25話 テンプレはないそうです
あれから数時間、途中の町や村でトイレ休憩や軽食の販売を含めた停車を何度か行いつつ、馬車の旅は平穏に、恙無く進んでいる。
本を読み終わってからは暇だったので目的もなく後ろに流れる景色を眺めてみたり、馬車から降りて馬と触れ合ったりして時間を潰していたけど、ふと他の乗客はどうなんだろうと思ってそれとなく見ていると、学生らしき龍族の子は教科書らしき本を熱心に読み込んでいた。試験が近いのかな?
悪魔族のおばあさんはぼ〜っとしていたり、手紙のようなものを読んだりしていた。長生きの秘訣はきっとこうして張り詰めないことにあるんだろう。
獣人族のお母さんと子どもたちはというと、体力が有り余るお子さんたち(主に男の子の方)が遊び回るのをお母さんが必死に抑えていた。お疲れ様です…。
ところで、ここまでの旅路において、1度も魔物や盗賊などによる襲撃を受けていない。イグルー王国でさえこれらによる被害が後を絶たず、毎年それなりの被害と対策予算を割いていたのだけど…。
疑問に思って御者の人に
「魔物や盗賊の類の襲撃に遭いませんけれど、これは珍しいことですの?」
と聞いてみたところ、
『うんにゃ、地方路線はどうか知らねぇが、少なくとも首都に続く幹線はほとんどこんな感じだな。何でも道の両端に魔物避けの効果がある花が植えられてるそうでな。野盗や盗賊に関しても、1日に1往復は警備の為に騎士団が巡回してくれてる。俺っちもこの路線に就いてウン十年になるが、襲撃に遭ったのは片手で数えきれる程度だ。そんな状態であんたみたいに冒険者の兄ちゃん姉ちゃんを無料で乗せて赤字かと聞かれれば確かに赤字だが、その分ギルドから補助金が貰えるからな。大事なのは万が一に備えることだ。その点、頼りにしてるぜ、エロい体した姉ちゃんよ』
と懇切丁寧に教えてくれたので、首都の駅に就いたら駅の人に御者のセクハラを通報してやろうと思った。
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暇を持て余したので得物の手入れをしていると、
「おねえさん、ぼうけんしゃなの?」
と声をかけられ、声のした方を見ると向かいに座っていたはずの獣人族の女の子が隣にちょこんと座っていて、内心くっそびっくりした。ちらっとお母さんの方を見ると、男の子の方に気を取られてこちらには気づいていないようだ。
「そうですわ。わたくしは冒険者ですので、もしもの時はお任せくださいませ」
「おねえさん、はなしかたがお姫さまみたい!」
それなりに大きめな声で女の子が喋ったことでお母さんもこちらに気づいたようで、私に向かって「ごめんなさいごめんなさい」と手を合わせてぺこぺこしていたので大丈夫とジェスチャーで伝えておいた。周囲を見るとおばあさんは慈愛に満ち溢れた表情でにこにことしており、学生の子も温かい表情でこちらを見ていた。平和だねぇ。
──それにしても、お姫様みたい、かぁ。
あのクソバカカス王子に追放される前まではお姫様になるための教育を受けてきていたから間違ってはいないのがなんか複雑というか。
おばあさんも学生の子も、「それなりに事情があるんだろうな」みたいな表情を向けてきているけど言葉にしないあたりしっかりしてるなと思う。お母さんはまた手を合わせてごめんなさいしまくっていた。大丈夫だから!
「ふふ、ありがとうございますわ。お嬢さん」
「おねえさん、あのねあのね、わたし大きくなったらぼうけんしゃになるの!」
「まあ、そうなんですのね。応援しますわ」
「えへへ!」
なんて女の子とおしゃべりしていると、不意に女の子が私の膝の上に座ってきた。尻尾がなんとなくくすぐったい。
「おねえさんのここ、ママよりおっきい!」
と私の胸を触りながらのたまったことで少々雰囲気がびしりと固まったけれど問題なし。お母さんは「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい(ry」と謝り倒してたけど大丈夫。大丈夫ったら大丈夫。
「わたししょうらいはおねえさんとおなじくらい大きくなる!」
「え〜…頑張ってくださいまし」
子どもが故の爆弾発言の連続にお母さんはもう残像が見えそうなくらいぺこぺこしているけどそろそろ腰が心配になってきた。
女の子は…とりあえず頑張れ。よく食べよく寝て適度に運動すれば大きくなるんじゃない?あと個人差。「揉めば大きくなる」という迷信は信じないようにね?
私が女の子とおしゃべりしていると、男の子の方もこちらに興味をもったのか、
「ボクも将来はぼうけんしゃになる!」
とこちらへ来たので、話し相手になることに。お母さんは休んでいてもらおう。ここまでずっとあやしてるの見てたし、母親ってめちゃくちゃ疲れるだろうし…。
「おねえさんの武器さわってもいい?」
「危ないのでやめておいた方がよろしいですわ。鋭いので手を切ってしまうかもしれませんから」
「じゃ、じゃあ近くでみてもいい!?」
「それならまあ…ですが決して触らぬように」
と言って鞘から刀身を抜いて見せる。男の子は興味津々に刀を見ていた。まあ多分この世界には(都合よく日本っぽい国があれば別だけど)刀なんて無いだろうし、珍しいんだろう。なんかやたらスンスン言ってる気がするけど、そんなに鼻息荒くするほど面白いのかな。ほら、男の子って剣とか好きじゃん?
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