勝ちだ。姉を取り戻す手助けをしよう。」


その瞬間、少年の表情はぱっと明るくなった。


涙を浮かべながら、勢いよく私に抱きついてくる。


少し戸惑った。


誰かに抱きしめられるという感覚を、私はもう何十年も忘れていた。


「もう泣くな。行くと決めた以上、家へ戻って支度をしてこい。すぐに出発する。」


すると少年は静かに首を振った。


「もう準備はできています。……僕には、もうこれ以上持っていくものなんてありません。」


その姿を見て、私は言葉を失った。


服は破れ、泥だらけだった。


冷たい地面の上に裸足で立っている。


草鞋すら履いていなかった。


胸が締めつけられるように痛んだ。


「……中へ入れ。まずは飯を食おう。」


私は炊いた米と干し魚を少年の前に並べた。


少年は夢中で食べ始める。


あまりの勢いで、息をすることさえ忘れているようだった。


その様子を見ながら、私は旅支度を始める。


食料を少し持っていかなければならない。


やがて刀を手に取ると、私は静かに刃を見つめた。


磨き上げられた刀身には、自分の姿だけではなく、過去までも映っていた。


燃え盛る炎。


鬼たち。


そして、血に染まった大切な人たち。


私は静かに刀を腰へ差した。


そして私たちは、旅立った。

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