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絵が笑うと人が、死ぬ。  作者: 桜町雪人
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第二十九話

ビルを入って直ぐの左側の壁に、

ポストが取り付けられている。


このビルは4階建てだ。

ワンフロアに一テナントという計算だろう、

ポストは一列に2つ、それが上下2列、壁に取り付けられている。


おそらく、

このビルが出来た当時からあると思われるそれは、

デザインも見た目に古く、

所々に錆が生じた粗末な鉄製のポストだった。


ちなみにこのビルは1階は無人、

2階は俺の事務所、そして3階も無人、

最上階である4階には、

ビルの空調管理会社の出張所のようなものが入っているが、

年中そこに詰めているわけでもないらしく、

たまに出所して来たとしても日中は営業に出歩いているからか、

そこの従業員とはほとんど出会うことがない。


つまり、

実質的にこのビルに常駐している者は、

俺一人だけということになる。


気楽で良いといえばそれまでになるが、

防犯の面で考えれば無用心極まりないともいえる。


だが逆の考え方をすれば、

普段、人の出入りが全くないわけであるから、

誰か俺以外の人を見かけた時点で、

依頼人か、そうでなければ、

即、不審者である、と判断が可能なのだ。


まぁ、即、不審者、

と考えるのはいささか乱暴ではあるが。


だがしかし、

俺の事務所のポスト以外、

無造作に詰め込まれたチラシや、

宅配ピザのビラなどが口から溢れているのを見る限り、

少なくともこのビルのこの場所、

出入り口のドアを開けてのこの場所までは、

このビルとは何の関係もない人間が入り込んでいるということを、

容易に想像させる。


さらに想像するならば、

その者たちはチラシ、ビラを配る振りをして、

何か別の目的を持ってビル内に侵入してきている可能性だってあるのだ。


俺が事務所にいるときはいい。

だが、もちろん調査に出かけなければならない時もある。

その場合はこのビルに人の出入りが全くないことはマイナスに働く。


出入りがない分、人がいれば目立つと言っても、

その様子を見ている者が誰もいなければ意味がないからだ。


例え、即、不審者と言ってしまうのは乱暴だとしても、

このビルとは全く無関係の人間が、

俺のいない間にこの辺りをウロウロしているというのは確かなことだ。


そこで心配になるのがこのポストだ。


一応、口金の所に簡単な錠前を付けてはいるものの、

その道のプロにかかれば付いていないのと変わりはない。


よって俺は職業柄、

その辺りに関しては充分に用心している。


郵便物はもちろん全て局留めにしてある。

一々郵便局に出向く手間はあるものの、

それも仕事の内と割り切っている。


そのように、

郵便物においては問題がないが、

ではそれ以外ではどうか。


俺はポストのダイヤル式の錠前を、

壊されたり弄られたりした形跡が無いことを確認した上で、

手際よく回し外すと、ポストの戸を開いた。


昨晩放り込まれたのか、

何枚かのチラシが底に溜まっていた。


だが、それだけだった。

あるはずのものが無かったのだ。


俺はさらによく見た。

だが、よく見たところで、

どこからか出てくるわけでもない。


「また不配しやがったな……」


無かったもの、それは新聞だった。


用心しているとはいえ、

さすがに新聞までは直接買いにいく、

ということはしていない。


俺は情報源の一つとして、

一般的な大衆紙「朝陽新聞」を契約し、

配達をお願いしている。


それが届いていなかったのだ。


盗まれたわけではない。

それは先ほど錠前をチェックした段階でも判っている。


しかしながら、悪戯目的ならばいざ知らず、

そもそも新聞などはまず盗まれない。


盗人どもから見れば、

新聞には盗みという行為を犯してまでするだけのメリットがない。


何故なら新聞は個人情報もなければ転売もきかない、

ただの紙くずに過ぎないからだ。


ならば自分が読む為に盗む場合は?

いや、それは断じてない。

盗みを働くような人間は新聞など読まないからだ、

……まぁこの意見は、

俺の勝手な主観に基づくものと思ってもらって結構だが、

しかしながら今回に限っては状況から、

決して盗まれたわけではないと断言できる。


俺は渋い表情でズボンの左ポケットを弄ると、

携帯電話を取り出した。


その携帯電話、

さすがに阿木島のようにガラケーではなかったが、

もう何年も機種交換をしていない旧型のものだ。


だが、最新式である必要はない。

電話ができて、メールができて、

簡単なネット検索ができれば、それで十分だ。


俺は早速取り出したその携帯電話を操作し、

電話をかけた。


特に番号を押す必要はなかった。

昨日の発信履歴から簡単に検索ができたからだ。


そう、昨日も、だったのだ。


かけた先はもちろん、

朝陽新聞の営業所だった。

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