27話 フィヨール冒険者ギルドへようこそ
アーニャさん親子を彼女らの邸宅(さすが元Aランク冒険者の所有物件、豪邸とまではいかずとも邸宅といえる規模のお家でした)に送り届け、またいつかの再会を約束し、適当な宿で1夜を明かした翌日。
「ここがフィヨール冒険者ギルド…大きいですわね…」
私は冒険者ギルドの前に来ていた。
さすがは首都フィヨールに位置する冒険者ギルドとあって、荘厳だけれども豪華な外装となっている。赤レンガを積み重ねた外壁は建築からかなりの年月が経過しているようで、表面はやや滑らかな触り心地。けれども目地に劣化が見られないことから、定期的に補修が行われていることがわかる。
故郷の領地にも、かなり前の当主が試験的に導入したレンガ建築があるけれど、その修繕費や修繕に要する人員や材料などの報告書を見ると、しばらくレンガを見たく無くなるといえば、これがどれほどコストと時間と人員がかかるか分かることだろう。さすが首都、パないですわ。
入り口は重厚な金属の両開き扉。くっそ重そうだけど、冒険者として日々活動している私なら普通に開けられる。
扉を開き中へ入ると、そこは広々としたホールになっていた。天井からはガラス製の、光魔法を使っているのであろうシャンデリアの魔道具が吊り下げられ、施設内を明るく照らしている。入り口の両脇には2階へ繋がる階段があり、ホールの最奥には『受付』と書かれた看板があり、ガラスの仕切りで幅約1メートル程の間隔で区切られたカウンターでは受付嬢のお姉さんたちが冒険者たちを次々捌いている。
入り口から見て受付カウンターの右側には待ち合わせや休憩のためのフリースペースがあり、カルストのよりもテーブルや椅子の数が多く配置されている。そこでは老若男女、種族を問わず沢山の冒険者たちが待ち合わせや次のクエストについての相談など、思い思いに寛いでいる。時折盛り上がっている声や可愛らしい笑い声などが聞こえてくるのが心地よい。
その向かい、入り口から見て左側には食堂がある。食堂といってもガッツリとしたお食事からお酒やおつまみまで幅広く提供している。今日も昼間から酒を飲む冒険者としては満点の行いをしている愛すべき馬鹿どもがいるようで、入り口にまでアルコールの香りがプンと漂っている。
実は冒険者ギルドの食堂はすべて冒険者ギルドが運営している自社(社?)営業であり、これを大陸中で展開しているというのだからとてつもない。
さて、このままギルド構内の観察に時間を費やしても楽しいけれど、そろそろここに来た目的を果たさなくては。
ご丁寧に『初めての方はこちら』という看板が立てられたカウンターがあり、ちょうど空いていたのでラッキー。
「はじめまして、フィヨール冒険者ギルドへようこそ!冒険者カードはお持ちですか?」
受付に立っているのは魔族らしき私と同じくらいの身長のお姉さんで、桃色のつやつやとした髪をポニーテールで纏めその先端は肩口で揺れている。
「こちらですわ。お願い致します」
「拝見致します!アイシャ様、本拠地はカルスト、人間族…」
お姉さんは私の冒険者カードを受け取ると、水晶に手を当て何かを探している。勝手な想像だけど、魔法か魔術かで冒険者ギルドに所属する冒険者データベースから私の情報を探しているんじゃないだろうか。
「…はい、確認いたしました。アイシャ様、当ギルドについてのご説明は必要でしょうか?」
「そうですわね…。ええ、よろしくお願い致しますわ」
大まかには見たけど、2階に何があるとか、食堂の営業時間とかも知りたいし。
「かしこまりました。ではまず向かって右側、食堂でございます」
カウンターから向かって右側、つまり入り口から見ると左側だね。
「こちらでは定食や軽食などの他にも酒類やスナックなどの提供も行っております。時計が後ろの10の刻になりますと営業終了となります」
この国の時計は、前世地球と同じく12の時…刻と、60の分…これは変わらず分で構成されており、人々の時間感覚はこれに準拠している。不思議なものだ。その分私でも馴染みやすいというメリットがあるのでいいことだけれども。
「続いて向かって左側はフリースペースとなっております」
入り口から見て右側、カウンターから向かって左側。
「こちらはギルドが空いている限りは常に解放されております。やむを得ない事由によりギルドが閉館する場合にはこのフリースペースも閉鎖されます」
そう、冒険者ギルドは緊急を要する場合を除き、基本的にどこも24時間営業である。これに関しては緊急時などに怪我人や状態異常にかかった冒険者を受け入れなければならないためではあるけれど、結果として夜勤という形での雇用を生み出しているのだからこの世界の文明レベルからすれば先進的だね。
「階段を昇られまして2階には売店・訓練所・宿泊室・浴室があります。売店では保存食や魔道具など冒険に必要なものから、避妊具などの生理用品、逆に排卵を促進する薬なども販売しております。こちらは後ろ12の刻、つまり日付の変わる刻まで営業致しております」
うーん、この性に対するゆるゆるの風俗よ。ちょっとお姉さん顔赤いよ?あとちらちら私の胸見るのやめなー?アイシャさん勘違いしちゃうから。
「宿泊室は個室タイプで1人部屋・2人部屋をそれぞれ20部屋づつ、合計40部屋ご用意しております。宿泊の際には料金とギルドへの申請が必要です。また、浴室は夜は後ろ11の刻まで、朝は前6の刻からご利用頂けます」
なるほどなるほど、ギルドの中にビジネスホテル的な施設もあると。先進的すぎない?
「訓練所については実際にご利用頂く際に別途説明を致しますのでこのでは割愛させていただきます。そして3階には所長室がございます。以上が当ギルドについての説明となります。何かご質問はありますか?」
「いえ、十分なご説明を感謝致しますわ」
「かしこまりました。それではお待たせいたしました、ご要件をお伺いします。あ、失礼しました、私は受付嬢のリギルと申します」
「リギルさん。では早速なのですけれど、所長様にお伺いすることは可能でして?カルストの支部長から書類を預かっているんですの」
「かしこまりました、少々お待ちください!」
そう言ってリギルさんは奥へ引っ込み、色んな人に聞いたり頼んだりしていた。ぱたぱたと忙しなく動くリギルさん、なんか可愛い。
「お待たせいたしました、所長のアポイントが取れましたので、3階の所長室へ向かって下さい」
「かしこまりましたわ。お早い対応、ありがとうございましたわ」
よき冒険者ライフを、という締めの挨拶を受け階段へ向かう。所長って誰だろう、怖い人じゃなければいいなぁ。
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