第五十話
しばらく俺は何も言えず、
また阿木島も何も言わなかったが、
先に口を開いたのは阿木島だった。
「だからよ、逮捕するらしいぜ」
「逮捕」
犯行をどのような方法でやったかはわからない、
いくら考えても分からない。
ならば一層のこと、捕まえて自白させれば良い。
取調べの中で自供が取れればそれで良い。
その様な考え方だから、やつらはやる、
それが嫌疑不十分でも。
「乱暴なやり方だな」
失望したように言う。
「乱暴? 別に。いつものことさ。
やつらから『乱暴』を取ったら何が残る」
そう言ってヒヒヒと、声を立てて笑う。
笑い終わると、
「さて、もうこれくらいで十分だろう、
えーっとだな、あれとこれと……」
阿木島は指折り数えながら、
一人でブツブツ言う。
「というわけで、これだけの極秘情報だ、
今までの貸しはチャラだな」
まさかとは思ったがこいつ。
「ちょっと待て、確かに事件の話には興味があったが、
これとそれとは、話が別だ」
俺の抗議の声に割って入るように、
「いや、いや、どこから話してもらおうか、と言ったじゃあないか」
「言ったが、事件の話をしてくれと言ってはいない、お前が勝手に喋ったことだ」
「保本ぉ、だったらそうと言わなきゃ。それにお前、主語が抜けてるんだよ、
何の『どこから』か、なのか、学の無い俺には分からないなぁ」
そう言って両の手のひらを上に向け、体の横でヒラヒラとおどけたようにする。
人を食ったようなその態度に呆れさえ感じた。
「ま、そう言う事で」と言って席を立とうとする阿木島を俺は呼び止める。
「いや、待て、まだ話は終わってはないぞ」
「何だよ」
不機嫌そうにまたソファに座る。
全く、不機嫌になりたいのは俺の方だ。
「事件の話は、まぁ納得はいかないがひとまず置いとくとして、
さっき俺を巻き込んだ三本夫人との依頼については、まだ何も聞いていない」
「ああ、それか。それはいいさ、お前を巻き込んだのはその場しのぎさ、
依頼は俺一人で適当にこなす、ただ夫人への報告の際は同行してくれよな。
わかってるさ、ちゃんと謝礼ぐらいはするさ」
自分から巻き込んでおいて、若干上から目線なのが腹立たしいが、そこは堪える。
「ちなみに何の依頼だ」
「絵を探して欲しいんだとさ」
「……絵?」
「そうさ、何だったかな、あれだよあれ、
陶器っぽいやつさ」
俺の心がざわつく。
「まさか……、陶板画か?」
「おっ、そうそう、それさ。何だ保本、お前絵詳しいんだったか?」
カチリ
何かが俺の意識の中で音を立てた。
何かが組み上がっていく。
全ての事象がゆっくりとでは、あるが、
繋がりを持って組み上がっていく。
そんな音のように聞こえた。




