63話 反攻作戦、開始です!
武器の手入れや同行する部隊との連携の確認、作戦の復習をしていると、3日という時間はあっという間に過ぎ去ってしまった。
「…夜明けだ。総員、作戦開始!」
「「はっ!」」
私は現在、北東部のノルマン伯爵領との境界付近にいる。南東方面と東方面には遊撃手の他の冒険者が行ってくれるということと、伯爵という周辺貴族の中では最高位の貴族が相手だということで私がこちらに来ることになった。
さて、このノルマン伯爵領との境界は、山々に囲まれた谷の部分(かつて川が削ったがその川が枯れたと考えられる)を通って行き来せねばならないような難所として知られている。そしてレオナード公爵領騎士団とノルマン伯爵領騎士団はその谷をお互い塞ぐように陣地を構築していた。
そのため防衛線が張られてからは睨み合いが続いているそうで、お互い士気が下がってきているんだそう。
「それではまずわたくしが」
「アイシャさん、私も行きますよ」
早速あの戦法を試してみようと名乗りをあげると、置いていくなとばかりにここに配置された冒険者の1人、リンさんがついてきた。
「アイシャ様…本当に仰られたようなことが可能なんですか…?い、いえ疑っている訳では…ありますが」
「皆様は信じられないことと思いますが、事実このバッグの中には結構な量の魔物の死骸がありますわ。見ますこと?」
「い、いえ!し、失礼しました!」
別に減るもんじゃないしいいんだけどなぁ。
私とリンさんは陣地から抜け出し、ゆったりとした足取りで相手方の陣地へ近づく。
向こうでは、「女…?」や、「誰だ!」といった困惑や警戒の声があがる。まあ、そりゃノルマン伯爵本人とかその家族じゃなきゃ私のこと知らないよね。
相手陣地に十分私達の声が聞こえる距離まで近づいたところで、
「せーの」
私達はここまでの道中で倒してきた魔物の死骸(私のはレベッカがいつの間にか回収していたらしい、腐っても魔王恐るべし…)を道の両脇に無造作に放り出した。
「なっ、なんだあれは!?」「ヒィッ、禍々しい!」「ま、魔物だと!?」「狼狽えるな!どうせまやかしの類に決まっているだろうが!」
あらあら、魔物の死骸をポイしただけで面白いくらいに混乱しちゃってまあ。私達がポイしたのって魔狼とゴブリン数匹だよ?まだオークとか他にも色々取り揃えてるんだけど…。
と、テンプレ主人公感に浸るのはこのくらいにして。そもそもイグルー王国では、魔の森周辺以外で魔物を目にする機会は、実はそこまでない。イグルー王国内にも魔物の湧く場所というのは確かに存在するんだけど、精々数箇所。だから魔の森や魔物の湧きポイントのある領地以外じゃ魔物を見たことがない人ばかりなのだ。その点で言うと、レオナード公爵領周辺で魔物の耐性がある領地はベルス子爵領くらいか。
つまるところ、今回の反攻作戦においては、この戦法はかなり使えるということ。今の相手の反応でその確信がもてたよ。
「あら?こちらが偽物だと仰いますの?でしたら直接確認してみますこと?」
「なんならそっちに持って行きましょうか?」
「ヒッ…え、遠慮しておく!そ、そそのようななハッタリで我々をだ騙せるとお思うなよよ!?」
「声震えてますよー?」
「ふむ、困りましたわね。これでも退いて頂けないのであれば、わたくしと達と皆様が敵対している以上、皆様にはこれらと同じ末路を辿って頂かなければならないのですが…」
頬に指をあて思案する素振りを見せる。
「い、いやだ…おら死にたくねぇ…!」「俺だって嫁と子供がいるんだ!」「俺、彼女にこの戦いが終わったら結婚しようって言ったのに…!」
すると、向こうの騎士の中でも死への恐怖に怯える者が出てきた。はて、レオナード公爵領との境界はここが主要路だから、ここにちゃんとした部隊を置いておけばいいはずなのに、なんだこの体たらくは。
ノルマン伯爵は、かつては王権派についていると思われていた。思われていたというのは、王権派貴族の前では同志のように振る舞い、裏では貴族派と繋がっているスパイがその正体だったということなんだけど。けどそのスパイ活動を私がいる王宮でやっちゃ駄目だよ。私が気づいてないと思ってたのかな?それに王家の影の人達も色々と教えてくれてたよ。私、国王陛下と王妃陛下から『馬鹿なランドを支えることで、バランスを取って欲しい。苦労をかける』と常日頃から言われてて、割と可愛がられてたから、影に対する権限もある程度貰ってたんだよね。
そんな彼らのことだから、この内戦では好機とばかりに攻めてくると思ったんだけど…。まさかベルス子爵を寝返らせて周辺を貴族派で固めたから、こちらは戦力を分散させなきゃいけない、つまり適当な部隊を置いておいたとしても突破されることはないから大丈夫とか思ってるとか?それで攻めるのは他の下級貴族を鉄砲玉にして、自分は1番被害がないようにしようとしてるとか?
まさかそんなことは…いや、小心者の狸爺なノルマン伯爵ならやるかも…?
何はともあれ、もう少し脅せばノルマン伯爵領には踏み入れそうだね。
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