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タイトル未定2026/04/28 16:08

「わあ、こんなに大きいの!」


異世界からやってきた二人の少女は、国境の関門を囲む城壁の壮大さに口をぽかんと開けて立ち尽くした。それはドキュメンタリーで何度も見たことがある万里の長城のように、圧倒的な存在感を放っていた。


ワーンは左右を見渡した。城壁は見渡す限り遠くまで続いており、高さ5メートルもある巨大な門扉が唯一の入口となっていた。多くの衛兵が立哨し、街を出入りする人々を厳しく監視している。城壁の上にも、油断なく見張る兵士たちの姿があった。


「すごい!まるで古代戦争映画の城壁みたい!」


ホクトはその巨大な城壁を目を輝かせながら眺めていた。まるでかつて映画館で観たヨーロッパの中世戦争映画の世界に迷い込んだかのようだった。


「まず衛兵に話しかけて、入城の許可をもらわないといけないわ。身分証明書の確認もあるから、準備しておいてね!」


「身分証明書!?」


ワーンとホクトの顔色が曇った。ここ数日間、自分たちがどこから来たのかすっかり忘れていた。この小説のような世界でも、官公庁との手続きには身分証明書が必要だったのだ。


純粋な心を持つ若き魔法使いは、新しい友人の二人が人間大陸の別の街から来たものと思い込んでいた。転移魔法か転移道具の誤作動で、自分の目の前に落ちてきたのだろうと。


「私たち、身分証明書を何も持っていないの、ファリス」


ファリスは二人に微笑みながら、身分証明書がなくても入城はできるが、通常より高い入城税がかかると説明した。


「お金も持っていないわ」


「え!」


ファリスは笑顔のまま固まった。身分証明書のない者の入城税は一人あたり銀貨50枚。二人がお金を持っていないと明言した以上、これは大きな問題だ。


彼女自身も、そこまでの余裕はなかった。旅の資金として持ち合わせているのは、銀貨25枚だけだったのだ。


「どうすればいいのかしら!」


ファリスは眉をひそめ、顔を曇らせた。新しい仲間たちとパーティーを組んで冒険者になる話をしたばかりなのに、早くも壁にぶち当たってしまった。


三人は頭を突き合わせて考えた。ライケン関門の入口付近で太陽が地平線に向かって傾きはじめていた。城門の閉門時間が迫っている。このまま解決できなければ、夜を城外で過ごすことになってしまう。


「ファリス、あの大きなヌメリ生物の鱗は売ればいくらになる?」


「大まかに計算すると……銀貨200枚くらいにはなると思うわ」


「じゃあ、あなたが先に入城してそれを売ってから、私たち二人を迎えに来てくれればいいじゃない」


ファリスは沈みかけた太陽を指差した。


「もうすぐ門が閉まるわ。ギルドで売り終えてから戻ってくる時間はないと思う」


新たな問題が浮上した。入城税の問題は解決できそうだが、閉門時刻という新たな障害が立ちはだかった。


ワーンはダークブラウンの瞳をぼんやりさせながら頭を掻いていたとき、一人の女性が関門の入口に向かってこちらへ歩いてくるのに気づいた。


その女性は背中の真ん中まで届く漆黒の髪を持ち、30代前半と思われる端整な顔立ちをしていた。黒い襟付きシャツと黒いロングパンツの上に、黒い長いコートを羽織っている。しかし、その眼差しは冷酷で、凍りつくような冷たさをたたえていた。


異世界からやってきたタイ人の少女は急いでその女性の前に立ちふさがった。見知らぬ人物に行く手を阻まれた女性は、しかし驚く様子もなく、表情ひとつ変えなかった。


「何の用だ、邪魔をして」


「少しお願いがあるんです!」


ワーンは、ライケン関門に入るお金がないこと、しかし魔物から手に入れた素材を冒険者ギルドで売る予定があることを説明した。そしてその女性に、先にお金を立て替えてもらい、売れたらすぐに返すと頼み込んだ。


「いいわよ。問題ないわ。ついてきなさい」


ワーンの目が輝いた。ファリスとホクトに手を振って呼ぶ。二人は、ワーンがこんな方法で問題を解決するとは思っていなかった。頭の回転が早く、機転が利く。しかも運まである。


四人は城門に向かって歩き出した。衛兵はすぐに彼女たちに気づき、確認を求めてきた。


「身分証明書をご提示ください」


身分証明書を持っていたのはファリスだけで、彼女は魔法学校発行の通行証を持っており、エール市への旅が認められていた。残りの三人は身分証明書がないため、それぞれ銀貨50枚の入城税が必要だった。ファリスの入城税はわずか銀貨5枚だった。


「え、こんなに安いの!?」


「そうよ!冒険者の特権なの。まだ正式な冒険者じゃないけど、この証明書でも同じ扱いを受けられるわ」


ワーンとファリスが話し合い、手続きが済むと四人は無事に城内へと入ることができた。

城内には2,000から3,000棟ほどの家屋や商店が立ち並び、多くの人々が行き交っていた。商人、旅人、冒険者たちが集まり、賑わいに満ちていた。


「すごく人が多いね!」


ワーンとホクトは目をキラキラさせながら興奮していた。異世界の街並みを初めて目にして、人々の生活様式はまるで歴史の本で読んだ中世ヨーロッパのようだった。


「あなたたちはエール市に冒険者になりに行くの?」


「そうです。あなたのお名前は?」


「マリアよ」

ファリスと見知らぬ女性が言葉を交わした。ファリスはマリアにお礼を言い、魔物の素材を売るためにギルドまで一緒に来てほしいと頼んだ。売れたら、立て替えてもらったお金を返すためだ。


「終わる頃には夜になるわ。明日の朝でいいでしょう」


マリアはいつものように冷静な眼差しで言いながら、コートのポケットに手を入れ、口をしっかり縛った小さな布袋を取り出すと、ファリスに差し出した。


「これは何ですか?」


「銀貨100枚よ。受け取りなさい」


「銀貨100枚!?こんなに受け取れません」


ファリスは静かに、しかし丁重に断りながら袋をマリアの手に押し返した。その様子を見てマリアは大きなため息をついた。


「これは貸してあげるの。明日、魔物の素材が売れたら返してくれればいい。受け取りなさい」


マリアは再びファリスに袋を差し出した。ファリスは金額の大きさに複雑な表情を浮かべた。


「それでも……受け取れません」


ファリスはなおも断った。これだけの大金を受け取っては、強欲で恥知らずな人間に見えてしまう。


「受け取りなさい。もうギルドの買取窓口は閉まってるわ。そのお金で宿を取って、他の二人の服も買ってあげなさい。変な格好をしてるし、おまけにひどく汚れているわよ」


マリアはファリスの手に袋を押し込み、自分が泊まる宿の名前と場所を告げると、そのまま宿に向かって歩き去った。ワーンとホクトは、自分たちの格好が変で汚いと言われたことに顔を引きつらせていた。


ファリスは顎に手を当て、頭のてっぺんからつま先まで二人をしげしげと眺めた。


「なんでそんな目で見るの、ファリス?」


「マリアさんの言う通りね。必要なものを買いに行きましょう。早く宿に戻って休まないといけないし」


ワーンとホクトは少しむっとしながらも、おとなしくファリスについていった。いくつかの店を見て回り、洋服屋に到着した。二人はそれぞれ動きやすくて好みのスタイルの服を3〜4着選び、新しい靴と革のベルトも購入してレジに向かった。


「全部で銀貨20枚です」


店主が告げると、ファリスがさっと支払いを済ませ、三人は店を出て宿へと向かった。


「あんなにたくさん買って、銀貨20枚だけ?マリアさんがくれた金額って、やっぱりすごく多かったんだね」


ホクトがぽつりと言った。この世界の物価は分からないが、もらったお金と実際に使った金額を比べると、確かにかなりの大金だとわかった。


「だから受け取りたくなかったのよ」


ファリスはため息をついた。見知らぬ人からそれだけの大金を受け取ったことに、まだ罪悪感が残っていた。マリアの気持ちは分かる。気の毒に思って助けたかったのだろう。でも金額が大きすぎる。翌日返すと約束したとはいえ、見ず知らずの人間をそこまで信用するのは危険だ。もし三人が逃げてしまったら、マリアは100枚をそのまま失うことになる。


「それは別に不思議でもないわよ」


ワーンが口を開き、二人の視線を集めた。


「マリアさんは美しいけど、どこか気品があって、威圧感もある。普通の人とは違うわ。大商人の娘か、貴族の娘かのどちらかね」


「貴族のお嬢様や大商人の娘が、一人旅なんてするわけないでしょ、このおバカ」


ホクトはうんざりした顔でワーンの推理を却下した。ファリスは二人のやり取りを聞き流しながら、マリアより先に入った宿へと三人を連れて行った。


フロントで部屋を手配すると、3人で泊まれる広めの部屋が1泊銀貨3枚で取れた。高くはない値段だ。スタッフに案内されたのは、宿の裏手にある平屋の建物だった。部屋に着くと、スタッフは鍵を渡して去っていった。


三人が室内に入ると、ベッドが3つ、棚、ワードローブ、そして奥に浴室があった。シンプルで豪華さはないが、清潔だった。浴室には大きな石造りの浴槽があり、素焼きの土管で大型水タンクに繋がれた給水システムが備わっており、ワーンとホクトが元いた世界とそれほど変わらない印象だった。


ファリスは二人に交代で入浴するよう促した。ホクトはロングパンツと半袖シャツという一般的な下級冒険者スタイルに着替え、ワーンはシンプルな半袖Tシャツと短パンを選んだ。二人とも革ベルトを締めた。


「とりあえずその格好でいきましょう。エール市に着いたら、もっといいものを買い替えましょうね」


ファリスは微笑みながら言った。見知らぬ世界からやってきた二人が新しい服に慣れず、ぎこちなく動き回る様子を楽しんでいた。準備が整うと、ファリスはワーンとホクトを連れて宿の向かいにある食堂へ向かった。数日間の旅の後、夕食をとって休もうというわけだった。


異世界の二人はまだ新しい服に慣れず、ぎこちない歩き方をしていたため、ファリスはそのたびに笑いをこらえるのに苦労した。そうこうするうちに日が暮れ、街は魔法灯篭の光に照らされて輝いていた。


三人はお腹を空かせて食堂へ向かった。宿の向かいにある二階建てのレンガ造りの建物で、ざっくりとした看板が食堂であることを示していた。外には木のテーブルと椅子が3セット置かれ、外で食べたい客のためのスペースとなっていた。柱には魔法の灯篭が明るく灯り、その根元には赤い花の鉢植えが飾られていた。


入口の扉は硬い木の厚板で作られた頑丈なもので、床から2メートルのアーチ型をしていた。入口の枠は石造りでアーチ形に積み上げられており、両側に魔法灯篭が吊り下げられていた。


食堂に入ると、マリアがすでに座っていた。彼女は手招きして同じテーブルに招いた。全員が席に着くと、ウェイターがメニューを持ってきた。ワーンとホクトはそれを手に取り、興味深そうに一ページずつめくっていった。


「ホーン・ラビットのロースト、パン添え。これって草原で出会ったあの子じゃない!」


「レッド・ジャイアント・スネークの辛口ソース炒め。この世界って蛇も食べるの!?」


ホクトがぼそぼそとつぶやいた。ファリスはふと二人を振り返り、不思議そうな顔をした。なぜこの二人がこの世界の文字を読めるのだろう?


ワーンは自分の頭をぽりぽりと掻いて困惑した。突然、この世界の文字が読めている。学んだことなど一度もないのに、まるで母国語のようにすらすらと読めてしまうのだ。


「なんでこの世界の言葉が読めるんだろ、ホクト?」


「私も分からない!文字には見覚えがないのに、全部の意味が分かるの!」


その瞬間、二人だけではないことを思い出した。顔を上げると、マリアがまばたきもせず、じっとこちらを見つめていた。


「話してくれないかしら。あなたたちのことを」


ワーンとホクトは顔を見合わせた。マリアに話せば、何か助言がもらえるかもしれない。もしかしたら、家に帰る手がかりが見つかるかも。

二人は決意し、最初から最後まで、すべてをマリアに打ち明けることにした。

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