化け物になる方法④
かつて、史上最凶の異常者、クレイ・ジャグリーを幽閉していた一室。特異常者、ノイズ・ルーチェスはここに拘束された。
異常犯罪防衛隊隊長、ブラッド・エレインは慣れた様子で、強化ガラスで遮られた部屋の前に立つ。
「今日の調子は、どうだ?」
「……さいあくだ」
「そうか」
言うとおり、ノイズは不機嫌そうな顔を隠しもせずに鋭い視線を向ける。初めて会った時の温和そうな青年は、もうそこにはいなかった。あの、いたずら好きで、人好きのする笑顔は、どこにもない。
「よくも俺の前に顔を出せるな?」
一度理性を飛ばしたからか、ノイズは変わった。そこら辺の異常者のように、こちらに敵意をむき出しにする。
「罪滅ぼしのつもりか?」
どうせ、不死者を殺す方法なんて見つからない。なのに、出来ない約束をノイズに押し付けて、追い詰めたのは事実だった。
「ふ、はは、あはは、」
ノイズは、そんなブラッドを見て笑った。そんな嘲るような笑い声をする男ではなかったのに。
「なあ、かわいそうだなぁ。お前。死にたがりに居場所なんか与えて、恨まれて」
しかし、ノイズの口調に、それを責めるような雰囲気はなく。むしろ、それを楽しむような気配すら感じた。
「俺っていう化け物は、お前が作ったんだ。可哀想に」
咎めているような、憐れんでいるような。ただそれはまるで他人事のようにブラッドを呪う。
「おまえがお友達だって思ってた俺は、もういなくなっちまったな?」
ノイズはまた笑った。
煽るような態度はしかし、ブラッドにある決意を抱かせるのに役に立った。
「……いや、お前は変わらず、俺の友だと思っている」
「てめぇは友を身動き取れないよう拘束するのか」
「おまえがそれを望んだからだ」
「そりゃあ前までの俺だ。今の俺は、この世界が滅びる事を望んでる。まずは手始めに、お前の首を掻き切って、防衛隊の連中も全員潰してやる」
「……そんなことはさせない」
「随分都合のいい事ばっか言ってくれるじゃん」
「俺が憎いのか」
口を開けば偽善ばかり。
救いのあるようなことを言っておいて、結局これだ。こんな思いをしたくないから、ノイズはブラッドを、防衛隊の人間を遠ざけようとした。
「ああ、いやだ、結局お前は、俺を一人こんな冷たい場所に閉じ込めるのかよ」
「おまえが殺意を引っ込めればいいだけの話だ」
「だったら最初から閉じ込めときゃよかったのに、そうすればこんなに孤独に怯える事もなかった!」
嬉しかったからこそ、楽しかったからこそ、その言葉は生まれる。
もちろん、ブラッドは本気で約束を守るつもりだった。必ず方法が見つかると思っていた。
不老不死なんてふざけたおとぎ話があるのだ。不老不死を殺す方法だってきっと見つかる。
けど、足りないのは時間だ。
ノイズの精神が壊れるのが先か、ブラッドが老いて死ぬのが先か。
「知ってるか?お前は自分の体を修復する時熱を持つ」
いっそ、壊れてしまいたい。と、不老不死の化け物は言った。
そして、まだ光の宿る瞳から涙を流す。
「あ、れ、頭が、熱い」
「人間は、エネルギーを使う時に、熱を持つんだ」
つまりそれは、ノイズの崩壊しかけた脳細胞を、修復しようとしている証拠ではないか。
「……お前はまだ、壊れてなんかいない」
けれどノイズの心は負の感情に埋め尽くされ、精神を壊し続ける。
「お前は化け物になったんじゃない」
涙など枯れたと言っていたノイズが涙を流している。それは、ノイズの体で起きた異常かもしれない。
それでも、外聞も忘れて、我がままを泣き叫び、生に足掻く。それの何がおかしい?
「取り繕ってる時のお前よりも、人間らしいじゃないか」
何を馬鹿な、とノイズは掠れた声で呟いた。
不老不死の化け物で。死にたくて、殺してほしくて、それが出来ないから、いっそ化け物になって、全部壊してしまいたくて。
仲間が欲しかった。同じ化け物の仲間が。
そんな、人間、だなんて。
「連れて行きたいところがある。冷静に話をしよう。ノイズ」
ガシャン、とノイズの拘束が外れた。
自由になった手は震えて、ブラッドを殺すかどうかを迷っている。
怖いなら、手錠をつけたままでもいいだろう。どうせ、ノイズの身体能力ではブラッドに叶わない。
ノイズは、抵抗しなかった。




