新学期の始まりだけど期待感がない
入学式を迎えて2年生以上の在学生は式典用の制服(新入生に支給される7つ道具の1つ)に着替え新入生を迎える。新入生も俺も今椅子に座っているのだがこれは昨日俺たち2年が並べた椅子だ。
ステージの上では校長のテンプレートのごっちゃ煮みたいな話が続いている。「若い君たちが」「輝かしい君たちの未来」「国を担っていく」とか適当に入れておけば校長の話の概要になる。ステージの来賓の中にはお漏らしをしてしまう癖のある領主のバイアントが新入生相手に威厳をまき散らしているが在校生に対しては見向きもしないまま、新入生だけが緊張する入学式が終わる。
入学式を終えて早速2年のホールに向かう。この学校は4年制で学年ごとにフロアが違う。1階が共同フロア、2階が1年生、3階が2年生。学年が上がるとフロアも上がるという仕組みだ。最上階の教員フロアは学生は入る必要がないのでよく知らない学生が多い。地上6階建て学生総数4,000人弱のマンモス校である。
ホールでは各ギルドの職員が戦場のような顔で走り回っていた。なんでも、2年になった時点で各ギルドとの契約を行うのが通例だとか。加盟者稼ぎだと思うがギルドだけに利益があるわけでもない。モンスターを狩る場合だとドロップアイテムを冒険者ギルドが、鉱石などの拾得物があれば商業ギルドや製造関係のギルドで売るとこちらとしての稼ぎが増える。コアユニットについては時期により各ギルドで値段が上下するので多少であれば稼ぎが増える。
ギルドのメンバーカードについては身分証明の代わりになるし、冒険者ギルドのメンバーカードならパーティー同士の通信にパーティーとの距離と方角の確認が出来、従来通りモンスターの討伐数が自動で記録されていく。商業ギルドだと倒したモンスターのコアユニットを使用者の指定した収納用のカバンなどに距離によっては魔力を消費するが自動で収集してくれる。そのほかのギルドも専用施設の無料使用などもあって学生にとってもいいことがある。要はギルドとしては、多少優遇してでも将来の有望株を手っ取り早く自分たちの陣営に引き込みたいということなんだろう。
俺たちの知らないこととしては、コアユニット関連とその自動回収についてだったので遠距離からの攻撃でどの距離まで回収してくれるのかということに対してテストしている。学校の校舎屋上から近くの森にいるギリギリ動けばわかる程度のモンスターに向って魔法を放っているわけだが。
「そろそろ目測じゃ見えないぞ。」
「私も見えませんね。というか後半から勘でしたし。」
「広域魔法でも試さんとこれ以上は駄目か。でも地形を変えるのはマズイわな。」
ということで、その足でこの街で工房を持つことになったショーンに各レンジごとの得物を作ってもらうことにした。お約束の冒険者よりも物作りに熱心になってしまったが楽しそうなのでいいかという感じだ。宗教としては1つしかないので仏像とかは作らないで欲しいと思ってしまったが、そんな事を言ったら俺の木像を作り始めたので仏像作りを薦めておいた。なお、ショーンの工房のロゴは牛であり、一見様はお断りの店になっている。要は関係者が紹介しない限り関係者しか買いに来ない店という事だ。
「とりあえずこいつで見える限りは回収範囲内ということでいいか。」
「そうなりますね。でもこのコアはどうしましょうか?」
「普通にギルドに売り払うに決まってると言いたいが量がな。」
「たぶん卒業までに必要なノルマの半分くらいありますね。」
説明すると俺とティアラは屋上の端のほうに寝そべって成人男性の腕のようなスコープ付きのライフルを構えているという状況にあり、その横にはすでに破れて細切れになった回収対象先に指定した布の上に山になったコアユニットがあった。コアユニットの山の高さは俺の伸長を超えているし山の数も1つではなかった。
「でも隠すような内容でもないし普通に売るか。問題は運搬だけどな。」
「拡張されたカバンでも市販のものだと駄目ですね。自前で用意したもので運ぶことにしましょうか。」
「ショーンは裏方のほうがいいのかね?」
「ノエルが戦闘向きではありませんし、ショーンももともと牛ですから、基本頭突き主体では無理がありますよ。」
茶髪の小麦色のイケメンはもともとは牛だという事を再確認しながらなぜ物作りは牛に適しているのかと悩みそうだ。
俺とティアラが使用しているライフルはショーンが作った物だがおそらく人に対して使用すると目標の人物を簡単に2つにしてしまうような威力がある。対物ライフルを参考にしている事はおそらくな違いない。弾薬を淹れるマガジンはなく魔力によって弾丸を形成するタイプだ。実際に銃の形をしているが魔法の杖に分類される。学内で持ち歩いているとこの対物ライフルは魔法使い特有の武器であるスタッフとして認識される。激しく物騒なスタッフだと思うんだけど。
今更ながらこの世界には火薬がない。というよりも火薬を必要としていないので作っていないという方が正しい。なぜなら魔法があるから。銃という概念もあるけれど銃の利点は魔法で十分に補えるし動作の数的にも魔法に劣る。それならば流行らないわ。
学内にあるギルド総合カウンター(購買)に行くと商業ギルドのメンバーカードを俺の自前の鞄に変更してもらい自動回収テストで得たコアを全部精算してもらう。毎年学年に1人くらいはこのくらいの数を精算しに来る学生がいるようなので特に驚かれるような事はなかった。学内から出ていないという事をあえて言う必要性も感じなかったし。受付のお姉さん(おそらく学生バイト)には「初日から張り切るとあとで大変ですよ」などと笑顔と共にアドバイスされる事になった。
実際精算したコアは学生に課せられた3人分の在学中のノルマに該当したとのことなので余りを現金でもらい、ティアラに勧められるままに学生中には必要になる事はないだろう度無しのメガネと白衣を2人分買うことになった。学生生活には使わなかったが帰宅したあとで就寝前に使用した。
翌朝登校して魔術関連の授業に参加し昼休みに差掛かったところで職員室(講師の溜り場だが職員室という)に呼ばれ、すぐに学長室に案内され学長本人から特待生待遇になれるとの説明を受けた。入学した1年から成績が良かったのも考慮されているという事なので珍しい事でもないだろう。直接の原因は昨日のコアだろうがね。特待生待遇になるとその学年では入る事が出来ない平均的に強いモンスターがいる地域での活動が許可され、希望すればギルドの特別授業を個別で受けられる。話をまとめたら「君たちは優秀だからもっとコアを集めてね。卒業後はきちんとギルドに参加して学校と学長である自分のことをアピールして」ということだった。
この学校は平民から貴族までの子供を対象に平等に入学できるが、資金の出所など問題になるので名家の子供は特待生で入学してくる。暗黙の了解というやつらしいのだが俺は知らなかった。ノキオに対して殺意が沸きそうだ。
特待生=金持ちのボンボン
優等生待遇=実力上位者
ということだ。俺は特待生にはなれないが特待生の待遇にはなることが出来るということだ。特待生待遇になるには在学中にノルマをこなせば誰でもなれる。誰でもなれるのであれば断る必要がないので了承しておいた。その後学長が資料棚から20人前後の顔写真つきの履歴書を持ってくる。
「この男子学生は上級貴族の長男で今後君たちを公私ともに支えてくれるだろう。この女学生は王族とゆかりの深い家の出なんだが、今はパーティーに恵まれていないのであまりいい成績を残せそうにないのだよ。」
「なんでそういう人たちを薦めてくるんです?見た限り戦力にならないメンツですよ。」
「いいじゃないか、2人では今後の活動も限られたものになるし人脈を強くしておく事も大切だよ。お得じゃないか。別にパーティーだからと言っても現地に連れて行く必要もないんだしね。」
「(めちゃくちゃ必死だな学長)戦力にならないメンバーは必要ないですし人脈については自分の方で何とかしますから大丈夫ですよ。」
「何とか出来ると言うが後になってからだと大変なんだよ?だからね。」
「学長、よろしいですか?」
「君はティアラ君でしたね。どうしました?気に入ったパーティー候補が見つかりましたか?」
「私たちのパーティーには一太郎以外の男性は必要ありません。女性については一考しますがこの中には有用な人材がいません。良い成績を付けたいということでしたら権力に弱い方を見繕った方が良いと思います。私たちは今後もパーティー単位で必ず動きます。それにその方たちが亡くなったら困るのではないですか?モンスター討伐の遠征中に事故が起こると簡単に死んでしましますよ?死体も残らない可能性があります。そうなった場合責任はどうなるんでしょうか?学生は学校の庇護下にありますので責任は学長がとられるのでしょうか?」
「パーティーメンバーは後々自然に増えていくだろうから今は急ぐ必要はないね。じゃあ2人とも特待生として頑張って勉強に励んでくださいね。」
必死な学長がさらに必死になり体質を許可された。どうやら学長は実績よりも保身に天秤が傾く人のようだ。それよりもさっさと昼飯を食わないと残り物しか選択肢がなくなると食堂へ急ぐ。とんかつ定食(ご飯大盛り)を摘まみながら気になった事を聞いてみた。
「パーティーメンバーを増やす事については賛成なのか?」
「戦力の拡大は必要ありませんがこのままでは面白みに欠けます。家に帰れば2人切りなんですし、それ以外に面白味を持たせてもいいかと思いましたよ。男は必要ありませんが。」
「すっかり男嫌いになったな。」
「入学式後の騒動を考えれば自然とそうなります。人妻を口説くというのはどういう思考の持ち主なのか。それに興味もありませんし。」
「馬鹿な男の話はいいとして、そのうちにいい子が見つかるだろ。増えたら増えたで面倒事になりそうだけど。それに武器のテストもあるし今すぐは無理だろ。」
「確かにテストはする必要がありますね。けれど女性が増えないと不都合がありますよ。強者が女性を囲むのは王道ですし、女性同士の話し合いが出来ません。ガールズトークが必要です。」
「ハーレム願望はないけど、ガールズトークは俺とじゃ無理だな。まぁ、ティアラと気が合うような女の子が見つかるといいけど。」
女のメンバーが増えると男としては面倒なんだよな。一種の清涼剤は必要かもしれないけれど妻を持つ身として妻以外の女性は厄介事の種にしかならない。ティアラは正妻が自分であれば数人増えても問題にしないようだけど絶対に揉める。修羅場に巻き込まれる。魔王に挑む勇者というのが王道ならハーレムで修羅場も王道。円満ハーレムなんて夢を見るほど子供ではない。夢を見ないほどの大人にもなれていないだろうけど。もしもの話は後で考える事にして、まずは武器のテストと魔術関連の知識を増やさないと問題になりそうな事が多い。特に攻撃魔法の威力と有効距離とかがね。




