50話 お店の人気者なバニーガール
『月灯りの庭』でただいまの報告をして、ついでに開店準備を手伝った私。せっかく準備までしたんだし、ということで今日の営業から復帰することに。
お昼前に自宅で談笑してた魔王二人にそのことを伝え、今はまた準備の手伝いを再開。
そういえば今日はいつもより早くから準備してるなと今更ながらに感じた。今日は首都を前の7の刻30分に急行馬車で脱出し、ここカルストへは前の11の刻ちょうどの頃に到着。それから冒険者ギルドと自宅で色々した時間を加味しても後ろ1の刻にはここに着いたはずなので、その時点では既に準備を始めていたことになるね。
なんだろう、何かあったのかな?
「あぁ、それはね?昨日、ちょっと困ったお客さんが来ちゃってね。閉店時間を過ぎても居座ろうとするし、自分は神だのなんだの言い出して。最終的に暴れだしたもんだから、一旦ルナに鎮圧してもらおうと思ったんだけど、ルナもだいぶイライラしてたみたいで、力加減ミスってその客を壁まで吹っ飛ばしちゃったのよ。まあその後はとりあえず騎士団に通報して連行してもらったんだけど、机は倒れてるわドリンクが床に散らばってるわでもう散々でね。とりあえず虫とか害獣が湧かないように清掃だけやって、あとは今日しようってことにしたの。だから今日はちょっと早く準備してるんだよ」
「わたしがイライラしてたせいで店長にも迷惑かけちゃった…ごめん」
「いいのよルナ!悪いのはあの客なんだから!」
普段はにこにこしてるルナ先輩ががっつり落ち込んだ表情をしているのを見る限り、割とやらかしちゃったのかな。それならお二人とも疲れてるだろうし、ここは元気いっぱい、ストレスフリーな私が頑張らなくっちゃね!
----------
数刻後──
「いやはや、なんとか無事に終わりましたわね」
「そうだね。ありがとうアイシャちゃん」
売上の確認と現金売上の回収や今日分の食材の仕込み、看板の書き込みなど昨日の作業の残りと今日の準備をなんとか終わらせた私たち。
営業開始時間は後ろの6の刻で、今は後ろ5の刻の少し前。1刻くらいの余裕を持って準備を終わらせられたのは良かったね。
…ところで、看板に本当に『本日アイシャ入店中♡』と書かれるとは思ってなかったよ。恥ずかしいことこの上ないよこれ?
「それじゃ、私は厨房で温めたり冷やしたりしとくから、2人は先に着替えておいで〜」
「かしこまりましたわ」
「は〜い」
店長に言われてバックヤードへ。そういえば、首都にいた時は街中でバニースーツに着替えることはなかったし、着替えるタイミングも早着替えの魔法を使っていたので普通にバニースーツに着替えるのはちょっとばかし久々だ。
1回全裸になる必要があるので、まだやっぱり恥ずかしい。お風呂に入る時とかは全裸になるだろと言われるかもしれないけど、脱衣所以外で全裸になることなんてほとんどないじゃない?それに目の前にはルナ先輩もいるのだ。これで恥ずかしがるなという方が無理難題だと思います!
----------
開店後。今日も癒しを求める人々がやってくる。『月灯りの庭』は、最近何故か女性客も増えてきている。誠に不思議である。
「アカリん、今日はアイシャちゃんがいるって本当?」
「ほんとだよー。ほら、あそこ」
「わっ、ほんとだ!よーし、おじさん今日はいつもより頼んじゃうぞ〜」
「ほどほどにね〜」
このように私がいることを知りテンションがおかしくなる常連の男性客もいれば。
「アイシャ様ー!いつものお願いしますー!」
「かしこまりましたわ。…こほん、ご注文のカクテルですわ。わたくし自ら、手作りさせて頂きましたの。…完飲して頂けますわよね?」
「きゃ〜!!」
と、このように何故か公爵令嬢時代に時折やっていた凄みを見せるということを要求し、黄色い声をあげる女性客のグループ。
今日の『月灯りの庭』は、いつもより3割増し程度にカオスな様相を呈している。
最近は客層も男女入り乱れており、どちらもそれなりの量のアルコールを飲むため、もし退店後に一夜の間違いを犯したとしても、店側は責任を取らないことにしている。だけども従業員は全員女性だし、もしそんなことが起きたら気分がいいものではないので、退店のタイミングを男女でそれとなくずらしたり、店の中は流石にないけど泥酔して店の前でおっぱじめようとする馬鹿たちは冒険者コンビで引き剥がした後水を飲ませているよ。
----------
閉店後。今日は私の復帰というイベントの効果があったのか、いや個人的にはない方が楽なんだけども、客入りが本当に多かった。
「いや〜、アイシャちゃんパワーだね〜」
「ほんとほんと。うちの人気者だねぇ」
「嬉しいやら恥ずかしいやら…」
「にしても、最後のあれは助かっちゃった。アイシャちゃん、ああいう輩の対応慣れてるよね」
今日も閉店間際まで居座り、自分がこの店にいる魔人で1番強いんだと喚く客を正論ブレードで木っ端微塵にしたことかな?まあ…うん、イグルー王国にもいたからね、そういった馬鹿な貴族が…。
「また明日からも忙しくなりそうかな〜?」
「店長、看板の『アイシャ入店中♡』は今日だけにしてくださいまし…」
「え〜」
恥ずかしいから本当にやめてください、切実に。
こうして首都での怒涛の日々を終えた私は、カルストでの平穏な日常に戻ってきた。
──それが思いもよらない形で破られることになるのは、まだ後の話。
最後までお読みいただきありがとうございます!よければいいねでの応援・星評価・感想コメント等をいただけると嬉しいです(作者のモチベにつながります)。次回ものんびりお待ちいただければ幸いでございます。




