第六十一話
一柳は車を降りると、
その場で立ち止まり一度ビルを仰ぎ見たあと、
規制線の前で仁王立ちしていた制服警官の前に移動し、
何やら立ち話を始めた。
それを見た俺は一柳が目の前にいるせっかくのこの機会に、
奴に一つ、確かめたいことがある、と思った。
間もなく一柳は立ち話を終えビルの中に入ってしまうだろう、
その前に何とか接触しないと、そう思った俺は早速行動を開始する。
先ほどこちら側に渡った横断歩道を使っていては間に合わない、
俺は左右を振り返る、車の往来は途切れそうにないが、
ほんの一瞬途切れた隙を狙って一か八か車道に飛び出した。
向かってくる車に即座に轢かれることはない距離ではあったが、
当然のことながら車道への闖入者に対してドライバーの目は厳しい。
俺に対して非難の大音響のクラクションが鳴らされる。
走りながら思わず肩をすくめる、だが、これも計算の内。
話も終わり、規制線をくぐろうとしていた一柳が、
そのクラクションの音に何事かと動きを止めてこちらを見ていた。
思い通り足止めになった、
一柳がこちらを見ている内に無事に車道を渡り切り、
まずは一安心、間に合った。
そして、想定内ではあったが、
「おやおや、保本さん、車道を渡る時は横断歩道を利用してもらわないと、
幼稚園児でも知ってることですよ」
と、一柳の嫌味が容赦なく浴びせられた。
「もし、轢かれでもしたら……、
私達のいらぬ仕事を増やさないで欲しいですね」
口端にニヤリと、嫌味な笑みを浮かべながらそう言い放つ一柳。
確かに俺に非があるにせよ、冗談でも警察が言うような内容じゃあない。
俺は何か言い返したい気持ちにはなったが、そこは我慢した。
そう、俺は一柳に確かめたいことがある。
走ってきた息を整え、俺が口を開こうとしたその時、
停めていた一柳の車の後ろに、ワンボックスタイプの車が停まった。
そのエンジン音に気付き振り返る、どうやらテレビ局のものらしい、
それを示すように車体にテレビ局のロゴが描かれている。
車のドアがスライドして開き、
中からリポーターらしき女性が降りてきた。
まだカメラやマイクの準備は出来ていないようだったが、
女性リポーターは一柳を見つけるやいなや、
「あっ、一柳刑事、何か事件に進展は?」
と質問を投げかけてきた。
一柳はそのリポーターの一言に対して露骨に不機嫌そうにすると、
手で追い払うような仕草をしながら「また記者会見で」と、
短く言い、そそくさと規制線をくぐろうとする。
おっと、一柳が行ってしまう。
俺はまだ聞きたいことが聞けていない。
リポーターの参加は全くの想定外だったが仕方ない、
俺は規制線をくぐりさっさとビルの中に入ろうとしている一柳の背に向けて、
こう言い放った。
「一柳刑事!待って下さい!」
しかし、一柳は止まらない。
俺はその背に向けて、さらに鋭くこう言い放った。
「被害者の死因は……、咬創ですか!」




