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絵が笑うと人が、死ぬ。  作者: 桜町雪人
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第十七話

「君は、ここでは長いのかい?」


「長いって? 時間? 期間?」


「うん、期間かな」


「…そうだね、もう1年、1年半? まぁそんなとこかな」


ふむ、この彼、

この通りではかなりの古株のようだ。

聞き込みをする上で、これは幸先が良い。


だが俺は逸る気持ちを抑えながら、

ゆっくりと質問を続ける。


まさか、いきなり「絵の露店が…」などと、

聞くような野暮なことはしない。


聞き込みというものは、

案外じっくりといかなければならないものだ。


ひょっとしたら、

この彼とその露天商が知り合いだという可能性もある。


もし、そうであった場合、いきなり核心から攻めると、

「それがどうしたんですか?」と逆に質問され、

身構えられたりしかねない。


だから出来れば、

こちらから『訊く』というよりも、

相手の話を『聴く』という形で、

「露店」と言わせ、そして語らせたいのだ。


俺は充分そのことを意識しながら、会話を進める。


「そうか、結構長いことやってるんだねぇ。

 で、あっちの方にもいるみたいだけど、あれは…」


と言って俺は、

通りの先に出来ていた人だかりを顔で指すようにする。


「ああ、あそこは…、スズミさんだね」


「スズミ?」 


「そう、スズミさん。あんまりまともに喋ったことはないけど」


ちなみに、

ここからでは、その「スズミ」さんとやらの姿は見えない。

彼は「場所」から判断し、その名前を言ったのだ。

だとすれば…。


「ふ~ん、スズミさんねぇ…。

 ところで、場所ってどうなってるんだろ?

 これって指定席? それとも早い者勝ちみたいな感じなの?」


「まぁ、強いて言えば、指定席?」


彼が言うには、

厳密には決まってはいないらしいのだが、

大体の座る場所はいつも同じ、ということらしかった。


だから、彼は場所を見ただけで、

どこは誰だとか、誰はどこだ、とかがわかるらしい。


なるほど、

これは尚のこと幸先が良い。


これはきっともう少し聴けば、

以前どこに絵の露店が座っていた、

というような話が聴けるかもしれない。


俺はより一層逸る気持ちを心に押し込め、

さて、どうやって話をそちらに持っていこうか、

などと考えながらさらに会話を続ける。


「なるほど、だからどこが誰かってわかるんだ…」


「うん、大体わかるよ…。

 例えば『絵の露店商』がどこだった、とかもね…」


「!」


聞き込み調査の鉄則として、

いかなる状況であっても驚きを表情に出すべきではない、

ということは充分にわかっているつもりだ。


だが、一瞬とはいえ、

さすがにこの時ばかりはそれが出来なかった。


それは偶然ではない。

彼がその一言を発したのは偶然ではなかったからだ。


ふふふ、と顔に笑みをたたえ、こちらを見つめる彼の顔は、

まさにこの俺がその一言で動揺することを予測し、

結果その通りになった、ということを喜んでいるかのような、

そんな表情であったのだ。

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