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第十四話  石と川の狭間、絶体絶命の中で

 準決勝の相手は、石川章という名の男だった。


 コートに入ってきた瞬間から、周りの空気が変わった。章の風格は四回戦までの相手とは明らかに種類が違った。

 観客席のざわめきが大きくなるのが聞こえたが、石川は気にする様子もなく、ただこちらをまっすぐ見ていた。


 「佐藤翔だな。ここまで勝ち上がってきたのを褒めてやる」


 低く、落ち着いた声だった。挑発でも威圧でもない、ただ事実を確認するような口調だった。


 「そりゃどうも。でも今回も勝ちますよ。俺には、負けられない理由があるんで」


 「そうか。俺も一緒だ。構えを取れ佐藤翔、いくぞ」


 審判の合図とともに試合が始まった。俺は迷わず足に強化を叩き込んだ。強化した足でコートを蹴り、一気に距離を詰める。拳に強化を切り替えながら石川の懐へ飛び込もうとした、その瞬間だった。


 「っ、動けない——!」


 地面に水が滲み出すように広がり、一瞬で足首まで埋まった。川だ、と気づいた時にはすでに体が止まっていた。

 水の粘度が普通じゃない、泥のように足を引き込んでくる。強化した足で踏み込もうとしても、力が逃げていく感覚があった。


 「速いな。だが、速さだけじゃ俺には届かない」


 石川はその間、一歩も動いていなかった。沼った、と思った瞬間、石川の右手が持ち上がった。地面から石が湧き上がるように集まり、あっという間に人の頭より大きな塊になった。


「俺が使える力は川を操る能力だけではないぞ」


 そう言って章は石の塊を飛ばしてきた。俺は強化を両腕に切り替え、正面から叩き込んだ。拳に衝撃が走り、石が砕けて破片が散った。

 一つ、二つ、三つと次々と飛んでくる石の塊を砕き続けた。砕いても砕いても、次が来る。体力が段々と消耗していくのがわかった。


 石川が、左手を静かに前へ向けた。石の連射が止まった。代わりに、水が集まり始めた。川が形を変えて細く絞られ、先端が鋭く尖っていく。


「これで終わりにしようか」


 高圧の水流が、俺の胴を直撃した。石とは比べ物にならない衝撃が体を貫いた。強化で受け切れるものじゃなかった。体が吹き飛んでコートの端まで転がり、コートの壁に叩きつけられた。


「――ぐっ......!」


 立ち上がろうとしたが、膝が震えた。腕に力が入らない。三人分の強化はまだ残っているが、体がついてこなかった。


 石川が静かに言った。


 「まだ気絶してないのか。思ったより粘るな」


 石川の体の周りに、水と石が同時に集まり始めた。水が螺旋を描くように絡み合い、石が芯となって形を作っていく。それはみるみるうちに一本の槍の形になっていった。

 全長二メートルほど、先端が鋭く尖った水と石でできた槍。石川がそれを右手で静かに構えた。まるで海を司る神が持つような、圧倒的な存在感だった。


 「これが俺の全力だ。受けてみろ」


 石川が足元に川の流れを生み出した。その流れに乗るように体が滑らかに加速し、水と石の鎧をまとったまま一直線にこちらへ向かってくる。

 遠距離から削り続けた後に、全身を固めて突っ込んでくる。これが石川の戦い方だった。


 俺は地面に手をついたまま、息を整えた。地面を睨んだまま、頭を回し続けた。

 川の流れに乗って加速してくる石川。その速さは、今の俺の足では追いつけない。

 

 だが——ふと、コートの端にある壁に目がいった。石川は川の流れに乗って直線的に動いている。ということは、進行方向は読める。そして佐藤の力は、自分だけじゃなく他者にも強化をかけられる。

 中村戦で壁を踏み台にした。堀内戦で地面を下から崩した。今度は——相手の力を、逆手に取る。


 答えが、見えた気がした。

ここまで読んでいただきありがとうございます。この小説、戦う相手の苗字とその能力を決めるときが一番楽しいんですよね〜これからも面白い小説が作れるように頑張って制作していきたいと思います。次回もお楽しみに〜

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