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絵が笑うと人が、死ぬ。  作者: 桜町雪人
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第三十六話

拾い上げた広告をデスクの上に置く。

置いたその隣に今朝の朝刊があった。


そういえば今朝は色々とあった関係で、

まだ朝刊を読んではいなかった。


だが、今まさに出かけようとしていた状況を曲げてまで、

今より腰を据えて新聞を精読しようという気にはならなかった。


だが、一応は情報源だ、

一面と三面だけは取り合えず軽く目を通しておくことにする。


と言っても、

一面、三面を大々的に飾り立てているそれら記事が、

今現在、俺の扱っている調査内容に対し、

果たしてどれくらい役に立つのかは疑問ではあるが。


新聞の一面に大きく取り上げられている記事、

それは昨日俺も実際に現場を見た例の事件だった。



白昼の惨事、ビルオーナーに続きホームレスまでも。


無差別か、犯行手口は酷似。


連続猟奇的事件に発展の様相。


模倣犯か同一犯か?



パッと見ただけでも物々しい単語が目に飛び込んでくる。


新聞がこれほどまで大きく取り上げるのも無理はない。

昨日の2件と先月あった2件とを合わせてもう4件目なのである。


今、俺の住むこの街で何やら大変な事が起こっている。


もし、小説や映画に登場する探偵ならば、

一たびこういった事件が発生しようものなら、

誰に依頼されるでもなく進んで犯人探しを始めるところなのだろう。


だが、現実的には捜査権も何もないただの一探偵では、

出来ることの制約や限界があまりにも多すぎて、

どうすることもできないのが現状だ。


俺としても一応は探偵業を営んでいる以上、

そういった事件や犯人に対しては、

人一倍、憤りを感じるのは確かだ。


しかし、事件が発生したからといって、

その事件現場に急行したところで、

黄色い規制線の向こう側に行けるわけでもない。


ただ線の外より見つめる他ないその姿は、

昨日見た東北からの観光客らしき老人3人組と大して変わらないのだ。


それではただの野次馬に過ぎない。

実際、昨日の俺はそうだった。


そして、今、新聞記事を、

憤りとは別の感情で読み進めている自分がいる。


その感情の中身について端的に言うならば、

それはワイドショー的興味とでも言えばいいのか。


わざわざ観光に来てまでという老人らほど露骨なものではないにしても、

俺自身、その心に少しでもワイドショー的興味を持ったことに対しては、

野次馬の件でもそうだが、

所詮、俺も同じ穴のムジナと言わざるを得ないのかもしれなかった。


しかしながら、

そこまで自分を卑しめなくとも良いのではないか。


例え事件に対する意識への導入部分が、

品位を欠く事柄によってのみ導かれていたとしても、

それを受け取った各人がその後どのように認識するかである。


それに今回のことは、

何も遠い街で起こっている事件ではない。

俺自身が住むこの街で起こっていることなのだ。


それは俺の調査活動の範囲内、

いわば自身の庭を荒らされているのと同義である。

その案件に関して憤りを、そして興味を持たないでいる方が、

むしろ卑しめられるべきことではないだろうか。


どんな形態であろうが「知っておく」ということは、

この街に住む者として、

そして曲がりなりにもそこで探偵をしている者にとっては、

責務であると捉えることができる。


そうである以上、

新聞、雑誌関係をワイドショー的感覚で読むことのみならず、

実際にテレビのワイドショーを観たとしても、

情報の受け取り方さえ間違わなければ、

むしろ積極的に行うべきことだとも考えられるからだ。


そのような建前の元、

俺は決して終始ただの興味本位にはならぬよう充分に注意しながら、

さらに新聞を読み進めていった。


しかし、全くもって酷い事件だ。


新聞によれば被害者はいずれも、

頭部損傷による脳挫傷が致命傷になっている、とある。


未だ凶器は見つかっていないらしいが、

その遺体の状況から相当荒っぽい手口だということだ。


「鬼畜だな……」


月並みな言葉だったが、

鬼と畜生、まさにそうだと思えた。


被害者にそれぞれ関係や繋がりは見つからないことから、

今のところ怨恨ではなく全くの無差別事件として捜査中らしい、

そうであるが故に周辺住民の不安も深い。


記事の隣には、

警察官や保護者らに見守られながら登下校する児童らの写真が出ている。


今回のことに限らず、

近頃は子供への犯罪も増えている手前、

親御さんたちは気が気でないことだろう。


事件は無差別、それも白昼堂々と起きている。

それにこれでもう4件目なのだ。


そう、4件だ。


昨日の被害者はこの新聞にも出ているように、

まず某ビルのオーナーが被害に遭い、

続いてホームレスが襲われている。


これで2件。


残り2件は先月起こった。

俺はその2件を思い返してみる。


今日の新聞には特にその2件については、

詳しく書かれていなかった。


記憶を辿る――。


確か一番最初の被害者は配管工……か何かだったか、

時期は2、3週間前だったように思う。


続いての事件は約1週間後、

何かの店の店主だったと記憶している。


一度気になると徹底的に調べたくなるのが職業病。


俺は今読んでいる新聞をデスクへと置くと、

壁際に積んであった古新聞の山へと向かった。


もちろん、その2件の事件の記事を調べる為である。

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