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絵が笑うと人が、死ぬ。  作者: 桜町雪人
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第二十五話

沢辺氏のその異変が、

氏の心因的要因によるものである、

ということが明確であるならば、

あるいは俺も安心して、…という表現はどうかと思えど、

少なくとも、二つ返事とまではいかないが、

それでもここまで難渋することはなかったかもしれない。


いや、そもそもそういう議論をすること自体、

俺はどうかしてしまっている。


そう、これは心因的なものなのだ。

果たして絵のどの部分に対して、

氏がそこまでの魅力を感じているのかはさてとしても、

狂気じみてはいるものの、

ただその絵の虜となっているだけに過ぎない。


そして、

もう一つ俺の心に引っかかっている問題、

例の笑う男の絵のことだが、

その問題に関しては、

昨日も雨宿りの最中に改めて推察した通り、

氏が、絵を見ている俺に気付かれないようにして、

何かの細工を施したトリックであり、

それは俺の注目を集める為、

発破を掛けてやる気を起こさせる為の、

ただのギミックなのだ。


事実、昨日の晩、事務所に戻った後に、

氏がメモ用紙に書いた例の絵を改めて見たが、

その時はいくら見つめようとも、

ピクリとも動かず、そして笑うこともなかったのである。


俺は少し動転していたのかもしれない。

発熱と、沢辺氏の急な訪問、そして実物の絵を突きつけられ、

昨日までに整理したはずのロジックが、感情が、

少しばかり乱れてしまっていたようだ。


まぁ実際、それらの出来事プラス、

眼前の沢辺氏の一連の行動を見せられては、

そうなってしまうのも無理はなかったかもしれないが。


「わかりました……、お預かり致します」


我ながらそれは落ち着いた一言だと思った。

もう心の乱れはすっかり治まっている。


沢辺氏は俺のその言葉に、

ピクリと体を震わせ反応すると、

未だ頭を撫で回していた手を止め、顔を上げた。


「そう、ですか……。はい……。お願い致します……」


ぼそぼそっと呟くように言う沢辺氏、

顔はまるで死人の様に真っ青であった。

いや、実際、死人が喋っている様でもある。


昨日は一睡もしていなかったらしいとはいえ、

その憔悴ぶりはあまりにも異様である。


しかし、最初この事務所に入ってきた時の様子を思い返すに、

ここまで酷くはなかったはずであったが。


「あの、沢辺さん? 大丈夫ですよね?」


俺は何やら氏のその様子に居たたまれなくなり、

思わずそう質問していた。


「えっ? ええ、大丈夫ですよ……。

 しばらく預けるだけですから……」


身体のことを心配して発したはずの俺のその問いは、

さらりと絵の話題となって俺の元へ返ってくる。


そうか、俺はとんだ見当違いをしていたのかもしれない。


氏が具合を悪くしている本当の原因は、

睡眠不足などの生理的なものではない。


絵を一時だとしても手放さなければならない、

そのことを思い詰めての精神的なことなのだ。


俺自身の中でそう納得し理解すると、

俺はすかさず話題ををすり替え、

改めて氏に対してこう告げた。


「……管理は厳重に行います、どうかご心配なく……」


沢辺氏はそれに「はい」と小さく答えると、

ようやく、ほっとした様子をみせる。


それは俺の気のせいかもしれないが、

土気色の氏の顔に、若干だが赤みが戻ったかのように見えた。

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