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絵が笑うと人が、死ぬ。  作者: 桜町雪人
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第三十五話

ダイヤルを無作為に回し、金庫にロックをかける。

とりあえずこれで、まずは一安心か。


俺はその金庫を見下ろしながら一つ息をついた。


「しっかり頼むぜ……」


セキュリティというものとは無縁とも思えるような、

この貧弱な探偵事務所では、この金庫こそが最後の砦であった。


何故かそう思うと急に頼もしく思え、

俺は思わずその砦に一声かけていた。


沢辺氏は具体的にいつまで絵を預けているつもりなのか、

ということについては今朝は言及しなかったが、

おそらく「終わるまで」と考えて良いだろう。


終わるまで――、それは調査が全て終わるまで。


俺が絵の露天商を見つけ出し、

そして絵の来歴を突き止めるまで。


それは長丁場となるのか、

それともそうでないのかは分からない。


だがこれだけははっきりと言える、

絶対に終わらせてみせる。


例えそれが雲を掴むような話であり、

砂漠に落ちた針を探すような調査であったとしても、

それが虚実ではなく事実である限り、

必ずどこかに突破口があり真実があるはずなのである。


今はただ不撓不屈の精神で調査を続けていくのみである。

それが例えどんなに困難な調査であっても、だ。


俺は軽く決意を込めるように金庫を二度ばかりポンポンと叩くと、

早速調査に出かけようと身支度をすることにした。


しかしまずその前にだ、

整理整頓ということに対して、それほどうるさくない俺であっても、

依然、床に散らばったままの広告をそのままにして出かけるほど、

そこまでルーズでもない。


早速俺は腰を屈め中腰の姿勢になると、

それら広告をサッサと拾い上げ始めた。


拾い上げたものの中に、

それとわかる足跡がくっきりとついているものがあった。


先ほど足を滑らしそうになった広告がまさにそれなのだろうが、

偶然というか何というか、それは靴屋の広告だった。


しかもその宣伝内容を見てみると、

皮肉なことに滑りにくい靴が発売された、

などというようなことが書いてある。


笑い話だな。


しかし、まるでこんな作り話のような出来事が、

実際に世の中では起こったりするのだから恐ろしい。

現に今この目の前でも起こったようにだ。


事の大小、事の重大性自体はそれぞれだとしても、

特に探偵業などをしていると、

そういう特異な出来事を体験した依頼人にお目にかかることも多い。


特に浮気調査の依頼の中にはそういう奇蹟的な話が多い。


普段行かないような所へ行った時に限って、

偶然にも浮気現場を見てしまったとか、

あるいは、その場所を、後10秒でも早く、あるいは遅く通り過ぎていれば、

ばったりと出会うこともなかったのに、などだ。


まあ、浮気現場の遭遇に限らず、

世の中で種々起こる出来事の時間的なものを精査していくと、

まるで誰かが仕組んだとしか思えないような出来事が多々ある。


そのような出来事に対し興味がないわけではないが、

しかし例えそれら事象を突き詰めていく内に、

そこに人智を超えた大いなる意思のようなものを見つけたとしても、

それの解明については俺の仕事の範疇ではない。


それについては、

どこかの胡散臭い宗教家にまかせておけばいいことだ。


そう、あくまで俺の本分は探偵業。


こんな靴屋の広告がどうだこうだのと、

実にもならない矮小な偶然について議論しているヒマはない。


俺はそれ以上、靴屋の広告には構わずに作業を続け、

程なくして残り全ての広告を拾い終えた。

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