第四十五話
「どうです、頼もしいでしょう、彼は保本啓次といいます、
あ、啓次と言っても、警察の刑事じゃないですよ、
啓次って名前なんです!
ケイジ違い、こりゃややこしい!」
そういって、ゲハハと下卑た笑いをする。
しかし、今、この店内で笑っているのは阿木島だけだった。
やがて、阿木島もそのことに気付いたのか、
笑うのを止めると、バツが悪そうに咳払いなどしている。
やがて、三本夫人はハァっとため息を吐くと、
半ば諦めたかのような口調でこう言った。
「……わかりました、阿木島さん。
では、あと一週間だけ、よろしくお願いいたします」
「そっ、そうですか、そうですか!
是非ともお任せください!!」
そう言って、阿木島は深々と頭を下げた。
(おい!保本、お前も!)
阿木島が頭を下げながら小声でそう言う。
何で俺も、とは思ったが、しぶしぶ頭を下げた。
「では、早速行ってまいります!」
阿木島はそう言うと俺の腕を掴んで、店外に出ようとする。
「おい、ちょっとまて、俺はまだ話が……」
そう言って、チラッと本谷を見た。
本谷は軽蔑とまではいかないが、何やら冷めた視線でこちらを見ている。
あなたも結局、阿木島の仲間ですか、とでも言わんばかりに。
まぁ、無理もない、今のこの状態では完全に阿木島の仲間であり、
それどころか部下みたいになっている、その様な目で見られても仕方ない。
……出直すか。
俺は阿木島に腕を引かれながら、
「本谷さん、また来ます」
とだけ言った。
店の入り口まで阿木島に連行されるように歩いていき、
そして、まさに店を出ようとしたその時、
本谷が走り寄ってきた。
お、何だ?
「あの……」
何か大事な話でもしてくれるのだろうか。
「私、モトヤではなくて、
モトタニです」
「……ああ、そうですか」
そりゃ失礼しました、ご丁寧にどうも。
俺はそう、心の中で付け加えた。
店の外に出ると先に店外に出ていた阿木島が、
ニヤニヤ顔でこちらを見ていた。
「モトヤじゃなくて、モトタニですぅ」
変な裏声を出してからかってくる。
「おい、聞こえるぞ」
俺は背後の店内を気にしながら、
阿木島の肩を押し、元来た道の幹線通り方面へと歩き出す。
歩きながら、
「さて、どこから話してもらおうか」
問い詰めるように阿木島にそう言った。
だが、その時、
阿木島の足がピタリと止まる。
それは何も俺の問いかけに反応して止まった、のではない。
それを示すように俺の足も同様に止まったのだ。
その理由は、
俺たち二人の視線の先に、
ある人物の姿を確認したからだ。
その人物とは、
「こりゃ、どうも、一柳刑事!」
阿木島はあからさまに手揉みなどしながら、
その人物にそう言った。
一柳刑事と呼ばれたその人物は、
阿木島の挨拶など聞こえていないという風に無視すると、
メタルフレームの眼鏡に手をやり、
レンズの奥から俺たち二人を鋭く睨んだ。




