第五十五話
今渡ってきた道路が繁華街と住宅街の境目になっている。
それを物語る様にこちら側の道はほとんど人通りがない。
神山氏の殺害は正午頃ということだが、
こちらの通りからの目撃者は果たしてあったのか。
もし神山氏のビルより出てくる犯人を見たという目撃者があったとしても、
その人物を『犯人』と認識して見ていないならば記憶はあやふやだろう。
店舗での聞き込みは空振りになるかもしれない。
店舗前に到着した。
遠くからでは何の店かは分からなかったが、雑貨を扱う店のようだ。
ショーウィンドウに外国のものだと思われるオブジェのような、
……言っては悪いが、誰がこんな物を買うのだ、というオブジェが並んでいた。
店舗前に立ち、道路側、神山氏のビルの方面を見る。
3階と4階は何かの会社の事務所、ということだが、
窓辺に座る人の頭、時折、事務所内を移動する人の姿などが見える。
事件はあったが、通常通り業務は行われているような感じだ。
そして5階、下から覗いた時は気付かなかったが、
窓は内側から全面に渡ってブルーシートなようなもので覆われ、
中の様子がここから見ても分からないようになっている。
一部、ブルーシートの途切れている部分があり、
一瞬だがその前を、鑑識だろうか、横切る人物の姿が見えた。
おそらく今も警察による現場検証が行われているのだろう。
ところで、この場所から遠目にビルを見ていて、
改めて認識させられたことがある。
それは、やはりこのビルは直近で外壁の塗り直しをしているということだ。
明らかに左右に並ぶビルとの見栄えが違い過ぎる。
塗装の表面が綺麗なのはもちろんなのだが、
それ以外にも塗り直したと思われる点があった。
俺もこの街に住んでいるので、
頻繁ではないがこの近辺を通ることもある。
なので、もしこのビルがこのような色をしていたのならば、
もっと以前より知っていたはずである。
一般的にビルの色と聞いて想像するのが、
アイボリー系のようなもの、あるいはグレーやホワイトであろうし、
実際そういうビルが多い中で神山氏のビルは独特だった。
真っ赤。
何故その色を選んだのかは分からないが、
神山氏のビルは全面真っ赤に塗装されたビルだった。
空へ向かって突き立つその赤色のビルに、
俺はある物を想像した、そう、それは……、
「ルージュタワー、て呼ばれてるのよ」
ふいに背後から話しかけられドキリとした。
振り向くと、そこに『おばさん』がいた。
そう、おばさん。
このおばさん、見覚えがある……、そうだ、
昨日俺が独り言を言った時に、ちょうど傍にいたおばさん。
同じく事務所前で電柱の陰より歩み出た時に、ちょうど傍にいたおばさん。
そのおばさんだった。
「ね、ルージュ、口紅みたいでしょう?
ちなみにね、名付け親、私なの、ルージュタワー」
「はぁ、なるほど」
確かに口紅の赤だ、
俺が想像したのも、まさにその口紅、ルージュだった。
ルージュ―タワーとは上手く言ったものだ……、
いやいや、そうじゃあない、
そんなことよりも、このおばさんは、誰だ?
「あなた!探偵でしょう?私、ピンときたのよ!」
そう言っておばさんは、
俺の腕を無遠慮にバシバシと叩いた。
「昨日、電柱の陰から出てきたじゃあない、
まるで張り込みをしてたみたいだったわ!」
「あの、失礼ですが」
「あら?探偵じゃなかったかしら?だったら刑事さん?」
「いえ、啓次ですが、そうじゃない……、
確かに探偵ですが、ところで、どちら様ですか?」
「あら、ごめんなさいね、私、この店の者よ」
と言ってそのおばさんは雑貨屋を指さした。




