お約束を忠実に
この世界は神が作り、神が管理し、大地を人で満たし楽園を創設したと先人達は言う。神の存在の確証として数年に一度の割合で神から直接、お告げを受けるという事実があるので神を否定する人は少ない。少数居ることは事実だが世間に発覚すると神殿の兵達によって連行されその園消息は誰も知らないという結末になる。これは子供でも知っていることだ。ここで暮す人々は大抵家を継ぐ。兄弟、姉妹が多数居たとしても継承問題にならない。人が圧倒的に足りないためだ。
健康的な人物が寿命を迎えるまで、老衰で死亡するまで三百年程度の時間を要するこの世界では滅多に子供を残さないという風潮は無く産んでもモンスターとの先頭で負傷したり、死亡したりする筆が以上に高い。我がアーノルド家の初代の時代であれば寿命が今の三割程度と言うことだから現在の人は長寿になったということなんだろうがその分死亡率が跳ね上がった。各国では子供を残すことを推奨しているし、それによる報奨なども行っている。我が国以外との連携も昔と違い取れるようになった。国外に出る場合も政治的に重要とされる人物以外は必要なことは無く、商業も活発になった。市場で気軽に手に入るような食品も、原産地が国をまた供御とも珍しくない。我がアーノルド家に名を連ねる初期の先人の時代には考えられないようなことが現実になった。
歴史を紐解いていくと大雑把に人という種族が出現して以来、人同士の争いが多かった。次第に人の群れ、集団による戦争に移り最終的に国家間の戦争に発展した。根本的な戦争の理由は領土の拡大だった。戦争に明け暮れたが、戦場で死亡したとしても生まれ変われるということにより戦死者の数は増加し続け、一日の戦死者が小国の人口と同数という信じられないことも記録に残っている。最後の侵略戦争が神のお告げの中にあった終の世界の結合、その後数年間に及ぶ終の世界への侵略戦争である。この時代の戦死者は死亡した後、神殿にて赤子の状態で現世に復帰したそうだ。神殿関係者においては復帰した赤子の育て親を探すだけで神殿の機能が麻痺したという。死後ということを考えなくてもいいというのは、今でもうらやましいと思う人も居るようだが神の力にも限度があるということだろう。終の世界との結合により本来であればもたらされる文明の一切を我々は受け継ぐとこが出来なかった。受け継いだのは言語だけということも先の侵略戦争を招いたことの要因として考えられている。現在の終の世界には強固な結界が張られており行き来できるのは各国の巫女だけとなっている。この結界が張られたことにより終の世界のことを神域と呼ぶようになった。内側のことは他言無用とされ、神からの言葉のみを国王に準じるものに口伝される。伝えられた内容を国毎に各部署の長を含めて国王から下ろされ国の統治がなされる。これが現在の神託の形になる。緊急時の場合は巫女に直接遠距離からでも下されるらしいのだがこれについては確証が得られていないので明言は避けることにする。
さて神の力の限界という表現をしたが外でこのようなことをいうと神殿の兵に拘束されることになるので気をつけて欲しい。神の力の限界という言葉は神が使ったものであるから、このような場で使用することが出来るということを肝に銘ずるように。神は受け継がれなかった終の世界の技術、文明を完全な形では無いが我々の世界に受け継がせてくださった。皆が日々受けている恩恵は神が力を割いてくださったことによるものだ。魔法、食糧、医療、製造、運搬、国家から露店までの組織運営の基礎も神による恩恵であることを忘れてはならない。
神が我々に英知を与えてくださった、そして現在神は外界から侵略者である邪神と争われておられる。その余波で各地ではモンスターが発生している。モンスターの発生源は十キロから二十キロ毎に発生するポイントが有り定期的にモンスターが発生し続けている。ポイントは一定期間で場所を変えるので特定には至らないし、特定できてもその期間内しか対処できない。モンスター達の頂点にいるのが邪神であるとされ、モンスターは邪神の軍勢であり、邪神を神が押さえていてくださる内にモンスターを駆逐し神への援護としなければならない。これは今を生きる我々の義務である。
最後に私も言われた言葉を君たちに贈ろう。この言葉を持ってこの集会を終えることとする。
「冒険者諸君、我が冒険者全てと冒険者支援組織ギルドは君たちを歓迎する。」
盛大な拍手を送られアーノルド氏は、ぱっと見威厳ありそうな顔で新米達を受付に送り出した。送り出される方は皆これからの自分のサクセスストーリーでも思い描いているのだろうか。気持ちが悪いほど自信に溢れ笑顔一色だ。今の自分たちでは太刀打ちできない上位の冒険者に心酔しているように見える。一般常識を説明しただけのような気がしたがここで発言するのはよろしくないので我慢する。
ああ、私、一太郎です。いろいろありましたのでこの町に着くまでのことは端折ります。街に着いた後は門番に街に入るための税金を払い、神殿で身分証の発行。先ほど冒険者ギルトへと加盟に来ましたら上級の冒険者さんがいらっしゃるということで演説会に強制参加させられ現在受付の列に並んでいます。迷惑な話ですが冒険者になるのであればと薦められて参加しましたが、無駄な時間でした。
「次の方!すいません聞いてますか?あなたの番ですよ。」
「はいはい。」
「指名をお願いします。後、身分証の提示もお願いします。」
「これね。名前は一太郎です。」
「年齢は十六と、成人したばかりですね。特技は剣術と魔法ですか。」
「では、この用紙に得意な戦闘スタイルと名前をサインして実践テストの会場へどうぞ。」
そう言われてほんわかした感じのアニメボイスの事務員(巨漢の男)に促されるまま試験会場へ向かう。普通受付はヒロイン候補の女性じゃないと駄目なのでは無いのか。そんなことを考えながら人の流れに沿って試験会場へ流されていく。ギルドの裏手に回り、大きい運動場へと出る。試験会場は屋外なのか。ここでのイベントはおそらくまだ先だから覚えておくだけにしよう。おそらく職員らしき人物(学者っぽい男)が得意技能によって仕分けていく。見た目や性別はともかく仕事は出来るようで次々と割り振っていく。公務員タイプだな。俺は当然のように剣術のところに割り振られた。そう書いたから。もはやギルドの長がおっさん系では無く美女系だと願うしか無い。
「さて、ここで選択肢か。」
そうつぶやいて対処の仕方を考える。試験官は肉体派の男。丸めた頭に戦闘の跡が残る太い腕の持ち主。きっとムキムキ系だ。試験の形式は試合形式なのでお約束的に勝つことに変わりは無い。圧勝するか、ぎりぎり倒すか。この二択になる。そんなことを考えているとパスを通じて話しかけられる。
『こっちは弓ですし、試験内容は的に向かって打つだけなので最高評価を狙っても問題ないですね。』
『こっちは試合形式だからどうするか決めかねてる。どっちがいいと思う?』
『物語的には難しいけど、周りの私を見る目が嫌なので圧倒してくれると助かります。相手が死なない程度に全力で。』
『じゃあサクッと終わらせるか。』
試験会場に目を戻すと俺の順番はまだかなり先らしい。椅子くらい用意してくれても良いのに。試験自体は一般的な鉄製の剣を使用するらしい。刃を潰していないようで、会場の至る所に血痕や血だまりがある。刃を潰していてもこれなら骨くらい簡単に折れるだろうに。脇に神官が控えているので多少の怪我は何とかなるということなんだろうな。前に並んで連中は大概がびびっているようで順番がいっこうに回ってこない。
「新米ども、剣術でこれから食っていこうっていうのにこの程度で腰が引けてどうする。別にお前達を殺そうって訳じゃ無いんだ、お前達は将来の貴重な戦力だ。だから神官がここに居るんだろうが。腕一本切り落とされても問題ない。その場で繋げてくれるぞ。早く冒険者になりたいと思う奴からでいい。前に出ろ。」
テンプレなんだろうな。是非ともこのシチュエーションを美味しくいただかせて貰いたい。それに順番待ってるといつになるか分からないし。帰って行く奴が居ないのは冒険者という職業の魅力なのかね。でも試験官の無駄な挑発のせいで俺の前の奴が漏らしやがった、ちょっとここに居たくない。そんな理由で列を離れ前に出る。
「腕くらいなら繋げられるんだよな?」
神官に確認してみたら苦笑してうなずいている。
「先に神官に確認するのは慎重すぎるな。冒険者としては必須だがここは試験だ。そこに居る神官とは長い付き合いだ。両手だろうと繋げてくれる。さっさと構えろ。構えたらお前自身のタイミングでかかってこい。」
『この場合「じゃあその腕を貰おうか」ですよ。あと、こっち終わりました。』
「じゃあその腕を貰おうか。(ティアラ、拘るね。)」
軽く片手で構えてから、構えを解き歩いて近寄り普通に切る。こういう形式の対人戦闘は初めてなのでどの程度なのかの実働テストも含めてやってみると、普通に切れるわ。試験官の腕が両方とも試験会場の上に転がる。会場から上がる叫び後よりも早く神官が駆け寄って拾った腕を繋げ始める。
「俺の結果は合格でいいのか?」
返答を待っているんだが痛みでろくに喋れないらしい。
「両足もいくか?」
「ギルドのカウンターに行け。受付でギルドの会員証を貰えばそれで終りだ。」
「それは手っ取り早いな。それじゃ頑張って。」
返事をしてくれた神官にエールを送って受付に向かうと、人垣が割れて道が出来る。道の最中にティアラが待っていてくれたので一緒に受付へ。
「こちらが注意事項と、簡単な説明を載せてある冊子、そして冒険者ギルドの会員証となります。会員証には各ランクのモンスターの討伐数が自動で記録されますのでその記録によってギルドからの最低限の報酬が出ます。依頼出会った場合は討伐数の報酬と依頼の報酬が支払われます。モンスター自体部位や状態によってこちらで買い取りが可能ですのでその点も注意してください。先ほど提示された神殿発行の身分証よりも、上位の身分証となりますので神殿で発行された身分証についてはこちらで回収させて頂きます。」
「ほいほい。今日から仕事は出来るの?」
「依頼を受けることは可能ですが、本日正式に冒険者になったのであれば冊子を読んで装備を調えるのが良いかと思いますが?」
「それじゃ今日のところは帰りますよ。」
出口に向かう途中に待ってくれていたティアラを拾ってギルドの外へ。周囲の冒険者にやたらと舌打ちされたが、さてと宿を取るか。
「宿を取るのがセオリーだと思うけどどうする?」
「宿を取って装備を調えモンスターと実地の戦闘訓練ですね。」
「さいですか。」
ここに居ても邪魔になるので宿へ向かう。
この人口一万程度の街はこの国の中枢から遠く、爵位の低い貴族のハリス・イングルーパーが納めている五つの街の一つ。その中で一番栄えているのがこのハリス。街に自分の名前をつけるのは下級貴族には多いらしい。町の発展が自分のアピールにつながるかららしい。この町に来た理由は自由に出来るということで選んだ。辺境と言えばそうだし、ここよりも辺境といえる街もあるので微妙なところではある。ただお約束という部分からすると低級貴族というのはいろいろうま味があって美味しいということでここになった。必要な設備や施設という部分で篩にかけてあるのでそういう部分では問題ない。
『神様は邪神の相手をしているそうで大変ですね。』
『セバスチャンの話相手をするだけだから問題ないわ。お告げするしないで問題になるまで邪神だって気がつかなかったし。奥さん魔王だったし。』
『倒して隷属させるからだと思いますけど。普通は気がつきますよ。ステータスの表示が変わりますから。』
『ついでに勇者は魔王に倒されて魔王に隷属中。魔族軍の指揮官ってのも大変だと思うけど?』
『勇者は英雄ですからね、大抵英雄は損な役割なんですよ。英雄としてもあなたより相当劣りますけど。』
『なったつもりもないし、なる気も無いんだけどな。』
『終の世界で自分以外全ての者を自分の展開した空間に戻れないようにして送り込んだ。一般的には全人類を殺して魂を弄んでいるということになりますよ。一人殺せば殺人者、百万殺せば英雄。事実上、全人類を殺したあなたは英雄という概念では最上位になると思いますよ。』
『若さ故の失敗と思いたいわ。着いたね。』
宿屋の入り口をくぐりカウンターにいる中年のおばちゃんに一ヶ月の長期滞在を申し込みその期間内の飯代を含めた金を払い部屋へ案内される。十畳くらいの部屋にベットが二つ。テーブルに椅子、衣紋掛けに簡易キッチン、風呂とトイレが付いていて快適そうだ。宿というよりはアパートという方が正しい。この街の神殿に到着した時にお薦めの宿屋を聞いていて良かった。資金については神域を訪れる巫女の酔ってきた寄付をそのまま使っている。この世界の通貨は百までが円で四桁以上がゴールドとなっている。なぜドルの立場にあるのにゴールドなのかは分からないし普及しているので今更どうしようも無い。単価については地球時代と変わらないので不便は無い。宿は一般的にいう高級宿で宿代は一泊十万位だった。でも寄付金から出ているので痛くもかゆくも無い。
武器屋と防具屋で適当な装備(限りなく新米冒険者っぽい商品)を購入して街の外に。この付近には冒険者には必ず出てくる可哀想なゴブリンさんがいらっしゃるはず。最初はゴブリンと言われたのでゴブリンさんを探索する。それにしても俺たちはスキルを選び間違ったな。どうやって一般の冒険者生活をすればいいんだろうと不必要な悩みを抱えてしまった。
この世界のモンスターは五体集まると一体が上位種に変化する。さらにその上位種が五体集まるとさらに上位種という感じで単純に強くなっていく。上位種についてはランク付けされておりなんの教練もしていない一般的な成人男性六人で最下位のゴブリン一匹と戦力的に拮抗する。拮抗するので無傷で勝てるわけでも無く数人犠牲にすれば勝てるレベルになっている。冒険者であれば最適なパーティー編成によっては最低レベルの上位種を含むパーティーと同等レベルとなる。モンスターの行動は合理的で弱い者から襲ったりする。種族の違うモンスター同士の戦闘も起こらず共存関係を築き上げることもモンスターの群れの面倒くささに追い打ちを加えていた。
パーティーは最大で十人とされ戦闘で得た経験値を頭割りで得ることが出来る。人数が少ない方がレベルが上がりやすいが死亡する確率も上がる。大体のパーティーは六人から最大の八人でパーティーを組んでいる。依頼内容によってはパーティー編成を変更できるように専門職の予備人員を用意しているパーティーもある。さらに複数のパーティーからなる集団<クラン>も存在しているがクランがあるのは王都か王都に近い街にしか無い。クランについてはよく構成メンバーの主義主張や利権により分裂を繰り返すため食うに困る冒険者以外は参加しようと思わない。
一般的な人のレベルは一が最小値で九千九百九十九が最大レベルとなる。レベルアップ時には二ポイント与えられ。能力値かスキルに割り振ることがある程度自由に出来る。スキルも各種有り近距離戦闘、中距離戦闘、遠距離戦闘と大きいカテゴリーが有り近距離戦闘であれば剣や槍、素手などに多数存在する。スキルには習熟度があり素振りなどでも習熟度は上がる。習熟度を上げきることは上位スキルを得るための条件にもなっている。上位スキルを得る場合もポイントを消費するので大抵は何かに特化した冒険者になる傾向が強い。スキルにもランクが有り一から百まである。余談になるが今まで世界最高の剣術使いが実際には剣術スキルの中盤にも至っていないことにショックを受け引退するものが続出した。これは他の武器を得物としていた者や国家が抱えていた戦士や騎士、魔術師など自分を選ばれた人材、またはエリートだと思っていた人物達にも同じことがいえた。スキルについては戦闘系以外にも多種あるがあまり試す人は居ない。
魔法のスキルカテゴリーについては<火><水><土><風><回復><付加><空間>となる。この世界ではスキルにより管理されているので誰でも魔法使いになることが出来る。しかしながら、魔法系でさらに一つのカテゴリーににポイントを五十ポイント割り振りやっと中級と認識される。居たら重宝されるが自分からなりたいというマゾはあまりいない。よってその分需要は高い。一般人や専業主婦であれば<火><水><回復>が応用の利くことから人気である。回復の上位魔法は巫女には標準装備されているのでよほど酷いときは神殿に行き有料サービスで回復して貰うということになる。
全てのスキルは神殿で祝福という形で習得する。祝福に関しては無料で行っているためレベルが上がったら神殿に行くのが一般常識。現実には無いがスキルの一覧があった場合樹形図で表現できるだろう。剣術であれば剣術より派生する流派や派生技などがあるからだ。最初は一つ、上位に行くにつれて様々な選択肢が出現していく。習熟度の貯め方によっても出現する選択肢に変化が起こる。
だから最初は一つというところで勘違いした。協会に行く必要があると考えていたことも勘違いに拍車をかけた。メニューに表示されたスキルを一番端の方から一つずつ習得し一通り終わって全てのスキルが反転したときに間違いに気がついた。スキル取得のシュミレーションで仮だと思っていた。そして結果的に一番上位のスキルのみ選び全て取得したということに。そしてこのスキルと改変前のスキルがまた別ということも現状の悪化につながった。ポイントが共通になっていたので大量に余っていた。スキル獲得に多少割り振った。強くなった。知らない間にな。スキルの内に基本能力値を底上げするスキルが隠れていたのも良くなかった。レベル1であるにも関わらず全スキルをマスターした。確かに「俺最強」という異世界ものはあるが実際になってみると確実に現段階で詰んでいる。サービスのつもりなのか習熟度も上限になっているし。成長の無い世界ではゴブリン退治にも気が乗らない。とりあえずゴブリンと戦って、「人型の生き物を殺してしまった」というシチュエーションを体験しようと前向きに思えない。街の外に出て、開けた平野を歩き、街道を外れ、山中に踏み込んでいる。そろそろ出てきても良い感じだな。
「考え事でもしてるの?」
「なんか気が乗らないだけ。弱い者イジメになりそうだしね。」
「でも最初の戦闘で、窮地にいる冒険者が居るかもしれないし。助けるのも王道だと思うよ。」
「王道ではあるけど、そういう人って実は街の顔的な冒険者だったり、冒険者に登録したばかりの女の子とかってパターンでしょ?女の子の場合基本的にヒロインポジションだけど妻としてはどうなのよ?」
「私が一番であれば問題ないけど?私が一番にあなたのことを考えていることは絶対的なものだし。」
「異世界で一夫多妻制に抵抗する気は無いけど賛同されるとは思わなかったな。」
「でも都合とかもあるからパーティーが組める人数くらいが許容限界だと思ってね。」
「あと八人とかいらんよ。スローライフが俺に合ってるからね。」
「念のために言っただけだからあまり気にしないで。」
「でそろそろゴブリンが居ても良いんじゃないかな?」
「多分だけど、もうすぐに上り坂も終りだしその先に気配があるわ。」
「じゃあ、実験がてら戦闘訓練でもしますか。」
この会話でフラグが立っていたんだろうな。軽く山登り気分でここまで来て下り坂になった瞬間に正面にゴブリンの群れがきちんと待っていた。一面ゴブリン畑。平均百六十センチのゴブリンが度去年の冒険者から奪ったらしき鎧や武器を手にこちらを見ていた。新米の冒険者であれば詰んでるな。走って逃げるレベルの場面だ。さて、スキルを使用せずに実験しますか。
モンスターは合理的に動く。まるで高度にプログラムされたAIのように。一切の無駄を省き必要であれば自分を犠牲にしてでも敵対者に攻撃が行くように動く。気を抜いている人間を見かけたら全力で刈り取りにかかる。相手が気付いていない場合は死角に忍びらがら移動して暗殺もどきまで繰り出す。
俺とのエンカウントの場合はティアラは気配を消して近くの木の上で待機している。ゴブリンが認識できるのは俺だけ。さらに気が抜けている俺をターゲットにしてもおかしくない。俺が装備してるのは鉄の剣。一対一で戦うよりも自分たちの数の有利を生かして面で攻撃をしかける。正しい選択だ。ゴブリンで形成された津波に俺は呑まれることになる。俺に最も近かったゴブリン数匹は、衝突する瞬間にそれぞれの武器を構えお互いの攻撃が交差しないように俺に向けて繰り出してくる。狙いは右目と首、心臓に太もも。どれか一つでも命中すれば戦闘不能か戦闘行為自体継続できない。狙いは違わず右目を狙った長剣は切り払い気味には眼球に当たり長剣が砕ける。首を狙った短剣も首に当たり根元から折れ刃の部分が後続に飛ぶ。心臓に向かって突いてきたさびた剣も鎧を貫通してその後砕ける。太ももを狙った槍もズボンを貫いて先端部分が砕け木の棒に成り下がった。後続の攻撃も甲高い金属音や鈍い打撃音を響かせならが周囲にしばらくそんな音を響かせる。音がしなくなった時に俺はゴブリンに囲まれていた。ゴブリンがグラマラスな美女でセクシーな衣装を着て、俺が初心な少年であれば鼻からの出血により他界していただろうが、俺の周りにはゴブリン。息はかなり臭い。しかしそれ以上のショックを受けていた。息が臭かろうとどうでもいい。今日買ったばかりの防具が全滅しようがまた買えば良い。問題はこいつらの弱さだ。問題の原点は俺だとしても集団でこれか。
「じゃあ始めよう。」
買ったばかりの鉄の剣を始めて鞘から抜いて横に薙いでみた。三つの土台から噴水が吹き上がる。土台の原材料はゴブリンであることは言うまでも無く、試すように振り下ろし、切り返すように切り上げ、突いて剣が刺さったままであるのに薙ぎ払う。剣を振るたびについでのように死んでいくゴブリン。虐殺でもこれよりはましだと思う。これでは虐殺では無くただの処理になってしまっている。スキルを使用していないただの能力値の状態でこれなのだから使ったら処理以下になるのか。そんなことを考えてしばらく剣を振り回していた。攻撃対象に刃を合わせる技術も持ち合わせていないので剣が斜めに入り腕力で振り抜くこともあり切断面が引き千切ったように歪になることも多かった。そんなことを繰り返し、刃を合わせることくらい出来るようになったと思ったら剣の耐久限界を超えたようで剣の先端が折れ全体にヒビが入り砕け散るまで一瞬だった。
予備の武器を用意しておらず、武器を失った哀れな新米の冒険者は両手を握りしめ、もっと哀れな的と化したゴブリンに拳を振るい始める。強烈な一撃を食らうと弾けたりすると文献などには書いてあるがどうやら実際は拳が突き抜けるらしい。引き抜くのも面倒なので強引に引き千切り、掌底打ちへと切り替える。切り替えたばかりは力の入れ方が分からなくて突き抜けたが、コツを摑むと相手がはじけ飛ぶようになった。蹴りを全力で打ち込むと相手が二つになった。実働テストをこなしていくと周りがゴブリンの亡骸だらけになっていて動きにくい。実際には踏み砕いているのだが地面の感覚がおかしくなってはテストにならない。
『テスト場をもう少し奥にするぞ。』
『じゃあこっちもテストを始めるわね。』
お代わり分のゴブリンが居る方向へと跳躍し着地場所にいた残念なゴブリンを踏みつぶして着地。これではさっきと変わらないなと思いながら、次は魔法のテストをとティアラの居る方向に残ったゴブリンの位置をを視野に入る限り記憶してその場所をイメージして手を横に振り払う。視界に入る全てのゴブリンは五センチ四方の肉片になってその場に崩れる。風を網状に組み上げ一気に突き抜けさせる。これが一番返り血を浴びない方法かなと思いながら振り返ると、全身に指の太さの穴が空いているゴブリンが多数。かなりの数をティアラに持って行かれていた。それも一瞬ごとに残りのゴブリンが減っていく。ティアラの持っている弓は一般的な矢の要らないタイプの弓で矢に該当する部分は魔力で補う。残弾は持ち主の魔力に依存するので気軽に使えるが長期戦には向かない。魔力によって矢を形成するので矢の形状は使用者にイメージによって変化させることも可能となる。同時に発射する弾数も自由自在だった。放った後は普通の矢と同じように飛ぶのは不思議仕様ではある。
弓矢で面の攻撃をされるとこっちのテストが進まないな。次は火でいこうか。煙草を取り出して着火。同時に前方に頭と同じ大きさの火を飛ばす。正面のゴブリンに当たり炎上。何匹か巻き込まれたがさっきの風よりも殲滅効率が悪い。イメージが悪いわけだ。素養はもう問題にして良いレベルではないし、誰も同情すらしてくれないだろう。貫通する炎のイメージか。火炎放射では範囲は上がるが効率の向上は見込めない。爆発させても近距離だと自分も巻き込まれる。温度の問題か。太陽には触れられないだったな。
可能な限り温度を上げた拳大の火球をさらに魔力を載せて打ち込む。火球からを中心として、半径五メートルくらいの射線にいたゴブリンが一瞬にして炭化、地面はガラスのように変化していた。火球は速度を落とさずに正面の山の中腹にぶち当たり被害を拡大していく。単純にやり過ぎた。このまま放置すると禿げ山になることは予想できるな、自然破壊はやっぱり良くない消さないとマズイから次は水かな。今まで見た中で一番あの被災地に近い大きさの淡水をイメージしようと記憶を漁り、ダムかと結論付ける。ダム湖と同様の体積を持った水球が炎上する山の上に生成されていき綺麗な球体が崩れ重力に引かれそのまま落下する。質量に負けたかのように炎上していた山は流れ崩れ火は消えていた。
『山を守るために火を消そうとして山を崩すのはどうかと思いますよ。』
『やり過ぎたのは自覚してるわ。今日試してみて良かったわ。』
『私の方は試したいことは大体終わったので後は任せてもいいですか?』
『おっけ。とりあえず殲滅しますか。』
残ったゴブリンの数もかなり減ってきていてもうあまり残っていない。肌の色の違うゴブリンが数体混ざってるね。初めてみるタイプが五種類か、これだけの群れなら上位種が普通に混ざってるか。リーダー役なら後ろに控えてるってのは納得できるけど実際ゴブリンじゃ無くて人間に置き換えると責任問題になりそうだな。次は地属性で終りかな。もう少し試したいとこだけど。一体だけ居るゴブリンの足下に視線を向け魔力を放つと凄まじく鋭利な角度を持つ円錐がこの中で最高レベルの上位種の股から頭までを貫通した。地属性なら地面から生える槍ってのが定番だけど実際にはあっけないな。完全に興が冷めた。残ったゴブリンの周囲に岩壁を作り押しつぶして終りにする。
目の前に滝を作りくぐり抜けるとさっぱりする。戦闘開始から今まで血まみれだったわけだし。
「結局襲われてる奴も居なかったしただテストしただけになったな。」
「やっぱり初期の強さが問題なんでしょうか?」
「いきなりハーレム要員が増えるよりはいいと思うぞ。実際助けて惚れられるとかって思い込み強すぎる気がするし。それに今日助けようとしたら多分巻き込んで殺してたと思うわ。」
「じゃあ冒険者稼業に慣れた頃にイベント発生ですかね?」
そんな馬鹿なことを話しながら街へと帰路につく。崩してしまった山のことはもう二人とも頭の中に残っていなかった。人型のモンスターを殺したことについても二人とも全く気に留めていなかった。
なお、帰りの山中でゴブリンに殺されあちこち噛み千切られたアーノルド氏を見つけ、遺髪(髪の毛が無かったので眉毛と髭で代用)とギルドの身分証と遺品を持ち物に加えて街へと向かう。フラグは立っていたが気がつかなかったらしい。




