10「愛しい子」
「ごめんね。危ない目に遭わせちゃって」
女騎士が居なくなったのを確認した後、クレアさんはこちらへ振り向く。表情は、いつもの温厚な彼女のそれだった。
「いえ、気にしないでください。でも……あの人、何だったんですか」
「あの人は、近衛騎士団の副団長よ」
「え……」
副団長にしては、威厳がないというか、小心者というか……。あんな姿見た後だと、そんな感想しか出てこない。
「なんだか、クレアさんのこと目の仇にしてたみたいですけど」
「ああ……まぁ、色々あってね」
クレアさんは、それ以上何かを語ろうとはしなかった。ドランドという、聞きなれない人物の名前も出てきたが……誰なんだろう。
俺たちは無言のまま、帰路に着いたのだった。
※ ※ ※
——その夜。夕ご飯を食べ終え、後は寝るだけという状況。だが、今日は目が冴えて眠れなかった。
「ドランドって誰だ……」
クレアさんの口から出てきた、その名前が頭から離れない。女の名前っぽくないので、恐らく男だと思う。
「……」
もしかして、恋人だったりするのか? 話しぶりから、クレアさんはドランドという男とは関わりが深いようだが。
「はぁ……」
恋人でないことを願う。この一か月間、クレアさんと俺は一緒だったが、ドランドとやらがやって来たことはない。恋人の線は薄い……のか?
それを、俺の方から尋ねるのはさすがに憚られる。クレアさんの方から話してくれるのを待とう。
「……寝るか」
今日は、色々あって疲れた。明日も早いんだ、さっさと寝よう。灯りを消し、俺はベッドへと潜り込んだ。
※ ※ ※
「……ごめんね、タイヘイ君。もう、絶対にあなたを傷つけさせない」
タイヘイが寝静まった直後。寝室の扉が、ゆっくりと開かれる。
「私、身勝手な女だから……あなたを手放したくないの」
小さく呟き、彼女はタイヘイの側へと近寄る。彼の寝顔を見て、微笑んだ。
「ふふ、いい寝顔。おやすみ、私の大切なタイヘイ君……」
そして、彼の額にそっと口づけをした。深い眠りについている彼は、そんなことはいさ知らず……。




