29話 お宿「月夜の兎亭」
「えっと…18番通りの4つ目の交差点を左に…」
どうも、受付カウンターでおすすめのお宿を教えてもらったので地図を頼りにお宿を探してる系冒険者のアイシャです。
はいそこ、デジャヴとか言わない。私はカルストで学んだんだ、今度は店名もちゃんと確認するって。
ちなみに、教えて頂いたお宿の名前は「月夜の兎亭」。なんと男性お断りなお宿だそう。お値段もそこそこお安く、治安もそれなりに良い立地とのことで即決。
「曲がって4軒目…ここかしら。『月夜の兎亭』…、よし、間違いありませんわね」
兎をモチーフとした可愛らしい玄関飾りの掛けられたドアを開き中へお邪魔する。
「いらっしゃいませ!」
中へ入ると、兎獣人の女の子が元気よく出迎えてくれた。
「1人なのですけれど、部屋は空いておりますか?」
「はい!おひとり様ですね!お母さーん!お客さんだよ〜!」
女の子がカウンターの奥に向かってそう叫ぶと、奥から
「はいは〜い」
とおっとりした声が聞こえ、1人の妙齢の兎獣人の女性が姿を現した。
…いや好みどストライクなんですけど!?
種族的な特徴である白い垂れ兎耳に、ゆるくウェーブのかかった艶々な白い髪を胸のあたりまで伸ばした彼女は、タレ眉・タレ目にぷっくりとした唇というザ・おっとりお姉さんなお顔。そして服の上からでも分かる大変たわわに実った2つの果実。人妻じゃなければ嫁にされたい美女だった。
「お待たせしました〜。おひとりですね、何日ほど泊まられますか?」
おっと、いかんいかん。美女を前にして心の中が興奮わっしょいしてしまった。
魔国では…というかこの世界では、宿は数日間分の料金を纏めて最初に支払うのが一般的。主な移動手段が馬車・徒歩であることから、街同士の移動でも長旅になるため、その疲れを癒し次の街への長旅の準備で数日間滞在する人がほとんどだから。前世みたいに1晩だけ泊まってすぐ移動…というのは難しいのだ。
「そうですわね…ひとまず7日間お願いいたしますわ」
「かしこまりました。では合計で5,600レソになります〜」
この国では突撃一番(隠語)が1つ100レソなのを考えれば、1晩800レソはかなりお安い値段といえる。これで朝夕の食事と浴室が使えるというのだから、いかに安いかがお分かりだろう。
「はい、ちょうどですね。ではお客さんのお部屋は2階の3号室になります。ミミ、案内してあげて」
「はいっ!」
びしっ!と敬礼で返事した女の子ことミミちゃん。「こっちだよ〜」ということでついて行く。
「ここがお姉さんのお部屋だよ!ごゆっくり!」
にぱーと笑うミミちゃんに、私もつい表情が緩む。
部屋に入ると、決して上等とは言えないけれどもお宿としては十分なベッドに机椅子、クローゼットに個室のトイレ。うん、十分!!
ますますこのお宿が好きになったところで、一旦荷物を置いて1階へ。ミミちゃんとお母さんを見て癒されよう。
「あれ、お姉さんどうかしましたか?なにかありました?」
1階でくつろいでいたミミちゃんが立ち上がりこちらへ来た。
「ああいえ、特に理由はないのですけれど部屋にいるのも退屈だと思って」
嘘です、本当はミミちゃんたちを見て眼福眼福しに来ました。
「そうなの?じゃあわたしとあそぼ!」
「ふふ、よろしくてよ」
はしゃぐミミちゃん。まだまだ子どもだからだろう、無邪気にはしゃいでいるのも可愛らしくつい頭をなでなでしてしまう。
「ふにゅ〜」となんとも気の抜けた声を漏らすミミちゃんをなでなでしていると、奥からお母さんが出てきた。
「もう、ミミったら。ごめんなさいね」
「いえいえ、微笑ましいことですので。ふふ、よしよし」
「ふにゅ〜」
「でも珍しいですね、初日からミミがそれほど懐くだなんて」
「そうなんですの?」
「ええ。この子、元気だけれど臆病なの。だから初めましての人には中々懐いたりしないのだけど…」
ミミちゃん、実は人見知りだったらしい。私はその後お母さん──お名前はラビというそう──とミミちゃんと他愛のない話で時間を潰していた。
「そういえば、ここはお二人で経営されているんですの?ご主人などは…」
何気なく聞くと、ラビさんの表情が少し曇った。やべ、地雷踏んだ?
「夫は…もう…」
あー、これ完全に地雷踏みましたね。他人の家庭事情に踏み込むなというのは常識だろうに、反省はんせ──
ガチャ
「ただいまー」
「お父さんおかえり!!」
──え?
「夫は…もう…すぐ帰ってくると思います。と、ほらね?」
ぱちりとウインクしたラビさん。
いやご主人ご存命かい!いや喜ばしいけども!一体どんなイケメンなんだ…って、え?
「あれ、お客さんでしたか。これは失礼しました」
「え?あの…女性ですの?」
ミミちゃんがお父さんと抱きついた人は胸のあたりまでの亜麻色のストレートヘアーに整った中性的な顔。そして胸はないけどスラリとした身体。…え?
「ふふ、夫は間違いなく男性ですよ?」
「え?…可愛い」
思わずぼそっと言うと、目の前の女性(?)は
「ふふ、そうでしょうそうでしょう。ボクは可愛いでしょう!」
と胸を反らしてドヤ顔するのだった。
………え?
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