第十八話
これはやられた。
全てお見通しだった、というわけだ。
だが、何故それがわかったのか?
こちらの発言に失敗があったとは思えない。
そう、これはもう最初から、
俺が絵の露店について聞きたがっているのだ、
ということを知っていたとしか考えられない。
なら、どうしてその事を知っていたのか―。
俺は瞬間的に逸らしていた、と言うよりも、
そうせざるを得なかった視線を再び彼へと向ける。
彼は未だいたずらっ子のような笑みを顔にたたえ、
こちらの様子を窺い続けていた。
愛嬌のいい顔立ちだとは思っていたが、
笑うとより一層、人懐っこく見える。
まだあどけなさが残っているせいかもしれない。
当初は20代半ばかと思ったが、まだ10代なのかもしれなかった。
さて、次の一言をどうしたものか。
無論、とぼけることもできる。
醜態とも言える動揺についても、
適当に言い繕って煙に巻くこともできるだろう。
だが、興味もないわけでない。
あえてここは肯定で答えて、
何故知っていたのかを訊いてみたいとも思った。
だが、俺のその考えがまとまらない内に、
彼の方から次の一言が発せられる。
「…この前とまるっきり同じ」
「同じ?」
俺は彼のその一言に鋭く反応した。
俺以外にも彼に対して質問を、
それも絵の露店について聞き込みをした人物がいるのだ。
一体誰が?
俺は少し考えてから、
なるほど、そうか、と気が付いた。
沢辺氏だ。
当然それはあるだろう。
沢辺氏が俺に依頼をする以前、
個人的に聞き込みをしていたとしても、
何らおかしな話ではない。
おそらく沢辺氏がこの彼に、
見かけなくなった絵の露店がどこへ行ったのか知らないだろうか、
というようなことを聞いたのに違いあるまい。
「そうか、以前にも聞かれてたのか…」
「うん、見かけたら連絡くれって、ご大層に名刺まで」
そう言って彼は胸ポケットの辺りをゴソゴソとやったが、
「あれ?ないや」などと言いながら、
さらにズボンのポケットまでをも探ったが、
どうやら見つからないらしかった。
「名刺はウチに置いてきちゃったな。
ま、それはともかく、えらく熱心でね。
自分でも毎日ここに来てるぐらい…って、あれ?
でもそういえば、今日は来なかったな…」
当然それもあるだろう。
今日は俺に依頼が完了したということで来なかったに違いない。
でも、毎日来ていたとは。
しかし、このことから少なくとも沢辺氏の話の中で、
絵の露店というものが確かに存在していて、
そこで絵を購入したということだけは事実なのかもしれない。
これは存在の確認、まずは一つ目の収穫。
その後も俺は、
まるで警戒心もなく次々と喋ってくれるのを幸いに、
その彼から絵の露店のことを色々と訊き出してみたが、
当然と言えば当然だが、
結局は沢辺氏から聞いた話とそう大差のないものばかりで、
収穫らしい収穫というのは全く無かった。
そうこうしている内に、
ふと、俺の隣に2、3人が立っているのに気が付いた。
どうやら俺が呼び水になったらしい。
先ほどスズミとかいう人物の周囲にいた者たちが、
こちらの方へと流れて来たようであった。
もう訊き出すことも無かった俺は、
邪魔をしては悪いと立ち去ろうしたが、
その俺に対して最後に彼はこう呼びかけた。
「お兄さん、また僕、ヒロノリの歌、聴きに来てね!」
俺はあえて振り向かず、
肩越しに振った手でそれに答えた。




