第四十九話
「そうさ、気味悪いのさ」
阿木島がそう答える。
まさか、本谷自身が三本氏の頭を咬み砕いたわけではあるまい。
成人女子が人間の頭蓋骨を咬み砕くなどあり得ないことだ。それは成人男子であっても同じこと。
じゃあ、一体どうやって?と言うよりも果たして、
『何』が咬んだというのか。
怪訝な表情を浮かべる俺に、
「何か大型の犬のような、例えばそうだな、オオカミのような、何かそういうものが咬んだ、そんな傷口らしい」
と、阿木島が渡り船を出す。
「三本氏が何かペットを飼っていたとか」
「飼ってないね」
「ならば本谷が飼っているとか」
「それもないな、裏は取れてる」
阿木島は即答する。
三本氏が飼っていないとなると、
外部から持ち込まれたものか。
さらに本谷も飼っていないということは、
本谷自身がわざわざ用意した動物的な何か。
しかし、何か、とは何なのか。
そこまで考えて俺はふと、あることに気付いた。
「咬創なら、動物が咬んだというなら、
その唾液が傷口に付着しているはずだ、
それを調べれば何が噛んだかわかるんじゃないのか」
それを聞いて、阿木島がニヤッと笑った。
「中々鋭いな」
「それにだ、殺害現場の部屋の中に足跡なり、
抜け落ちた毛など落ちていそうなものだが」
「いい調子だな!」
「それに、自身が飼っていないとなると、
どこかから用意する必要がある、
そこを辿っていけば分かりそうなものだが」
「そうそう、ご名答! その通りだよ明智くん!」
嬉しそうに、そう冗談を言う阿木島、
「でもよ」
しかし急に真顔になり、こう続ける、
「そもそも本谷はどこからも用意していない、
事件前後のアリバイがある」
そう言うと、阿木島はコップを手に取り、
水を一口飲んだ。そして続ける、
「だけじゃないぜ、実はな……」
勿体ぶるように一呼吸置いてから、
「事件現場からはよ、足跡も発見されていない、
抜け落ちた毛も見つからない、
挙げ句には、だ……」
そう言うと、ニヤッと笑い、
「傷口から唾液も検出されていない……」
「まさか」
絶句する俺が見つめる阿木島は、
しかし今までの話の途中、
一度も右上を見ることはなかったのである。




