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絵が笑うと人が、死ぬ。  作者: 桜町雪人
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第二十六話

「では、そろそろ私は……」


沢辺氏はそう言うとソファから立ち上がった。


俺も立ち上がる。


共に事務所の出口に向かって歩き出したものの、

やはりというか、その歩は遅々として進まなかった。


まるで、子との別れを惜しむかのように、

幾度も立ち止まり振り向く沢辺氏。


俺もそれに合わせて、

その度ごとに立ち止まらなければならなかった。


僅か2、3メートルの距離で何度そうしたか分からない。


俺としてもソファから出口までのこの区間を、

こんなにも時間をかけて歩いたのは初めてだ。


ようやく出口へとたどり着いても、

しかしそこからがまた長かった。


沢辺氏は振り返り、

後ろに立っていた俺の肩越しに、

何やら潤んでいるようにも見えるその憂いを帯びた目で、

今は机の上に放置されたその絵を見つめている。


俺は「やはり預けるのはやめますか?」と言おうかと思ったが、

何故かその一言が出てこなかった。


それは一時的ではあるとはいえ、

絵を手放そうと決心している沢辺氏の意志を尊重しようとしたから、

だと思われる。


俺はいつの間にか沢辺氏と同様に後ろを振り返り、

そして絵を見つめていた。


いや、駄目だ。

俺までこうしていては、いつまで経っても埒が明かない。


俺はそう思い、再び出口の方、沢辺氏のいる方へと向き直ったのだが、

そこでちょっと気になるものを見た気がした。


それは、そこにいた沢辺氏の視線が絵ではなく、

確かに俺へと向けられていた気がしたことだ。


ちょうど俺が向き直る動作をしたから何気に見た、

という感じではなく、ずっと見ていた、という感じだったのだ。


その沢辺氏は俺と目が合うと、

目に口に薄っすらと笑みを浮かべた。


俺はそこでさらに気になるものを見た気がした。


沢辺氏のその笑みが氏本人のものではなく、

まるで氏以外の別人の笑みのような感覚がしたのだ。

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