第四十四話
その陶板画を見て、
まるでスイッチが入ったかの様に心がざわつきだした。
俺の心が、今まで起こった出来事の点と点を、
無理矢理にでも繋ごうと思い蠢く。
いや、待て、俺の心よ。
それは短絡的だ。
確かに、今俺が預かっている陶板画に描かれた男が笑った時、
ここの前店主、三本氏は命を失った。
しかし同じく陶板画を三本氏が扱っていたからと言って、
何か関係があるのでは?と、
直ぐに結びつけるのは子供でも思い付く素人考えだ。
ストーリーとしては面白いが所詮フィクションに過ぎない。
もちろんこの様な店であるので、
陶板画が置かれていてもおかしくはない。
言ってみれば、どこのスーパーに行っても、
同じ肉や野菜が普通に売られていることと何ら変わりはない。
「陶板画に興味がおありですか?」
店員の本谷の声で、ハッと我に帰る。
陶板画を見つめたまま、しばらく押し黙っていた様だ。
「いや、まぁ、そうですね……」
当たり障りなくそう答えた。
その答えを待って本谷は続ける。
「前店主は美術品の中で陶板画を気に入っておりました。
そういう事情もありまして……、
どうです?今ご覧の様に、大変良い物が揃っています」
俺の目線の先には何かのエピソードが描かれた宗教画の陶板画がある。
そこに描かれた女性がにこやかに微笑んでいた。
もちろんその微笑は『常時』のものに違いなかったが。
確かに良い物だ、と素人目にも分かった。
一通り絵を眺めた後は、
すかさず陶板画の淵にも注目してみた。
下、左右、そして、体を乗り出し、のぞき込むように上も確認した。
四方全ての淵に釉薬がかかっているようにツルツルとした光沢がある。
それを見てやはり沢辺氏から預かった陶板画は、
左半分が失われている可能性について、ほぼ確証されたと言っていい。
「なるほど」
俺はふぅと鼻から息を吐いた。
その時、ふと、俺は、陶板画を扱っているのなら、
「もしも」があるかもしれないと思い、こう尋ねてみた。
「ちなみに、ここに陳列されている陶板画以外にも、
他にあったりしますか?」
「他に?ですか?
そうですね、もちろん店頭のスペースは限られていますから、
出ている物は極一部です、もし、お探しの物がありましたらお伺いしますが?」
「例えばですね……、破損しているような、
そう、左半分だけの陶板画とか?」
「……半分?」
妙な事を聞く、と言った顔をされた。
確かに当然の反応だ。
「いや、実はですね、
右半分だけでは、と思われる陶板画を持っていまして」
「はぁ……」
要領を得ないといった反応の本谷に
俺はもう少し情報を渡してみる。
「抽象画なんですよ、ちょっと説明しにくいのですが、
何というか、男がね、描かれていて……」
そこまで説明した時、
確かに俺は本谷の表情に何か変化を見た気がした。
が、その変化の先を俺は見ることはできなかった。
何故なら、俺たち二人の間の闖入者が現れたからだ。
「奥様、ほら、この通り!ご安心下さい!
今日は調査員の追加を連れてきましたから!!」
いつの間にか俺の背後に来ていた阿木島が、
俺の背中をバシバシと叩きながら、
店の奥にいる三本夫人に大声でアピールする。
「おい」
俺は昭木島に抗議の声を上げる。
へへへ、と笑いながら阿木島は、
三本夫人には見えないように気持ちの悪いウィンクをした。




