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絵が笑うと人が、死ぬ。  作者: 桜町雪人
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第三十四話

手のひらに乗せるようにして持っていた段階では、

その違いに気付くことがなかったが、

絵をしっかりと握り締めている今ではそれがよく分かる。


その違いは手のひらが接している、

絵の側面部分にあった。


紙や布に描かれた絵と違い、

これは陶版画であり陶器である為に、

絵に1センチ弱の厚みがある。


その側面部分に違いがあったのだ。


釉薬がかかっていない、

と言えばいいのだろうか。


絵の右側側面には確かにあるツルツルとした手触りの光沢が、

左側側面には全くなかったのである。


上端、下端部側面を確認したがやはりツルツルとした光沢があった。


左側側面にはそれが全く無くザラザラとした手触り、

まるでそこからパキンと割れてしまったかのような、

『断面』のようである。


そうそれは、お茶碗を割った時の断面のような、そんな感じだ。


ちなみに、左側部分より絵が途切れているかどうかという、

絵の内容からの判断としては、

それが抽象画であり、さらには俺に芸術の素養が無い為に、

その点からは、はっきりとしたことは言えなかった。


しかし、例えそのことを抜きにしても、

光沢の有無、ツルツルとザラザラの視覚的、触覚的見地から考察して、

これは明らかに断面であると言うにはそれは充分であると思えた。


左側に続いていたであろう、

失われた絵の部分――。


絵の売り手である露天商を捜すことに、

果たしてその新事実がどれだけ役に立つかは判らない。


しかし現時点では全くの行方知れずのその露天商を捜すには、

例えどんな些細なことであっても、

地道に情報を収集していくしか方法がないのも、

また事実であった。


俺は他に何か手がかりは無いものかと、

側面のみならず絵の裏側なども見てみたが、

特に銘が入っているというようなこともなく、

それ以上の収穫を得ることはできなかった。


そうと分かれば早く金庫へとしまうべきだ。


こうして手に持っていると、

またいつどんなことで落としてしまいそうになるか、

全くもって気が気でない。


俺は早速金庫の扉を開けるべく、

一旦、絵を事務室のデスクの上へと置く。


金庫はデスクの直ぐ隣に置いてあった。


暗証番号通りに回されたダイヤルは、

カチリという軽い解除音を立てる、

約60センチ四方の重厚な扉をゆっくりと引き開けた。


中は棚が2枚入っており、

上中下、3つのスペースに分かれている。


俺は一番上のスペースに絵をしまおうと、

そこに詰まっていた書類やメモ類の束を、

それ以外のスペースへと押し込んだ


しかしながらそうして場所は作ったものの、

さすがに絵を金属の棚へと直接置くのはどうだろうか。


陶器である為に例えば地震でもきて揺れた時には、

接地面に傷でも付きそうなものである。


沢辺氏がそうしていたように、

俺も袱紗にでも包めばいいのだろうが、

袱紗などもうここ何年も使っておらず、

どこにしまったのかも分からなくなっていた。


とりあえず応急処置的な判断として、

俺は数枚のティッシュペーパーを棚に敷くと、

その上に絵を置くことにした。


さらに安全対策として、もし揺れた場合でも、

絵が金庫内の壁に当たって損傷しないよう、なるべく中央へと置く。


そうやって色々と施してはみたものの、

当然の如く見た目は何とも頼りなく貧相な感じである。


これを美術収集家であったり、

その手の収蔵方法の専門家に見せたら何と言われるか。

ましてや沢辺氏には絶対に見せられない。


俺は何やら情けない笑いを浮かべながらも、

金庫の扉をゆっくりと閉めた。

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