26話 首都に到着です
あれからさらに数時間──といっても私は子どもたちと戯れていたのであっという間に感じたが──が経過し、馬車はついに首都へと入った。
これまで何度も首都としか呼んでいなかったけど、この統治機構の所在する街の名前は「フィヨール」という。
フィヨールの都市部に馬車が入ると、まず街道の広さに驚いた。馬車が離合できる程の幅を持つ石畳の街道、そしてその両端には歩行者用だろうか、少し段差をつけた道がこれまた石畳で整備されていた。これだけで文明力や技術力の高さを実感させられるのだけど、建物は煉瓦製に加え、コンクリート製にも見える建物すらある。故郷(追放されたけど)との違いに驚くばかりで、周りから見れば私はきっとおのぼりさんのように見えただろう。いや実際おのぼりさんなんだけど。
そうこうしている内に馬車は都市の中心部へと進み、ついに駅へと到着した。
「お疲れ様でした、フィヨール中央駅でございます。お忘れもののございませんようお気をつけください」
駅員の人の案内を受け、降車。子どもたちは散々はしゃいで疲れたのか寝てしまい、せっかくならということでお母さんが男の子を、私が女の子をおんぶしていくことにした。
「馬車の中だけでなくここでも手伝って頂けるなんて、なんとお礼を言ったら良いやら…」
「よいのですわ。わたくしが暇を持て余していて、貴女が困っていた。助けを差し伸べることに、それ以上の理由は必要ありませんの」
「立派ですね…。あぁ、そういえば私、名乗りもせずに…!私はアナスタシア・ローマンと申します。気軽にアーニャとお呼びください。このご恩は生涯忘れることはありません」
「アナスタシア・ローマン様…。では、そのようにアーニャ様と。わたくしはアイシャと申しますわ」
「アイシャ…も、もしかしてあの!?」
「あの、が何かは存じ上げませんけれど…あの町でアイシャという冒険者はわたくし以外には在籍していないかと」
あのってなんだあのって。もしかして私って有名?有名なっちゃった?ご本人登場とかでキャーキャー言われる存在になっちゃった?
「あのやたらと艶めかしいバニースーツに身をつつみ、その割に流れるような洗練された動きで魔物を屠るドスケベキラーと名高いあのアイシャさん!?」
「こんなところで大声で言わないで頂けますこと!?」
なんか複雑な方向に有名になってたよ!しかもこんな公然な場でそんな大声で言わないでもらっていいかな!?幸い周りに人居なかったから良かったものの、これが人が沢山いるところだったら私もう首都に来れなくなるよ?!
「あ。ご、ごめんなさい!」
「い、いえ、まあバニースーツの件に関しては否定できませんのでいいのですけれど…」
「その…今はバニースーツじゃないんですね」
アーニャさん中々大胆だね?普通そんなこと聞けないよ?
「そうですわね。わたくしが冒険者として活動する際にバニースーツを着用するのは少々込み入った事情があるのですけれども…。早い話が制服と普段着の違いのようなものですわ」
流石にゲイザーに呪われてバニースーツ着てないと戦闘力ガタ落ちするようになっちゃったからです!なんて言える訳がなかった。
「それにほら…普段からバニースーツを着用しているとご子女の教育によろしくないでしょうし、ましてや馬車という見ず知らずの性別も分からない相手と数時間閉所で時間・空間を共有する場でバニースーツを着ると、その…また別の問題になりそうですので」
「あぁ…。そうですよね…」
そう言ってアーニャさんはどことは言わないけど私と自分のとを見比べながら遠い目をしていた。いやまあ危ない理由はそこだけじゃないと思うけどね?というか別に小さくはないでしょうあなた。
「本当に、この2人の相手をして頂いてありがとうございます。おかげでしばし眠ることが出来ました」
「いえいえ、わたくしも暇つぶしになりましたので。お子様方のお名前はなんと?」
「上の息子がティガ、下の娘がアルマといいます。2人とも、旦那が元冒険者だからか、『将来は冒険者になる!』と言っていて。アイシャさんに興味を示したのもそれが理由だと思います」
「なるほど…。カルストにいらしたのは、もしかしてお子様にせがまれたりしたんですの?」
「ああいえ、旦那の姪がカルストの冒険者ギルドで働いてまして。生憎旦那が動けないということで、私が用事を済ませに行こうとしたら2人に『ボクたちも連れてけ』とせがまれまして」
と苦笑しながら話すアーニャさん。なんだか微笑ましくていいね。でも母親としては冒険者になってほしくなかったり?
「いえ、それはないですね。なにせ私、現役の冒険者だった頃に旦那に惚れて。冒険者だからと渋る旦那を押して押して、最後には既成事実を作って結婚したので」
わぁお強か。
「そ、そうなんですのね…?そういえば、その姪の方のお名前を伺っても?もしかすると知っている方やもしれませんので」
「あぁ、名前ですか?プリムっていうんですよ」
「え?」
プリムって…え?
「そ、その方の髪色は…?」
「赤ですね。彼女、いつもポニーテールにしてて可愛らしいんですよね〜」
いや、アーニャさんの旦那の姪っ子って支部長かよ!!
どうしよう、支部長の叔父の奥さんとずっと話してた事実に動揺が止まらないよ。
てか支部長って元A級冒険者だったよね?その叔父で元冒険者ってもしかしてアーニャさんの旦那さんってすごい人なのでは?
「旦那は引退する前はAランクでしたね。結婚を渋っていたのも『冒険者はいつ死ぬか分からないから、ずっと隣で支えてあげられるか分からない』と言っていました。まあだからこそ既成事実作って結婚したんですけど」
え、アーニャさんの旦那さんめっちゃしっかりしてる…。
「というか、旦那さんの姪がプリムさんというのは年齢的に合わないように感じるのですが…。アーニャさんお若いように見えるのですけれど…?」
「うふふ、若いなんて。私、銀狐種なので寿命が長いんです。旦那は今40を超えた年齢なんですよ」
「あぁ、なるほど」
人は見た目によらざるとは正にこのことか…。
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