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絵が笑うと人が、死ぬ。  作者: 桜町雪人
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第五十二話

店を出ると、阿木島が誰かと電話で話をしていた。

俺の顔をチラリと見て、


「……おう、分かった、また後でかけ直す」


と言って電話を切り、携帯をパチリと閉じた。

慌てて切ったとも見れるその様子に、


「俺に聞かれたくない話か?」


嫌味のように言ってみる。


「違うさ、ちょうど話が終わったのさ」


何食わぬ顔でそう言い放つ。


「まあ、それはいいさ……、ところで、何故、言わない?」


「うん?何をだ?」


「三本氏と神山光治氏との関係だよ」


それを聞いた阿木島はヘヘっと笑うと、


「ああ、それな。そうか、マスターもおしゃべりだな。

ま、そこがあのマスターの良いところでもあるんだがな」


そう言って、窓越しに見える喫茶店内を覗き込むようにした。


「何故言わない?」


もう一度問う。


「何故って……」


そう言うと上目遣いにこちらを見て、


「言わないつもりはなかったのよ、ただあなたが聞かなかっただけ」


まるで問い詰められた時の女の言い訳かのように裏声でそう言うと、

最後に気持ちの悪いウィンクをする。


こちらが真剣に聞いているのに、茶化すその態度に無性に腹が立つ。


怒りの様子を隠すことのない俺の姿を見て、阿木島は言う、


「まぁ、まぁ、そう怒るなよ、

だがよ、別にお前にわざわざ言わなくてもいい話だろうがよ」


「それは……」


確かに阿木島の言う通りだ。俺の追求の勢いが弱まる。


「……だが、三本夫人の依頼に巻き込んだのは事実だろう、

それに関連する話としてだな……」


我ながら歯切れが悪い。


「ふん……」


阿木島が鼻を鳴らす。


俺が次にどう言おうか迷っていると、

その様子を見かねた阿木島が言った。


「よし、分かった。確かさっき、

お前を巻き込んだことについて謝礼をするって言ったよな、

これからする三本氏と神山氏との話はその謝礼分だ」


そう言うと、一呼吸おいて、


「ま、何だな、大事にしていた絵なんだとさ、

大事にしていたなら売らなきゃ良かったのになぁ」


唐突にそんな内容を言う。


「売った?」


「そうさ、お気に入りの絵で、大事にしていたのに売っちまった、

そして売った先で盗まれた」


突然すぎて何が何やら分からない。


「お、何が何やら、という顔をしているな、

よし、さらに悩ませてやろうか」


阿木島はそう言ってニタリ笑うと、


「売主が売りたくないと渋った絵をやっとのことで売ってもらったんだ、

それが何者かに盗まれた、そりゃ絵を買った方は慌てたね、

だがな、もっと慌てたのは売った方さ」


「三本氏か」


「そうさ、俺はその三本氏に、盗まれた絵の捜索を依頼されたのさ」


三本ギャラリーで神山氏は絵を売ってもらった、

その絵は店主の三本氏が大事にしていた絵だった、

その後、神山氏の手に渡った絵は何者かに盗まれた、

三本氏は絵の捜索を阿木島に頼んだ……。


「……、ちょっと待て、何かおかしいな。

普通に考えたらお前に依頼をするのは神山氏の方じゃないのか?」


「そうだろう、だから最初に言ったじゃないか、

そんなに大事にしていたなら売らなきゃ良かったのに、てな。

傍から見たら異常なまでの執念さだよな」


「三本氏をそこまでにさせる、一体、その絵は何なんだ?」


俺のその問いには答えずに、阿木島は話を続ける、


「絵を盗まれて間もなく、三本氏は殺害された、

そして、神山氏もその一週間後に殺害された……。

おい、保本、これがどういうことか分かるか?」


「どういうって……」


「呪いの絵だよ」


そう言って、阿木島はヒヒヒと、甲高く笑った。


「……」


俺は何も言えなかった。


阿木島が『呪いの絵』と言ったのは、

その様子からも奴の本心ではないだろう。

おそらく冗談のつもりなのだろうが、俺にはそれが冗談には聞こえなかった。


その阿木島が『呪いの絵』と指摘した、その絵である可能性があるものが、

今、俺の事務所の金庫にある――。

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