第三十二話
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正午を告げるチャイムの音が、
まどろみの中で微かに聞こえてくる。
もう、正午か……。
どこか近隣のビルから流れ来る、
俺にとってはお馴染みのそのメロディーを聞きながら、
腫れぼったいその目を何とか見開き、上半身を起こした。
3時間余り寝ていたということになるが、
熟睡は出来ていない。
しかし、完全に熱は下がってはいないようだったが、
もう起きて動き回っても平気なほどにはなっている。
俺はベッドから抜け出すと、
まずは目覚めのコーヒーを求め給湯室へと向かった。
だが、いつもなら朝に用意するコーヒーメーカーも、
今日は空のままである。
いや、厳密には昨日の作り置きが僅かばかり残っている。
電源は切ってあったので常温で放置された状態だった。
しかし俺は、この際それでも構わないと思い、
それを使用済みのカップへと流し込むと、
続いて体内へと流し込んだ。
コーヒーが常温でどのくらい持つものなのかは知らないが、
もし傷んでいたとして、それで腹をこわしても別に良いと思った。
そうすれば体内に滞っている何かを、
下剤よろしく吐き出してしまえるのではないか――。
……ところで、『何か』とは何だ?
俺はそこまで考えると、やがて「ククッ」と、
まるで喉に菓子でもつかえたような笑い方をした。
全く思考が支離滅裂している。
未だ夢の中にいるようだった思考は、
その笑いがきっかけでようやくまともに活動し始めたようだ。
俺は棚から食パンの入った包みを取り出すと、
その内の1枚とカップに残っていたコーヒーとで軽い朝食とし、
続いて棚から歯ブラシを取り出す。
ちなみにココは流し台兼洗面台でもある。
俺は歯を磨き、そして洗顔を済ませると、
寝汗を吸い込みじっとりしたシャツを新しいものへと着替えた。
まだ幾分、頭の奥に鈍痛のようなものが残っていたが、
今はもう、今朝感じたほどの酷いものではなくなっていた。
「さて……」
俺は表情を引き締めた。
今日は少し変則的になってしまったが、
今より仕事の始業時刻である。
俺はゆっくり歩き出すと、
事務室から衝立を越えて面会室へと向かった。
まず最初の仕事がそこにはあった。




