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絵が笑うと人が、死ぬ。  作者: 桜町雪人
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第六十二話

俺の放った言葉に、

一柳はピクリと体を震わせ立ち止まると、

そして無言でゆっくりとこちらに振り向いた。


メガネフレームの真ん中を右手の中指で押し上げ、

そしてレンズ越しに俺を鋭く睨む。


どう答えるか迷っているかのようにも、

俺の次の言葉を待っているかのようにもみえる。


一瞬の間があって、


「えっ?コウソウ?コウソウってどういうことですか?」


緊迫した状況には場違いな甲高い声が上がる。


最初に口を開いたのは俺でも一柳でもなく、リポーターの女だった。

リポーターの女は俺と一柳の顔を交互に見ながらそう質問した。


このリポーターの女は『コウソウ』という言葉を理解していない、

という感じだった。


そう、これが正しい反応だ。


それは阿木島から最初に聞いた俺も同じだった。


だが、一柳はどうか?


俺の『コウソウ』という言葉に体を震わせ反応し、

リポーターの煩わしい質問から逃れようとしていた足を

わざわざ止めてまでこちらを振り向き、そして俺を睨んできさえした。


それで十分だった。


雑貨店店主の羽多野の情報は正しかったようだ、

間違いなく神山も『咬創』により殺害されている。


さて、この話はここまでだな、後はどうやって収拾させるか。


「……、ある筋から暴力団の『抗争』に巻き込まれたとの情報を得たのですが?」


俺はこう言ってみた。

我ながら取って付けた感は否めないが、仕方あるまい。


一柳は俺のその言葉に表情は変えなかった。


誤魔化せたとは思わない、俺が『咬創』という事を知っている、

と見抜かれたかもしれない、まあそれでもいい。


「あっ!なるほど『抗争』ね!

 一柳刑事、この事件は暴力団が絡んでいるのですか?」


ようやくテレビクルーの準備が整ったようで、

リポーターはクルーから渡されたマイクを持ち、

カメラマンもリポーターの後ろから一柳の姿を画面に捉えた。


少なくともメディアの方は誤魔化せたようだ。


一柳は自身に向けられたマイクを虫を払うかのような仕草で払い、


「ノーコメント」


と言うと、ビルの方に振り向いた。


振り向きざまチラリとこちらを見た一柳は、

俺だけに分かるようにニヤリと笑った。


笑いの真意は分からない。

だが後はもう何も言わないまま、一柳はビルの中へと入っていった。


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