第十三話 臨機応変、届いた一撃
二回戦の相手は、小柳という苗字の男だった。
細身で、どことなく飄々とした雰囲気の男で、コートに立った瞬間から周囲の地面に生えた柳の枝をゆらゆらと揺らし始めた。枝が伸びて俺の足元に絡みつこうとしてくるが、拘束力がほとんどない。引っ張れば簡単にほどける程度の力だった。
強化した踏み込みで一気に距離を詰め、胴に一撃を入れると小柳はそのまま崩れ落ちた。審判が手を上げるまで、さほど時間はかからなかった。
三回戦の相手は西田という男で、試合が始まった瞬間に強烈な光を放ってきた。西日のように視界全体を白く塗りつぶす能力で、目が眩んで前が見えなくなる。だが剛との修行で叩き込まれた重心を読む感覚が、光の中でも相手の動きを拾っていた。
足音、重心の揺れ、空気の変化。見えなくても、どこにいるかわかった。踏み込んで一撃を入れると、光が消え、西田が膝をついていた。
二回戦も三回戦も、一回戦と比べれば苦戦と呼べるほどのものではなかった。それが素直に嬉しかった。一ヶ月半前の自分なら、どちらの相手にも手こずっていたはずだ。
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四回戦の相手は、堀内という苗字の男だった。
コートに入ってきた瞬間から、周りの空気が変わった。がっしりとした体格で、無駄な動きが一切ない。 三回戦までの相手とは明らかに違う、落ち着いた目をしていた。観客席のざわめきも、心なしか大きくなった気がした。
「佐藤か。ここまで来るとは思わなかった」
堀内は感情のない声でそう言った。挑発でも驚きでもない、ただの事実として口にしている声だった。
審判の合図とともに試合が始まった。堀内が動いた、と思った瞬間、俺の足元の地面が陥没した。直径三メートルほどの堀が、音もなく俺の周囲に広がっていく。中村の壁とは真逆だった。
上に閉じ込めるのではなく、下へ落とす。堀の深さは四メートルほどで、這い上がろうとしても壁面が滑らかで足をかける場所がない。
強化した足でジャンプして堀の縁に飛び乗った。だが着地した瞬間、またその場に堀が作られた。縁に立った瞬間が次の堀のスタート地点になる。跳んでも跳んでも、着地するたびに地面が崩れていく。
中村戦と同じように足を使おうとしたが、上がっても意味がなかった。縁に立てても、その場がまた堀になるだけだ。
堀内は離れた場所から静かにこちらを見ていた。焦る様子も、攻めてくる様子もない。ただ待っている。俺が消耗するのを。
「……なるほど」
俺はいったん堀の中に降りて、息を整えた。上に出ても意味がないのだとしたら、別の方法を考えるしかない。
堀内の能力は地面を掘り下げることだ。掘れるのは地面だけで、堀内自身が宙に浮いているわけじゃない。地面の上に立っている以上、足場がなくなれば堀内も落ちる。
ならば...足場をなくせばいい。
俺は堀の中から堀内の位置を確認した。堀内は依然として余裕な様子を見せていた。
堀内を誘導する、これが俺が今からすること。
俺は強化した足でジャンプし、堀内が立っている地面の周りに飛び乗った。案の定、その場に堀が作られる。その次に、また堀内が立っている地面の周りに飛び乗り、そしてその着地地点に掘りが作られる。堀内が立っている場所の円周上に段々と堀ができ始める。
堀内の眉がわずかに動いた。初めて表情が変わった。
「……面白い動きをするな」
俺はさらに横へ跳び、堀内の真横の位置に立った。堀が作られる、だがそれでいい。俺が欲しいのはその堀だ!
そして俺は堀内の円周上に掘りを作らせるための誘導に成功し、そのまま堀内の立っている場所の円周上の堀の底に降り立った。
次の瞬間、俺は強化を右の拳に全部叩き込んだ。三人分の力が、拳に集まっていく。体が重くなり、熱くなってくるのが分かった。
「——お前っ、何をする!」
そして堀の底から、堀内が立っている足場に強化した拳を全力でぶつけた。
鈍い音がして、地面が大きく揺れた。堀内の足元の地盤が根元から崩れていくのがわかった。
支えを失った地面が、堀内ごと内側へ崩れ落ちてくる。
今だ。
崩れ落ちてくる堀内に向かって、俺は強化を足に切り替えて跳び上がった。体勢が崩れたまま落ちてくる堀内の顎へ、足から拳に強化を切り替えて、真下から叩き込んだ。
重い手応えが、拳から全身に伝わった。堀内の体が、ゆっくりと後ろへ倒れ込む。
――静寂――
審判が駆け寄り、しばらく確認してから手を上げた。
「勝者、佐藤翔!」
観客席のざわめきが、今度は明らかに違う色をしていた。笑い声ではない。誰かが「佐藤、本当に勝ちやがった」と呟くのが聞こえた。
俺は息を整えながら立ち上がり、観客席の端に目をやった。蒼と剛が立ち上がって叫んでいた。
「残るは準決勝と決勝のみだ。ここで勝ち上がって佐藤全員を参位にしてやる。」
俺の覚悟は固まった。
今回は他の話と比べて少し長めになってしまいましたが、最後までご覧いただきありがとうございました。昨日に各話の題名を変えさせていただきましたが、特に意味は無いので「あっ、変わったんだな」とだけ思っていただければ嬉しいです。次回もお楽しみに〜




