9「騎士らしからぬ女騎士」
「お久しぶりね、アロエラさん。いつぶりだったかしら」
「こうして直接顔を合わせるのは、貴様の刑が執行されて以来だ」
険悪な雰囲気に、緊張が走る。どうやら、お友達同士ではないらしい。
「潔癖症のあなたが、こんなところに来るなんてね。もしかして、お仕事?」
「ふん、貴様に教える義理はない」
「じゃあ、私達もあなたに構う義理はないわね。さようなら」
そう言い残し、クレアさんはその場を去ろうとするが……。
「……これは、どういうこと?」
アロエラという女騎士が、剣の切っ先をクレアさんに向けていた。まるで、逃がさんとばかりに。
「私も貴様などに用はない。だが、元死刑囚である貴様が闇市を訪れたとなると、見逃すわけにはいかん」
「へぇ、じゃあ逮捕してみれば。そもそも、闇市の存在は王国側も黙認しているはずよ」
「……っ‼」
痛いところをつかれた、とばかりに苦渋の表情を浮かべる女騎士。
「だ、だが、貴様のような罪人がこんなところに訪れたとなると……何か企んでいるに決まっている‼ また、殺人計画でも練っているのだろう‼」
「はぁ……」
支離滅裂な発言に、クレアさんは嘆息。クレアさんだけじゃない。俺も、この女騎士の発言に呆れている。
「ドランドも、大変ね。こんな部下を持って」
「——貴様ぁぁぁぁぁ‼」
直後、激高した女騎士が剣を振り上げた。だが、とっさに俺はクレアさんを突き飛ばした。そして、振り上げた剣の切っ先は俺の頬に一直線。
「痛っ……‼」
幸い、重傷は負わずに済んだ。痛みの度合いからして、少し頬の表面を切っただけのようである。
「た、タイヘイ君、大丈夫⁉」
「ええ、全然大丈夫ですよ。ちょっと血が出てるだけで」
すると、我に返ったのか女騎士が青ざめた表情をしている。騎士が一般市民に、しかも一方的に怪我を負わせるなど、騎士道に反する行いだ。
「……よくも、私の大切な子に怪我を負わせたわね」
クレアさんは、持っていたハンカチで俺の血を拭った後、女騎士を睨みつけた。その表情は、普段の温厚なクレアさんからは想像もつかない、冷たいものだった。
「ひっ……‼」
女騎士は、クレアさんの表情を見て後ずさりした。逆にクレアさんは、段々と距離を詰めていく。
「前から、あなたのやり方は気に入らなかった。自分の考えを一方的に押し付けて、相手が悪だと決めつける」
さらに、距離を詰めていく。さらに、さらに、さらに。
「ドランドから、何を学んでいるの? あの人の側にいて、何も学ばなかったの?」
そして、女騎士とクレアさんの距離が完全になくなる。女騎士は腰を抜かしてその場に尻もち、一方でクレアさんは彼女を見下げている状態だ。
「——今度、この子に何かしてごらんなさい。あなたを、死ぬより酷い目に遭わせてやる」
「……ひっ、ひっ‼」
恐怖からか、呂律が回っていない女騎士。涙ぐみながら、彼女はどうにか立ち上がり、逃げるようにその場を立ち去った。




