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絵が笑うと人が、死ぬ。  作者: 桜町雪人
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第三十一話

しかし、開けながら、

俺はもう一度考えていた。


確か俺の所に配達をしている朝陽新聞の営業所からでは、

ここまでどんなに急いでも15分近くはかかりそうなものだが。


俺が電話をしてからの時間的な感覚では、

まだ5分足らずしか経っていない。


だとすれば、ちょうど配達員が別の用事で出ていて、

出先で携帯か何かで指示を受けて急行したとか?


職業柄、一度気になると、

調べたくなり、そして訊ねたくなる。


俺はその不配を届けにきた配達員の青年に、

去り際、何気なく訊ねた。


「ところで、君は今、出先からここに来たのかい?」


階段を下りかけていた青年は振り返ると、

眼鏡に手を掛けながら、不思議そうな顔で答える。


「いいえ、営業所からですけど……」


青年はそれが何か? という顔でこちらを見ている。

てっきり「出先からです」と答えるだろうと思っていた俺は、

一瞬言葉に詰まる。


本当か? 本当ならば、少し早過ぎはしまいか?


俺はもう一度、

青年に確認しようかと思ったが、

それより先に携帯電話のことを思い付く。


そう、発信履歴だ。

携帯の発信履歴を見れば営業所にした時刻が分かる。


俺はポケットから携帯電話を取り出すと、

まず今の時刻を確認し、そして発信履歴を見た。


だがそこに示された時刻は俺の予想とは裏腹に、

現時刻から計算して、確かに約15分前。


15分前であるならば、別に早過ぎることはない。

ならばこの俺の時間感覚は一体何だというのだ?


ガコン…ッ!


その時、ビルの表で音がする。


それはバイクのサイドスタンドを蹴り上げた音、

続いて走り去るバイクのエンジン音が聞こえてきた。


俺はその音にはっとして顔を上げた。

もう目の前に青年の姿は無かった。


どうやら青年は、俺が携帯電話を操作している間に、

階段を下り、ビルを出て行ってしまったようだ。


営業所からだと言った青年の言葉がウソだとは思わない。

それは電話の通話履歴も証明している。


確かに俺が電話をしてから、

15分以上が経っていたのは事実だったのだ。


空白の10分間……。


俺の頭にある考えが浮かんだ時、

それと同時に背筋に寒気が走り抜けた。


俺はすぐさまその考えを頭から消去し、

そして呟いた。


「……これは、少し寝たほうがいいかもな……」


そう、これは熱のせいだ、少し寝たほうが良い。


時間の感覚がおかしくなったのも、

その寒気も、おそらく発熱からきたものに違いない。


早速、俺は事務所に戻ると、

受け取った新聞を事務所のデスクに放り出し、

そのままベッドに転がり込んだ。


放り出された弾みで、

新聞にはさまれていた広告が床に散らばったが、

今は拾う気にもならなかった。


早く寝てしまいたかった。

そして忘れたかった。


俺がその空白の10分間、

絵に魅入ってしまっていたというその事実を、

早く忘れてしまいたかった。

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