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絵が笑うと人が、死ぬ。  作者: 桜町雪人
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第三十七話

積まれた古新聞の山は、

新聞ストッカーに納められている。


プラスチック製のそれは、

1ヶ月分の新聞がストックできるというやつだった。


古紙回収へは忘れない限り1ヶ月に1回のペースで出している。

その1回というのが今週末の予定であったので、

2、3週間前までの新聞はまだこの中にあるはずだった。


俺はストッカーの側面の空いている部分を覗き込むと、

積まれて束になっている新聞を上から順に、

1、2、3……と指で繰っていく。


ちなみに俺は夕刊は取っていない。


夕刊は時差の関係で海外のスポーツや、

文芸記事、企画記事、そしてコラムなどが充実しているとはいえ、

別に俺は海外のスポーツには興味が無いし、

その他の記事も情報的には取るに足らないものばかりだからだ。


時間面、金銭面での節約の為である。


……4、5、6、7。


俺は上から数えてちょうど7つ目のその新聞を引き抜こうと試みる。


最初の事件が昨日から2週間前なのか、

それとも3週間前だったのか未だうろ覚え状態ではあったが、

もし3週間前ではなく2週間前だとすれば、

俺が今引き抜こうとしているその新聞に、

2件目の事件が載っているということになる。


それに今はっきり思い出したこととして、

確かに昨日から1週間前に事件は起こっている。


その日、俺はある調査の為に街に出ていたのだが、

その途中で人だかりを見つけ、

俺もそれに混じって現場を見たのを覚えていた。


それが今回の一連の中の『2件目』の事件だったのだ。


上に乗っている6日分の新聞を片手で押し上げ、

ようやくストッカーの側面部より引き抜いたその新聞には、

予想通りの事件記事が大きく取り上げられていた。



またしても惨劇。


真昼の凶行。



白抜きの大きなゴシック体が目に飛び込んでくる。


前週に引き続き事件が、

それも同じ街でということもあり、

事件のことはかなり大きく取り上げられていた。


しかしまたさらに、その一週間後に事件が発生するなどと、

この時点で果たしてどれだけの人間が想像できただろうか。


皆無だろう……、と言いたいところだが、

しかし、そうとも言い切れない。


俺自身ですら事件はもう起こらないだろうと、

はっきりと断言することはできなかった。


何故なら、子供を狙った犯罪が増えているのだと先ほど述べたが、

事件はそれだけに止まらず、

近頃、その他凶悪な事件が全国各地で数多く発生しているのである。


俺が事件の発生時期を、

2週間前か3週間前かを迷ってしまったのも、

それら事件と混同してしまったからというのもある。


余談ではあるが、全くもって憂うべき事態である。


俺は事件の痛ましさに顔を歪めながら、

さらに記事を読み進めていった。


被害者の死因は同じく頭部損傷による脳挫傷。

そして昼日中の凶行という点でも同じである。


被害者は「三本ギャラリー店主」、三本正徳、58歳。


犯行現場となったのは、

そのギャラリーの2階事務所。


犯行時には1階でギャラリーが営業中であり、

普通に来客もあった中でのことだったらしいが、

犯人は事務所の裏口より侵入し、犯行に及んだということらしい。


そして注目すべきは、

被害者及び事務所内の金品には、

一切手が付けられていないということだ。


警察では、怨恨による犯行の可能性にも言及しつつ、

顧客や取引先とのトラブルがなかったかどうか、

あるいは前週発生した事件との繋がりも含めて、

慎重に捜査を進めている――。


記事はそう締めくくられていた。


「ふん、慎重に、か……」


しかしあまりにも慎重すぎる。

でなけば怠慢だな。


警察は事件にならなければ動かない、

などと揶揄されることもあるが、

例え事件になったとしてもこの体たらくだ。


もう4件も起こってしまっている。

それに昨日は短時間の内に連続して発生しているのだ。


これは明らかに犯人からの挑発ではないか。


ふいにどこか遠くで、

当て付けがましいパトカーのサイレン音が聞こてきた。


ようやく犯人を見つけたのか、

それともまた事件が発生したのか、

あるいは全く別のことでだったのかは判らない。


まぁ、何であるにせよ、

俺が介入すべき事柄ではないのは確かなことだ。


だが、そうとは解っていても、

そのサイレン音を聞いてざわつき出す心を抑えるのに、

俺は必死になっていた。


俺の手の中の新聞は、いつしか強く握り締められ、

みるみる変形していった。

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