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第六話  修行と訪れの時

 翌朝、目が覚めると全身が悲鳴を上げていた。

 筋肉という筋肉が軋み、起き上がるだけで奥歯を噛みしめなければならなかった。

 だが、不思議と気持ちは澄んでいた。


「起きたか」


 台所から剛の声がした。もう飯ができているらしい。簡素だが温かい朝食を二人で食べ、俺たちはすぐに廃工場へ向かった。


 その日の修行は、前日よりもさらに苛烈だった。


 「足を見ろ足を。相手じゃねぇ、自分の足をだ」


 「……っ」


 「重心が前に突っ込んでる。だから捌かれるんだ」

 

 剛の言葉は短く、的確で、容赦がなかった。

 午前中は足運びと重心移動だけをひたすら叩き込まれた。同じ動作を何百回と繰り返す。地味で単調な作業だったが、剛は一切の妥協を許さなかった。わずかなズレでも即座に指摘が飛んできた。

 午後からは実際に打ち合いを交えた反復練習に移った。


 「来い」


 「……っはッ!」


 殴りかかる。また地面に転がる。

 殴りかかる。また地面に転がる。

 何十度と繰り返した。前日と何も変わらない時間が続いていた。

 

 だが——夕方に差し掛かった頃だった。

 剛が踏み込んでくる瞬間、その足の重心がわずかに内側へ入るのが見えた。ほんの一瞬の、微細な揺れ。気づくより先に、体が半歩横へ動いていた。

 遂に――俺の一撃が剛の体をかすめたのだ。


 「……」


 剛は何も言わなかった。ただ一瞬だけ目を細め、すぐにまた構え直した。

 避けられたわけじゃない。たまたま体が動いただけかもしれない。それでも俺は確かに感じた。


 その日の修行が終わった後、帰り道で剛はぽつりと言った。


 「今日、一回だけ悪くなかった。」


 それだけだった。それだけで十分だった。

 アパートに戻ると、夕飯を食べるより先に意識が途切れそうになった。


 「飯食ってから寝ろ。倒れてから後悔するな」


 剛に言われ、無理やり箸を動かした。食い終わると同時に、布団に倒れ込むように眠った。


 その頃、末位区の路地裏では——。


 「見つけたぞ」


 山本拓也は薄暗い街灯の下で、スマホの画面を眺めていた。


 「佐藤剛……末位区三丁目、302号室。」


 画面には、古いアパートの外観写真と住所が映っていた。仲間の一人が聞き込みで拾ってきた情報だった。


 「佐藤って苗字の年寄りのとこに転がり込んだってか。」

 隣に立つ男が言った。


 「翔がそこにいるってことは確かか?」


 「ああ。昨日の夜、荷運びの同僚に確認取った。急に仕事辞めたらしいぞ、あいつ。」


 山本は口元を歪めた。


 「……逃げ込んだつもりか。ッハハ」

 「いいじゃねぇか。巣ごもりしてるところを潰してやる。」


 山本はスマホをポケットにしまい、夜の闇の中をゆっくりと歩き出した。


 「佐藤翔。」

 「次会う時は、もう逃げ場はねぇぞ。」

ご覧いただきありがとうございます。次回で山本たちと翔が相まみえるかと思います!これからも引き続き面白い小説がかけることを目指して頑張っていくので、応援の程よろしくお願いします。次回もお楽しみに〜

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