第十一話 孤立無援、壁の檻の中で
会場の待機所に足を踏み入れると、六十四人ほどの代表たちが思い思いの場所に立っていた。末位には無数の苗字が存在するのに、この人数に落ち着く理由はいくつかある。戦闘に向かない苗字は最初から参加を見送るし、惨敗の記録が苗字に残ることを嫌う者も多いからだ。
だが最大の理由は、出場には同じ苗字の者たちから代表として認められる必要があることだった。苗字の中で揉めれば代表が決まらず不参加になってしまい、生活が苦しい末位の苗字ほど内輪でぶつかることが多いから、毎年相当数の苗字が棄権しているらしかった。
観客席は閑散としていて、スタンドにぽつぽつと人が座っている程度だった。列に並んで待っていると、スタンドの方から話し声が聞こえてきた。
「あれ、佐藤の代表って変わったんだな」 「若いな。でも佐藤でしょ、結果は変わらないんじゃないの」「どうせ一回戦で終わりでしょ。毎年そうだったじゃん」
悪意があるわけじゃない、ただの事実として口にされている声だった。五年間剛が出場して、五年間一回戦で負け続けた積み重ねが、そのまま佐藤への評価として定着している。俺は何も言わなかった。試合で示せばいい、それだけの話だ。
開会の挨拶が終わり、一回戦の対戦カードが読み上げられた。「佐藤翔、対、中村健吾」という声が聞こえた。
「中村か、三年連続で三回戦まで行ってるやつだ」とひそひそ話す声が耳に入ったが、特に何も感じなかった。
「第一試合、佐藤対中村、選手は第一コートへ」
アナウンスが響いた。観客席の端に目をやると、蒼と剛がまだ同じ場所に座っていた。蒼は小さく頷き、剛はただ静かにこちらを見ていた。
―――
コートに立つと、中村健吾がすでに待っていた。がっしりとした体格で、腕を組んだまま俺を一度眺めて、それから興味を失ったように視線を外した。舐められているというより、最初から眼中にないという顔だった。
審判の合図とともに試合が始まった。踏み込もうとした瞬間、中村の右手が静かに横へ払われた。それだけで、俺の体が高さ3メートルの石壁のようなものに弾かれたのだ。
俺は咄嗟に強化した拳で壁をぶち破ったが、壊しても壊しても次々と壁が出てくる。こんどは横へ動いて迂回しようとすると、迂回先にも壁が出現し、追い詰められるかのように壁が俺の行動範囲を侵食していった。じりじりと詰められていく感覚に、俺は少し焦り始めた。
冷静になれ。壁の強度はそこまで高そうにない。問題は数と速さだ。どこかで一点に絞らなければ、このまま端に追い込まれる。
「早めに終わらせたいし本気出すか」
中村がぼそりと言い、初めてこちらをまっすぐ見た。
「俺という村を守るために、石の壁が俺を守ってくれる。では村が発展すればするほど壁はどうなるか...お前には想像できるか?」
その瞬間、中村の足元から淡い光が滲み出すように広がり、コート全体をじわじわと侵食していった。光が届いた場所から空気の質が変わり、まるでここだけが切り取られて別の場所になっていくような感覚だった。
光がコート全体を覆い尽くした瞬間、壁が増えた。一枚ではなく二枚、三枚と重なるように展開され、叩いた感触が石から鉄に変わったようだった。前も右も左も、気づいた時には後ろにも壁があった。四方を完全に囲まれていた。
中村がゆっくりと歩み寄ってくるのが壁越しに見えた。表情は変わっていない。ただ静かに、こちらへ向かってくる。
強化はまだ残っている。三人分の力も、切れていない。
囲まれた壁の内側で息を整えながら、俺は頭を回し続けた。
「さぁ、どう勝とうか」
ご覧いただきありがとうございました。昨日は投稿ができなかったので、ほんの少し長めに作りました。「続きが気になる!」と思ってくださったら、評価等で応援していただけると活動の励みになります。
次回もお楽しみに〜




