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絵が笑うと人が、死ぬ。  作者: 桜町雪人
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第五十七話

店主は羽多野だと名乗った。


店内を見回す。店の広さは一般的なコンビニの半分くらいの広さといったところだ。


雑貨店ということだが、扱っているものは全て海外の雑貨らしかった。


いわゆる食器などの陶器、木器類、ハンカチやカバンのような布のもの。そして日本でいうところの民芸品のような大型の置物が、所狭しとディスプレイされている。


「素敵なお店ですね」


とりあえずそう言ってみる。


「あら、ありがとう」


淡白な俺の感想に、羽多野もまた淡白にそう答えた。


ショーウィンドウのオブジェはもうすでに店のカウンターに運ばれている。仕事が早い。


「袋代が10円かかるんだけど、どうしようかしら?」


「もちろんお願いします」


即答だった。


俺が今から買おうとしているそのオブジェは一言で言うならば奇天烈。


どこかの前衛芸術家の渾身の作のような、あんな奇天烈なオブジェを、袋にも入れずに抱えて歩くわけにいくまい。


あら、これは入らないわね、これなら入るかしら、などと、羽多野が梱包に手間取ってる間、俺はショーウィンドウ越しに外の様子を眺めていた。


確かに店の前に立っていた俺の姿はここからは丸見えだったわけだ。


俺は視線をさらにその先、通りの向こうのビル、ルージュタワーへと向けた。


何もなければ「ただの奇抜な赤いビル」で済みそうなものだが、事件があった今となっては、その赤は血を容易に連想させ、さらに陽の光を浴びて、不気味に発光している錯覚すら感じた。


「オーナーは変わった人だったわ、数ヶ月前に新しくオーナーになったとかで、一度挨拶に来てくれたことがあったんだけど」


いつの間にか羽多野が俺の横に立って、同じくルージュタワーを眺めていた。手には梱包を終えたオブジェの入った紙袋を持っていた。紙袋の上端から、中に入り切らなかった花の茎とおぼしきものが飛び出ていた。


「このオブジェが気に入った、ビルに飾るとかでね、同じものを5個も買っていったのよ、こんな変な物を5個もよ?!」


と言って、今から俺に売りつけようとしているオブジェが入った紙袋を持ち上げる。いや、その変な物を、今から俺も買うのだが……。  


よく見ると、飛び出ていた花の茎、その先端に付いていたものは花ではなく目玉だった、その目玉と目が合う。


羽多野はハッとして、あら、ごめんなさいね、変な物って言っちゃった、と言うと、誤魔化すようにアハハと笑った。


「見た目は変な物かもしれないけど、アメリカのちょっとしたデザイナーの作品なのよ、今はまだ有名じゃないけど、有名になったら価値が出るかもよ」


羽多野はそう取り繕うように言いながら、俺にオブジェの入った紙袋を渡してくる。


俺は羽多野からオブジェが入った紙袋を受け取りながら、神山氏の趣味嗜好について、なるほどと思うことがあった。


有名なデザイナーの物とはいえ、この様な前衛的な物を好む神山氏、そして、悪趣味とも言えるあのビルの色を選択する神山氏、その様な神山氏ならば、俺にはその良さが到底理解できない「あの絵」に執着を持つ、というのも分かる気がする。


「なるほど……」


思わず言葉が漏れ出た。


それは羽多野への言葉ではなかったが、そうと勘違いした羽多野は、


「でしょ、価値が出るわよ、きっと。だから2万も安い買い物よ」


と言った。


「……なるほど」


それは「2万」に対するなるほどだった。


俺は後ろポケットに入っている財布を無意識に触っていた。しがない私立探偵には2万はなかなかの出費だった。

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