第五十三話
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喫茶店を出て阿木島と別れた後、
俺はある場所へと向かった。
その目的地は、バスや地下鉄で移動をするほどでもなく、
徒歩圏内だったこともあり、迷わず歩いていくことにした。
歩きながら喫茶店でのことを少し整理する。
結局、俺は阿木島には沢辺氏から絵を預かっていることは、
言わなかった。
確証は無いが、その沢辺氏の絵が、
神山氏の元から盗まれた絵に違いないように思えたからだ。
三本氏お気に入りの絵を頼み込んで譲り受けた神山氏、絵への執着心。
金額は聞いていないが、おそらく聞いたらびっくりするような金額に違いない。
それだけ、その絵に一目惚れしたか、絵に魅入られたのか。
そして三本氏の絵への執念。
もちろ骨董品や美術品は高額商品なので、
売った後は知りませんではなく、保存管理、展示の仕方などに関してのアドバイスや、
修繕修復の案内などアフターサービス的なことをするというのはあるのだろう、
電化製品でいうところの保証書によるサービス的なところだ。
だが、盗まれたら探偵を雇って探させる、というのは、
常識的に考えてアフターサービスの範疇を越えている、としか思えない。
神山氏の執着、三本氏の執念、そしてそこに、
沢辺氏の絵を愛でるギラギラとした目が加わる。
急に悪寒が走る。
ブルリと体を震わせた。
鼻をすすりながら、風邪気味だったことを思い出す。
悪寒を風邪のせいにした。
ちなみに、阿木島は絵を探す為の資料として絵の写真を持っているらしい、
先ほどはちょうど持っておらず、見せてはもらえなかった。
別れ際に、巻き込んだからには写真ぐらい見せろとは言っておいた、
なので、間もなく沢辺氏の絵と同じものかどうか判明するだろう。
では、間違いなく同じ絵だとして、
絵は、どの様にして沢辺氏の手に渡ったかだ。
絵は盗まれた後、絵の露天商の手に、そして沢辺氏の元へ。
ということは、絵の露天商は盗品と知りながら販売していたということだろうか、
いや、知らなかったかもしれない。
では、露天商に絵を卸した人物とは何者なのか、その人物こそが盗んだ犯人なのか。
そもそも、露天商とされるその人物こそが絵を盗んだ犯人なのではないのか、
その様に後ろめたい事があったので、姿を見せなくなった、とも考えられるが。
全ては想像でしかなく、現段階では分からないことが多すぎる。
あと、そうだ、
一つ忘れていたことがある。
俺が沢辺氏から預かっているのは、
明らかに絵の半分だけ、ということだ。
ならば、まだ見つかっていないもう半分があるということになるが、
それは今、どこにあるのか。
などと、色々と考えを巡らしながら歩いている内に、
目的の場所へと到着した。
目的地、そこは神山氏のテナントビルだった。




