第七話 因縁決着、勝利の行方
翌朝、体の重さはまだ残っていた。それでも昨日より確実に速く起き上がれた。
リビングにつくと、剛はすでに台所に立っていた。
「起きたか。顔洗ってこい、飯できてるぞ」
簡素だが温かい朝食を二人で食べた。剛は他愛もない話をしながら飯を食う。修行中の厳しさが嘘のような、穏やかな時間だった。食い終わると、剛は茶を一口すすってから立ち上がった。
「じゃあ行くか」
「はい」
廃工場へ向かう道は、朝の静けさの中にあった。路地を抜け、末位区の外れへ続く道を歩く。
廃工場が見えてきた頃だった。剛が、ふと足を止めた。
「……剛さん?」
俺も立ち止まる。剛は無言のまま、廃工場の入口を見据えていた。
その視線の先に——人影があった。一人じゃない。四人。
廃工場の錆びた門の前に、腕を組んで立っている。朝の薄い光の中でも、その顔はすぐにわかった。
「よう。随分と早起きじゃねぇか、佐藤翔。」
俺の目の前には、かつて蒼を傷つけた張本人である山本拓也がいた。
「なんで……ここがわかったんだ。」
思わず俺の口から出ていた。
「調べりゃわかるさ。お前が思ってるより、俺の耳は早いんだぜ?」
山本は、肩をすくめてこう言った。その後ろには参位である三人の男が並んでいる。
山本が顎で合図をする。すると三人の男たちが、じりじりと剛の方へ動き始めた。
剛は小さく息を吐いた。
「翔。山本はお前がやれ。」
「……わかりました。」
次の瞬間、場が動いた。
三人が剛へ向かって踏み込む。剛はそれを見て——ほんの少しだけ、笑った気がした。
俺は山本だけを見た。
「久しぶりだな、翔。」
山本はゆっくりと歩み寄ってくる。急がない。焦らない。
俺は静かに能力を展開した。全身に力が満ちていく感覚。身体強化——持続時間はまだ短い。長くても数分が限界だ。だからこそ、この時間で決めなければならない。
山本の体が沈んだ瞬間、俺は横へ動いた。重心を見ろ。剛の声が頭の中で響く。
山本の踏み込みが来る。俺は半歩外へ。拳が耳元をかすめた。
「……へえ。」
山本が少し目を細めた。
俺はすぐさま踏み込み、強化した右を打ち込んだ。
手応えがあった。確かに当たった。
だが——山本はびくともしなかった。
「痛くもねぇ。」
山本は笑った。その体の表面が、僅かに光を帯びているのがわかった。
耐久強化、そういうことか...。
いくら強化した拳を叩き込んでも、山本の耐久がそれを上回れば意味がない。
「こんなもんかよ佐藤ぉ。お前の攻撃は俺には通じないぜ?」
山本の返しの左が来た。俺は腕でガードしたが、衝撃が腕ごと吹き飛ばされるような重さだった。
体が大きく後退する。
「がっ……!」
堪えた。倒れなかった。
強化を上乗せする。もっと強く、もっと速く。それしかない。
俺は再び踏み込んだ。今度は連打だ。右、左、右——全弾、山本の腹へ叩き込む。
山本は一歩も動かなかった。ただ、腕を組んだまま受け続けた。
「無駄だって言ってんだろ!」
次の瞬間、足元に異様な感覚が走った。
地面から、何かが這い上がってくるような重さ。
見ると——俺の足が、地面に縫い付けられたように動かなくなっていた。
「っ……!」
山本の、もう一つの能力である足の固定だ。
「これが俺の本命だ。」
山本はゆっくりと俺へ近づいてくる。俺は足を引き剥がそうと全力で強化をかけたが、びくともしない。
強化の残り時間が、削られていくのがわかった。
まずい。このままじゃ——。
山本の拳が、無防備な俺の顔面へ向かってゆっくりと振り上げられた。
その瞬間、ある考えがふと俺の頭によぎった。
ご覧いただきありがとうございます。いよいよ山本と翔の再戦が始まりました。能力の相性的に翔はかなり不利な状況に追い込まれています。次回、果たしてどう切り抜けるのか。引き続き応援よろしくお願いします。次回もお楽しみに〜




