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絵が笑うと人が、死ぬ。  作者: 桜町雪人
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第三十八話

クシャクシャという、

変形する新聞紙が立てる悲鳴とも言えるその音に、

俺はハッと我に返った。


手の中の新聞紙を見る。

新聞紙に罪は無い。


俺はそれをデスクへと置くと、

握り締められ皺くちゃになった部分を手のひらで押し広げ、

真っ直ぐに戻そうとする。


アイロンかけの要領で繰り返しその行為をする内に、

完全には元に戻らないまでもいくらかはマシになるだろう。


俺はそうやって無心に繰り返し手のひらで新聞紙を押し広げながら、

その皺になった部分の記事を特に読むでもなく見つめていた。


手が紙面の記事の上を何度も行き来する。

その度に記事は、隠れては見え、見えては隠れ、を繰り返す。


そうやって何度か繰り返していく内に、

その見え隠れする記事の中のある言葉が、

俺の意識の中に深く入り込んでくるような気がした。


それはまるで、

サブリミナル効果だとでも言うように。


やがて俺はピタリと手を止め、

その言葉を凝視した。


「ギャラリー……」


ポツリと口からこぼれたその言葉こそが、

俺の意識へと入り込み、尚且つ、今凝視を続けている言葉であった。


何故その言葉が気になったのか、

俺にはその理由が直ぐには解らなかった。


しかし、俺が気になった言葉はそれだけではない。

『ギャラリー』と、あともう一つ。


俺は視線をそのもう一つの言葉へと移してみる。

それは『14時頃』という言葉。


「14時頃……」


その単語を見つめる俺の口からこぼれたそれは、

ほとんど無意識に等しかった。


『ギャラリー』と『14時頃』。


その2つのキーワードに、

俺の意識の中で何かが反応したというのは、

間違いなさそうだった。


一体その2つの言葉の何に反応したというのだろうか。


俺は改めてその新聞記事の問題の箇所を見つめながら、

まずはもう一度『ギャラリー』という言葉について考え直してみた。


ギャラリーと言えば、いわゆる画廊のことだ。

この三本ギャラリーでは、

記事によれば主に外国の絵画を輸入し、

販売していたということらしいが。


「画廊……、絵」


いや、確かにそのことには気付いていた。

画廊といえばもちろん絵だ。


説明するまでもなく、

今現在の俺が『絵』という言葉に、

敏感に反応することは当然かもしれない。


だが、俺が先ほど感じたものは、

そういったことからくる反応とは明らかに違っていたのだ。


そういった表面的なところからくるものではなく、

何かもっと心の奥深くからくるような――。


そう考えればむしろ俺が強くそして深く反応したのは、

『ギャラリー』という言葉の方ではなく、

『14時頃』という言葉の方だったのかもしれない。


そのように考えをめぐらしていた時だった、

俺の視界に再び『14時頃』という言葉が入ってくる。


しかし、それは新聞記事の中の言葉ではなかった。

さらに厳密に言うならば『14時頃』ではなく『14時』。


それは昨晩寝る前に内容を確認した後、

デスクの上に置きっぱなし、そして開きっぱなしにしていた、

俺の手帳の中の言葉だった。



10月 2日 水 14時



その日付、そして時刻は言うまでもなく、

沢辺氏との対談を開始した日時、そして時刻である。


それを見た時、

俺の意識のどこか奥深くで、

何かがカチリと音を立てた。


それは例えるならば、

いくらやっても外れない知恵の輪が外れた時の音だとでも、

言えばよいのだろうか。


俺は手帳へと手を伸ばしていた。

何故か手が震えていた。

それは恐る恐るという感じだった。

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