28話 所長さんとお話です
所長のアポが取れたので、所長室へ伺うことになりました。
まずは入口まで戻り、階段で2階へ。2階は宿泊室や浴室などがあるとのことだったけれど、それらの部屋は壁際に設けられており、中央部は1階との吹き抜け構造になっていた。イメージとしては、イ○ンモールとかのショッピングセンターみたいな感じと言えば想像しやすいんじゃないかな?
宿泊室は入口側から見て右側が2人部屋、左側が1人部屋に別れており間違えにくい構造になっている。部屋番号も設定されているようで、1人部屋は101・102…と続くのに対し、2人部屋は201・202…と続いている。これも部屋間違いを防ぐ為の施策なんだろう。
ここまで来ると先進的通り越して文明レベルおかしくない?
…まあ、異世界のしかも魔国なんだしそういうこともあるかと考えることにしよう。異世界ファンタジー万歳!
吹き抜け構造は1階の受付カウンターのところまでで、そこから先は全面に床がある。床張りになったところから3メートルくらいの間隔を空けて、3階への階段がある。その先には売店や浴室、訓練所であろう部屋があった。階段の真後ろが訓練所で、階段より先の2階部分はこの訓練所を挟んで行き止まりの通路になっており、入口側から見て左側には浴室があって、館内地図を見ると大浴場っぽい感じ。反対に右側には売店があり、試しに覗いてみると食料品や新聞、更には駆け出し冒険者向けの革装備なども販売されており、まるでコンビニみたい。
…あとゴム製の近藤さんも沢山売ってあった。なんなら1個100レソという破格の値段だった。
さ、さて!気を取り直して、所長さんのところへ行こう!ウン!
と、現実と向き合うと緊張してきた…。この緊張はあれだ、特に何かやらかした訳じゃないけど学校の職員室とか校長室に入る時、異様に緊張する現象に似ている。
3階へ向かう階段をのぼっていると、時折キイキイと木の軋む音がするのは、普段からこの階段を使う人が限られているが故に交換や修理のサイクルが長いからだろうか。
3階にあがると、正面に所長室があり、その両脇に「第1倉庫・第2倉庫」と書かれた部屋がある。恐らく冒険者がダンジョン等で持ち帰ってきた装備や素材、あまり喜ばしいものではないけれど、他の冒険者の遺留品などを保管しているんだろう。
さて、所長室の前についてしまった。ドアの横に『冒険者ギルド魔国本部所長室』と書いてあるので、ここが所長室で間違いはない。
意を決して、コンコンコンとノックを3回。
中から『開いてるよ』という声がした。ということは入室を許可されたのかな。
声の感じは女性っぽかったけど…まだどんな人が想像もつかないなぁ。
「失礼いたしますわ」
そう言ってからドアを開ける。中はザ・執務室といった感じの部屋で応接用のソファがあってその奥に机があって、両脇には本棚がある。そしてそこに座っているのが所長さんなんだろ…って!?
「え…へ?」
「かっかっか、いい反応をするじゃないか。馬車でお前さんのこと、見させてもらったよ」
「な…な…」
なんと、魔国冒険者ギルドのトップは首都に来る時の馬車で一緒だった悪魔族のおばあさんだった!!
所長さんはイタズラが成功した子どものように無邪気に笑…いや笑い過ぎでしょ!机バンバン叩いてヒーヒー言ってるし、その見た目でその笑い方されたら心配なるって!
「あー、笑った笑った。悪いね、座っとくれ」
「は、はい…」
思ったより怖い人ではなさそう…?
私は促されるまま、ソファに腰を下ろした。うわぁふかふかだぁ。
「まずは遠路はるばるご苦労だね。プリムの小娘から預かり物を持ってきたんだって?忘れちまう前に貰っておこうか」
「あ、はい。こちらですわ」
「うん、確かに受け取った。これでプリムからのお使いという仕事は終わりだ。ここからはアタシとお前さんの個人的な雑談といこうじゃないか。おっと、名乗るのを忘れていたね。アタシの名前はグレイシア・ローズワンド。気軽にグレイスと呼んどくれ」
いやいや、流石に平の私が所属してる組織のトップを愛称で呼ぶのは恐れ多いよ!
「えー…グレイシア所長と呼ばせてくださいまし…」
「クックック…やっぱりお前さんはちゃんとしてるね。思い上がってる馬鹿な奴はここで気安くグレイスと呼ぶんだが」
試されてたァ!?
「かっかっか、そう訝しむような表情をするんじゃないよ。わかった、勝手に試した詫びだ、質問があればなんでも答えようじゃないか」
「は、はぁ…では」
Q.馬車に同乗していたのはどうして?
「そりゃあお前さん、あのカルストの街で異例の速さでCランクになって、2つ名冒険者の弟子。そんでもって『淫の魔王』ミリア様の娘ときたもんだ。注目もするし、どんな人柄か見極める必要があるだろう?人ってもんは何気ない日常にこそ性根が現れる。冒険者ってもんは荒くれだったり性根が腐ってやがったりと、大体どこかしら問題を抱えてるもんだ。その点お前さんはいい。子どもに絡まれても嫌がらないし、その上で警戒を怠らない。そんでもって他人を気遣える」
Q.『淫の魔王』って?
「んあ?珍しいことを聞くね…と、そういやお前さんは外から流れてきたんだったか。この国には何人も魔王がいらっしゃる。あんたのとこのミリア様は淫魔で『淫の魔王』。他にも『森の魔王』だったり『地の魔王』『海の魔王』、あとは今じゃ行方不明になってる『血の魔王』なんかもいるね。そしてこの国を治めてらっしゃる人は魔王と区別して『魔人王』陛下と呼ばれているよ」
Q.魔族と人間の違いって?
「さあねぇ…。アタシがこの国に来た時には既に魔族と人間が共生してたから分からないよ。アタシらも時折相手が魔族なのか人間なのか分からなくなる時もあるくらいには似通っているからねえ」
「質問はもう終わりでいいのかい?」
「ええ。お時間頂きありがとうございましたわ」
「なに、構わないさ。お前さんの活躍を期待しているよ」
その会話を最後に私は所長室を後にした。
とりあえず今日はダンジョンとかクエストはやらないで宿を探そう。観光するにもちょっと遅いし。もう夕方だもんね。
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