第八話 起死回生、佐藤のタスキ
山本の耐久強化は、体全体を硬くする。だとしたら——関節も、同じように固めているのか?
もし関節まで硬質化しているなら、腕は曲がることはないだろう。硬質化が薄い関節を狙えば——。
山本の拳が迫る。
俺は足が動かないまま、上体だけを僅かに傾けた。拳が頬をかすめる。
今だ。
全身に散らしていた強化を、一点に絞る。拳へ。拳だけへ。
体の感覚が変わった。腕が、重くなる。熱くなる。
「なっ——」
山本が僅かに目を見開いた瞬間、俺は山本の肘の関節めがけて、その一撃を叩き込んだ。
鈍い音がし、
「がぁっ……!」
山本の口から、初めて悲鳴が漏れた。渾身の一撃が山本にダメージを与えたのだ。
やはり関節は硬質化できない。固めれば腕が動かなくなるからだ。山本自身は攻撃にしか目を向けていなかったせいか、そのことを全く考慮をしていなかったのだ。
山本は腕を押さえながら、俺を睨んだ。その目に、初めて怒りが混じっていた。
「……てめぇ。」
強化の残りが、あとわずかなのがわかった。
使い切る。ここで、全てだ
俺は残った強化のすべてを、もう一度拳に注ぎ込んだ。体の中が空になっていくような感覚。
足はまだ動かない。それでもいい。
山本が硬質化を展開しようとするのが見えた。体の表面が光を帯び始める。
だが——遅かった。
俺の拳が、山本の顔面に直撃した。
いつもの硬さじゃなかった。ダメージを負った山本の硬質化は、明らかに薄かった。
重い手応えが、拳から全身に伝わった。
山本の体が、ゆっくりと後ろへ傾いた。
そのまま——地面に、倒れた。
――静寂――
俺は荒い息をつきながら、その場に膝をついた。強化は完全に切れていた。足の固定も、同時に解けていた。
終わったのだ。息を整えながら、ふと顔を上げた。
そして俺は剛の方を見た。その瞬間——俺は目を疑った。
剛が、片膝をついていた。
三人を相手に、あの剛が——押されていた。一人が剛の腕を掴み、もう一人が足を封じている。残りの一人が、拳を振り上げていた。
「剛さん——!」
声が出た。体が動こうとした。だが足に力が入らない。強化はもう残っていない。
剛は俺の声を聞いて、こちらを一瞥した。
諦めたかのような目をしていた剛が、一気に目の力が戻ったかのように俺に向けて口を開いた。
「翔!お前に佐藤の力を託す。好きにしろ!」
振り上げられた拳が、剛へ向かって落ちてくる。
その瞬間——切れたはずの強化が、もう一度体の中に満ちていくのがわかった。
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